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復讐者の再臨

 魔王城、最奥。

 その場には俺たち勇者四人と、敵である魔王だけがいた。


「よくぞここまで来たものだ。一番前にいる貴様が聖剣に選ばれし勇者か、その割にはどこにも武器が見当たりはしないが」


 魔王は素手の俺を見て興味深げにそう言った。

 そこで、俺は魔王の間違いを正してやることにする。


「いや、聖剣ならあるさ――ここにな」

「……む」


 突如として俺の手の中に現れた金色の剣を見て魔王は眉をひそめる。


「俺と聖剣は一心同体だ。故に、俺の中に聖剣を内包するくらい容易いことに決まっているだろう」

「ふっ、なるほどな。その剣で俺を殺そうとするか! 面白い! やってみるがよい!」

「ああ、言われずともな」


 王座から立ち上がり、漆黒の魔力を立ち昇らせる魔王。

 それを前にして、俺も純白の神聖力を体に纏う。

 そんな俺たちに合せるように、俺の後ろにいる仲間――否、旅の同行者であるクレイド、ミーナ、カルドが武器を構える。


 そうして、長い長い旅に終わりを告げる最終決戦が始まった。



 ◇◇◇



 どれほどの間、戦い続けたのだろうか。

 俺の目の前には魔王の死体が転がっていた。

 魔王自身の黒色の血と、俺の体から流れ落ちた赤色の血の海の中に。


「はぁ、はぁ、はぁ……くっ」


 横に大きく切り裂かれた左の横腹を抑え、俺は倒れそうになるのをこらえる。

 戦いに勝ったというのに、こんなところで倒れてしまいたくはない。


「……あと、一撃だけだ」


 俺はそう言って聖剣を大きく振りかぶった。

 そして、魔王の死体を完全に消滅させるために力強く――


「カースド・フリグル」

「……あ?」


 ――瞬間、黒色の光が俺の体を貫いた。

 その光の正体が魔力であることに俺は気付いた。


 魔力と神聖力は決して混じることのない二つの力。

 より大きな力が、もう一方を呑み込む。

 その例に倣うように、その魔力は瞬く間に身体の内側を駆け巡り、俺の持つ神聖力を消滅させていく。

 通常ならば防ぐことのできた程度の威力の魔力だが、魔王との戦いによって体力を消耗した俺にそうすることはできなかった。


 それに、対応できなかった理由はそれだけではない。

 その魔力は魔王を含む敵ではなく、共に旅をしてきたはずの者による攻撃だったのだから。


「油断したな、英雄」

「……カルドッ!」


 その魔力を放ったカルドに視線を向けると、奴はにやりと気味の悪い笑みを零した。

 人の身でありながら神聖力ではなく魔力に選ばれたその存在は、もう既に俺に対する敵意を隠そうとはしない。


 いや、カルドだけではない。

 他の二人、ミーナとクレイドも同様だった。


「彼の言う通りよ、あなたはここで死ぬべきなの!」

「魔王を倒した今、この世界にとって最大の脅威は聖剣に選ばれた君だ。故に分かるだろう、君は存在していちゃいけない人間なんだよ」

「お前ら……!」


 旅をする中で、アイツらが俺に対して敵意を抱いていることには気付いていた。

 だが、まさかこのタイミングで暗殺を仕掛けてくるとまでは予想できていなかった……!

 このまま俺は、為す術もなく奴らに殺される――


「――ふざけるな!」


 こんなところで殺されてやる謂れはない。

 身体の中を巡る魔力によって消滅されながらも微かに残った神聖力を操作すると共に、俺は聖剣を振りかぶる。


「俺が、お前らに、殺されてやるものか――!」


 そして、全力で振り下ろした。

 神聖力から生み出された眩い光が、今俺たちがいる魔王城を破壊していく。

 その最後の足掻きを見て、彼らも血相を変えた。


「ッ、カルド! アレにトドメは刺したはずじゃないの!?」

「そのはずだ! こんなもの、ただの悪足掻きに決まっている!」

「けどこのままじゃ巻き込まれるわよ! 聖剣の回収もできないわ!」

「今はそれどころじゃないよ。それに彼さえ消えるのなら、聖剣を失おうとも問題はない」


 結論が出たのか、奴らはすぐさま身を翻し魔王城から逃げていく。

 残されたのは俺と魔王の死体のみ。

 やがて俺達は、魔王城の崩壊に巻き込まれていった――――



 ◇◇◇



 崩壊する世界、消滅していく身体。

 死に至ろうとする中で、俺は不意に昔のことを思い出していた。


 クソみたいな人生だった。

 幼い頃に両親を盗賊に殺され、俺は妹と二人きりで生きてきた。

 幼い子供が二人では職や住処を手に入れられる訳もなく、盗みなどを繰り返すことによって生き長らえていた。

 それも妹さえいれば、それだけで俺は幸せだった。


 だけど、その日々は小さなきっかけによって、全て壊れることになった。


 俺と妹は当時、王都の片隅に息を潜めるようにして暮らしていた。

 ある日、俺はいつものように王都の商業区にまで盗みをするべく足を延ばした。

 けれどどういうことか、その日俺はいつも通っているはずの道に迷い――そして、その遺跡の前に辿り着いた。


 なぜ王都の中にこんな物があるのかという疑問を抱きながらも、何かに惹かれるようにして遺跡を降りて行った。

 そしてその先で、台座に刺さる聖剣を見つけた。

 その柄を握り締めてそっと引くと、聖剣は簡単に抜けた。

 どうしようかと戸惑う俺の前に、複数の鎧に身を包んだ兵士がやってきた。

 俺は王様のもとにまで連行されることになった。


 曰く、その聖剣は英雄にしか抜くことができないと。

 遺跡そのものも、その存在を知っている者以外では、英雄にしか見つけることができないと。

 それらの情報を統合し、英雄として選ばれたであろう俺は人々の敵である魔王を討伐する責務があると。

 そんなことを、長々と話された。


 だが、俺に英雄になるつもりなどなかった。

 妹と暮らせさえすればそれでいいと、そう断ったのだ。

 その判断が全ての間違いだった。


 俺が身寄りのない子供あることを知った国は、王都にいる妹を見つけ出すと、牢獄に入れた。

 そして俺に言った、魔王を倒さなければ妹を返すことはないと。

 それから、俺の奴隷のような日々が始まった。


 妹と会わせてもらえるのは年に数度、それ以外はひたすらに特訓の日々。

 妹が人質にされている以上、逃げることもできない。

 なのに周りからは、どうしてあんな奴が英雄として選ばれたのかと非難が飛んでくる。


 それから数年後、力を得た俺は魔王討伐の旅に出ることになった。

 俺と同年代で実力のあるクレイド、ミーナ、カルドの三人が同行することになった――が、彼らが俺に向ける視線は他の奴らと同じ。

 どうして、こんな奴が英雄なのかというものだった。

 それに気付いていた俺は、必要以上の言葉を交わすことなく旅を続けてきた。


 そうしてようやく今日、魔王を倒すことに成功したのだ。

 妹は解放され、幸せな日々が戻ってくるはずだった。

 なのに、なのに――――


(どうして俺が、死ななければならない)


 命を賭けて魔王を倒した末に与えられる唯一のものが、どうして裏切りでなくてはならない。


(なぜ俺達だけが、幸せな日々を取り戻すことを否定される?)


 どうしてアイツらだけが、魔王のいない平和な世界を取り戻せるのだ。


(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな――――!)


 憎しみが集う。

 これまでは何とか耐えてきた。

 だが、もう我慢できそうにない。


(俺が、殺す)


 俺と妹から幸せを奪い、自分だけが悠々と生きようとする存在を!


(全て――――殺す!)


 そのためにも。

 俺はまだ、死ぬ訳にはいかない。


 眼前に迫った死を塗り潰すような漆黒の殺意を抱きながら。

 俺は必ずここから生き抜くこと。そして奴らに対する復讐を誓った。



 ◇◇◇



 ――三年という、長い時間が過ぎ去り。


 ようやく、彼は蘇った。


「……なんとか、生き抜くことには成功したか」


 身体を軽く動かしながら、彼は自分の調子を確かめる。

 すると満足がいったのか、「うん」と頷き。


「よし、これなら大丈夫そうだな」


 そう零すと、何かを探し出すように周囲を見渡した。

 彼がいるのは魔王城が崩壊した末に生まれた瓦礫の山。

 その中にあったある物を見つけ、彼はにやりと笑った。


「この聖剣も無事残っていたか。丁度いい」


 彼が掴んだのは、かつて魔王を殺した聖剣そのものだった。

 だが、今回に限ってはその聖剣が魔王討伐に使われることはない。

 少なくとも彼は、そんなことを考えてはいない。


「奴らに復讐するには、これがなくては始まらない」


 英雄を英雄たらしめた聖剣。

 聖剣があったからこそ英雄に選ばれ、そして殺された。

 そんな聖剣で彼らを殺せば、どれほど心は満たされるだろうか。


「さて――では、復讐を始めようか」


 彼は聖剣を強く握り締めながら、「むっ」と呟く。


「そう言えば、さすがに元の名のまま活動するわけにはいかないな。さて、どうするか」


 考え込むような素振りを見せた後、彼は言った。


「決めた。元の名から繋げよう」


 かつての英雄の名は、ルクス――


「――スコール、それがこれからの俺の名だ」


 そうしてこの日。

 この世界に、復讐者が降臨した。

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表紙絵
― 新着の感想 ―
[良い点] シンプルなタイトルながらも復讐をするひとが主人公だとわかり、かつ再臨とあることから敵が世界規模の巨大な相手だということがうかがえます。 明るく楽しいラノベとは一線を画す作品なのだろうな、と…
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