落ちてくる空
いいか、よくわからない話をするぞと前置きされて「空が落ちてくる」と言われたら、普通どう返すだろう。
僕がする話もよくわからん話だけど、気持ち悪いというか不安というか……だから聞いてほしい。
僕はその話をされた時、つい言ったんだ。
「……は? 意味わからん」
いや、本当にわからんのだから仕方ない。
でもそれを言った本人は大真面目な顔で言う。
「空が落ちてくるんだ、毎日、少しずつ」
よくよく聞けば夢の話だった。
本人からすれば毎日同じ夢、それも「落ちてくる空」の夢だから気持ちが悪いんだとか。
空は毎日、毎日、少しずつ近ずいているらしい。
想像もできんと言ったら、両腕を伸ばした自分に向かって空が――見渡す限りの空が落ちてくるんだと答える。
まるで空に吸い込まれていくようだと。それがそこはかとなく怖いから逃げたいと。
「そんなんさ、例えば山のてっぺんに居たらそこはもう空の中じゃないんか? そんで今いるこの場所だって空の一部ってことにならんか? そんなら、空が落ちたときは水ん中にでも逃げ込めばいい」
僕が適当に返すと、そいつは「なるほど」と頷いた。
そして翌日、橋から川に落ちて行方不明になった。
――目撃者は言った。
突然、こう……両腕を高く伸ばしたと思ったら、空を見ながら跳ね上がって、叫んで、落ちてった、と。
意味わからん。
跳ね上がって?
叫んで、落ちた?
橋から、川に??
そして……目撃者はこう続けた。
「あんな跳ねたら――そう、空が落ちてくるように見えるんじゃないかね。それくらい高く跳ねとったん。いや、人間が跳ねられるもんかなーあんなにて言うくらい跳ねたよ。そんで一旦着地したんだが、最後は逃げるみたいに川に飛び込んでん」
……と。
本当に意味わからん。
だけど何があったかなんて知りたくもないし、知ろうとも思わん。
水に逃げ込んだ理由も知らん。知る必要がない。
……僕のせいじゃない。
絶対に僕のせいじゃない。
――そうだよな?
よくわからない事が、
もしや自分のせいかもしれないと知ったとき。
紡がれるのは得体の知れない不安譚。




