041話 新たなる魔王、《屍術王》の降臨
一度くらいはハイファンタジーでランキングに乗りたかった……
【元魔王である《暴竜王》タイラントレックスを黄泉帰らせ、現魔王の一人である《不死王》ルナ・バートリーを侍らせ、《猛火王》と《堕落王》までも退け配下に置いている】
「それが何か? 俺は《十二界王》サイドと敵対しているつもりなどないが?」
【人間とはいえ、もはや到底貴様は《十二界王》を束ねる私としても無視できない。よって、空席となっていた第四席の座を用意しよう。《魔王》としての地位を貴様に与える】
「……へぇ、その席次には何か意味があるのか?」
【人類に対しての脅威度であると、《七聖天帝》が定めていた気がするが、私としては魔王の中での位の高さ、要はカリスマ性、そして世界に対する影響力だと考えている】
「ルナ、お前は第何席だっけ?」
「わたくし《不死王》ルナ・バートリーは第九席ですわ」
ヒツギの質問に、隣で佇んでいたルナが簡潔に答える。
その答えに、ヒツギは「そうか」とだけ呟いた。
「しかし、俺は魔の森の王として、ミッドヴァルトを治めるだけで手一杯なのだがね」
【今までとやることは変わらない。ただ世間体が変わるだけだ。ヒツギ、アーガスの姓は捨てろ。貴様はこれより魔王の一人――《屍術王》と名乗るのだ。人類の敵としてな】
(元より人として生きることはやめたつもりだったが……結局、最後の最後まで、自らの意思で、アーガスという性を捨てることはできなかった。ここが潮時か……)
シークエンス・エンドの言葉に、場にいる全員が静まり返った。かつてアーガス王国の王子として生きた、人間であるヒツギがどんな決断を下すのか。それをただ見守る。
「……蓋世王。仲間にはなるが、お前の部下になるつもりは毛頭ない」
【それでよい。私とて得も知れぬ『人外の人』をどう扱えばよいか見当もつかぬからな】
「いいだろう。それで交渉成立だ。たった今、俺は――《屍術王》は人類の敵に回った」
「主君、よいのですか?」「おい、ヒツギよ」「ちょっ、だ、旦那様!?」「本気ぃ~ヒツギちゃん?」「さすがはボスだ。ついに魔王か」「ま、ウチはどーでもいいけどさ」「ん? ひーくんまた偉くなったの?」「それがヒツギくんの意志なら別にいいんじゃない」「はぁ……」
「……色々意見はあると思うが、同時に喋るな。お前ら、仲良しか?」
ヒツギは、ホロウ、タイラントレックス、ルナ、リリス、ウルル、クイン、バーミリオン、ラクラ、そして最後にやれやれとため息を吐くフィリシアを同時に諫める。
そして再び、ヒツギは蓋世王との会話に移った。
「では、これより私は――《屍術王》ヒツギ・ハイフォレストと名乗ることにしよう」
魔の者になるに至って、あえて疎ましい前世での『高森』という性を選んだ。
「それで? 蓋世王よ。何か、お前からの《ギフト》はないのか?」
【無論、あるとも。私の《世界式改竄》によるこの通信は、大陸全土に伝わっている。音声だけではあるがね。《魔王》として世界に認知された貴様の体には、今まで以上の魔力が充満しているはずだ。《屍術王》個人としては、死の象徴である『砂』――土属性魔術に絶対的な耐性を得る。逆に命の象徴である『海』――水属性魔術が弱点となるがな】
元々、屍術師としてその側面はあったが、それがよりいっそう強調された形か。
「……チッ、現状で満足していたというのに、余計な穴を空けてくれたものだ」
【ふっ、ヒツギよ、もっと驕れ。慢心せよ。ハンデなくして《魔王》の座は楽しめんぞ】
不満を漏らすヒツギ・ハイフォレストに対し、蓋世王は薄く笑うと接続を切った。
「一方的な奴め。……というわけだ。モニカ、悪いな。たった今、ヒツギ・フォン・アーガスは姓を捨て、魔王の一人、《屍術王》と相成った。つまりは……お前たちの敵だ」
「そんな! 兄さん……っ!」
「よって貴様ら人間との交渉も打ち切り。この戦場にて散ったすべての死体をアンデッドとして我が軍門に加えようと思う。邪魔はしてくれるな。今日は貴様らを殺す気はない」
「……彼等の亡骸を簒奪しようというのですか? 遺体すら家族の元には返さないと?」
「死体は死体だ。命を失った以上、ただの肉塊に過ぎない。であれば、この私が有効活用してやろうという、せめてもの慈悲のつもりなのだが。お気に召さないかね?」
屍術王の平淡な言葉に、モニカ・フォン・アーガスは顔を曇らせる。
「兄さんは、もう昔とは変わってしまったのですね。優しかった兄さんは……もういないのですね。私に柔和な笑顔を見せてくれた兄さんは……もう、いないのですね?」
「そんな者はいない。お前たちが、この私を国外に放逐したときからな」
頬の端から涙を流すモニカに対し、ヒツギは特に感情を見せることもなく言い切った。
「モニカァア! そんな男、もう捨て置け。今! そいつ自身が口にしたであろう。人類の敵に回ったと。そこにいるのは魔王の一人、《屍術王》――超一級駆逐対象である!」
ベントレーの雄叫びに、モニカはビクンと震え、遠のきかけていた意識を取り戻した。
「聞けぇええい者共! ならぬ、あってはならぬ! 我が国から史上初の人間である《魔王》を出しては。アーガス王国兵よ、この場で人類の敵、《屍術王》ヒツギ・ハイフォレストを排除せよ!」
一瞬困惑の色を見せた後、王子であるベントレーの命に兵達が行動を示した。
それは敵対姿勢。元アーガス王国第二王子、ヒツギ・フォン・アーガスはすでに死んだという判断。人間としてではなく、世界を脅かす《魔王》として排斥しなくてはならないと。
ヒツギは《魔王》へと至る。
ついに物語は最終局面へ。




