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忌憚幻想譚《キタンゲンソウタン》  作者:


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10/10

落ちてくる空

 いいか、よくわからない話をするぞと前置きされて「空が落ちてくる」と言われたら、普通どう返すだろう。


 僕がする話もよくわからん話だけど、気持ち悪いというか不安というか……だから聞いてほしい。


 僕はその話をされた時、つい言ったんだ。


「……は? 意味わからん」


 いや、本当にわからんのだから仕方ない。


 でもそれを言った本人は大真面目な顔で言う。


「空が落ちてくるんだ、毎日、少しずつ」


 よくよく聞けば夢の話だった。


 本人からすれば毎日同じ夢、それも「落ちてくる空」の夢だから気持ちが悪いんだとか。


 空は毎日、毎日、少しずつ近ずいているらしい。


 想像もできんと言ったら、両腕を伸ばした自分に向かって空が――見渡す限りの空が落ちてくるんだと答える。


 まるで空に吸い込まれていくようだと。それがそこはかとなく怖いから逃げたいと。


「そんなんさ、例えば山のてっぺんに居たらそこはもう空の中じゃないんか? そんで今いるこの場所だって空の一部ってことにならんか? そんなら、空が落ちたときは水ん中にでも逃げ込めばいい」


 僕が適当に返すと、そいつは「なるほど」と頷いた。


 そして翌日、橋から川に落ちて行方不明になった。



 ――目撃者は言った。



 突然、こう……両腕を高く伸ばしたと思ったら、空を見ながら跳ね上がって、叫んで、落ちてった、と。


 意味わからん。


 跳ね上がって?


 叫んで、落ちた?


 橋から、川に??


 そして……目撃者はこう続けた。


「あんな跳ねたら――そう、空が落ちてくるように見えるんじゃないかね。それくらい高く跳ねとったん。いや、人間が跳ねられるもんかなーあんなにて言うくらい跳ねたよ。そんで一旦着地したんだが、最後は逃げるみたいに川に飛び込んでん」


 ……と。



 本当に意味わからん。


 だけど何があったかなんて知りたくもないし、知ろうとも思わん。


 水に逃げ込んだ理由も知らん。知る必要がない。



 ……僕のせいじゃない。


 絶対に僕のせいじゃない。



 ――そうだよな?



よくわからない事が、

もしや自分のせいかもしれないと知ったとき。

紡がれるのは得体の知れない不安譚。

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