喰ベル
ん?おっ、来たのか。ずいぶん遅かったな。
異形が吹っ飛んだ方向の反対側には
ユーリ、キース、カイト、レイヴンがいた。
灰黒コンビは険しい顔をして異形を注視している。
異形はもろに攻撃が当たったらしく、
いくつか腕がもげている。
自分の髪の毛で腕をつないでいたようだ。
大量の焦げた髪が縮れて美しい花畑に落ちては腐敗していく。
それでもなお、我々を襲おうとこちらに体を向ける。
粘着質な腐敗した体液がごぽりっとこぼれた。
さらに眉間に皺を寄せたユーリは
異形を燃やそうとロケットランチャーらしきものを撃つ。
炎弾が異形を焼くと思いきや、
少なくなった腕であの少女たちを鷲掴みにして身代わりにする。
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ、、、、』
先程の甲高い声と違い、
生命活動が停止するときの断末魔だ。
皮膚と骨は黒炭になり、あの腐った体液は蒸発していく。
酸素が吸えなくなり、コエは途絶え静寂が訪れた。
が、リッごリゴリコリ、、くちゃくちゃ、、、ぬチャ
何かの咀嚼音が響く。
あぁ、よくあるやつだな。
音のする方を見るとやはり、残りの少女を喰べていた。
心臓や肝臓を引きずりだし必死に顔を埋めて血まみれになりながら喰べている。
喰われるかもしれないのに少女たちは変わらずニコニコと笑っている。
ただ、敵の前でのんびり食餌をするのは
よろしくないと思うぞ?
空に飛んでいたレイヴンたちが音もなく急降下し、その猛禽類独特の鋭い爪で異形の胴を裂く。
大きな翼を羽ばたかせながら、
豆腐を切るかのようにスッと鉤爪が通っていく。
抵抗も虚しく異形はあっという間にバラバラに解体された。
背中から縦にぱっくりと開き
血色の悪い内臓と枯れ枝のような骨が覗いている。
継ぎ接ぎの腕はそこら中に落ちていた。
顔は乱れた髪で隠れてる。
そして、かろうじて生き残っていた少女や異形の骸はあの腐敗しきった体液になって溶けた。
じわじわと広がる体液の後に、拳サイズの石が残った。
カイトとレイブンは自分の役割は果たしたとばかりに
毛づくろいをしている。まるで猫だ。
異形が倒れたことにより、花畑の楽園が崩壊し始めた。
空間自体に亀裂が入り、蝶は霧散し、
異形が倒れていたところの花から枯れていく。
「脱出するか。レイヴン、どこからここに入ったんだ?」
レイヴン
「あっち」
指差す方向を見ると、大地がまんまるな口を開けていた。
その穴は黒い絵の具で塗りつぶしたかのようで奥はまったく窺い知れない。
「撤収するか。」
還る前、キースがさっきの拳サイズの石を回収したのを目の端に捉えた。
やはり魔水晶か。
魔水晶があれば自身の魔力を回復できるからな。
資源の少ないこの土地では重宝するのだろう。
穴を抜けると、目の前はよく整えられた植え込みで後ろから光がいくつか差し込んでいた。
寮の裏側のようだ。
生徒たちが集まって教員らしき人たちが
寮内に戻るよう指示している。
とりあえず、恭平の腕を治療をしてもらった。
その間に起こったことを軽く話した。
もう夜も更けたし後日詳しい話を聞くということになって解散になった。
治療が終わっても教員たちはまだ話を聞きたそうだったけどな。
入学早々ぶっ飛んでるな。