表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国外追放されたので『魔王』に成った  作者: くろふゆ
第五章 支配者の蹂躙
30/38

036話 force one's way into

 ◇ ◇ ◇ 


 ミッドヴァルト北東上空、アーガス王国とカルトガルド公国国境付近にて。


「映せ……《黒鏡くろかがみ》」


 ヒツギの詠唱と同時に、彼の前面に黒い縁の大きな鏡が現れた。


「《接続コネクト》――ヒルデガルド・エーベル」


 その呟きに鏡が応える。硝子の中に一人の女性が映し出された。


「……あら? これは《黒鏡》ですね。人類の敵である《黒の魔女》が《七聖天帝》の一人、《放縦帝》であるこの私……ヒルデガルド・エーベルに何か御用でしょうか?」

「お久しぶりです、先生。お元気にしていましたか」

「もう! 私の素っ気ない態度はスルーですか。相変わらずのご様子ですね、若様」


 二年前と変わらぬ笑顔でヒルデが笑う。今回、ヒツギがアーガス王国に手を貸そうと思った理由の一つには、彼女がアーガス王国の軍事魔導顧問を務めていることにもあった。


「ねぇねぇ、ひーくん、このおばさんだーれ?」

「ボスに対して、随分と馴れ馴れしいババアだな」

「でも、その片眼鏡はオシャレね。センスは悪くないわ。ウチには劣るけど」


「……あのねぇ、私はまだ二十五歳ですぅ~。おばさんでもババアでもありません~。確かに、あなたたちからしたら、あ、あれかもしれないけれど……。初めまして御三方」


 ヒルデがバーミリオンとウルルとクインに対して一礼してみせる。


「そうか。お前たちはヒルデとは初対面だったな。彼女は人間とはいえ、俺の魔術の先生だ。あまり無礼な態度を取ると、俺も機嫌が悪くなる。今後は気を付けてくれ」

「そうとは知らず、申し訳ありませんでしたボス! ヒルデさんもすみません」

 ウルルが急いで頭を下げた。彼女の尻尾がしゅんとうなだれている。


「ふふっ、プライドが高いワーウルフが人間に敬意を払うだなんて、若様も愛されていますねー。ヒルデちゃん、とっても安心しました。新しいお仲間も良い人たちですね」


 ヒルデは、ウルルたち亜人のことを『良い人』と言った。

 そういった些細な一言からも、その人となりが窺い知れる。


 初めて見た、ヒツギの《黒鏡》に興味津々な三人とは裏腹に、すでにそれでヒルデと対話したことがある、リリス、フィリシア、ホロウ、ラクラ、ルナ、は平然としている。


「ヒルデ、もうすぐ戦線に合流する。というか、完全に乱入だな。どうする?」

「あら、無条件で助けてくださる気になったのですか?」

「助ける? バカを言うな。現地で死体調達をするついでに、気紛れで蹴散らすだけだ」

「相変わらず、若様はツンデレですなー。ホントは妹のモニカ様が心配なのでしょう」

「それだけではない。お前のことも心配だ。カルトガルド公国には《軍火帝》がいるから」


《軍火帝》、エルシア・ディッセンバー。世界に己の名を公表している、カルトガルド公国の武器製造者にして軍事顧問。その製造技術の高さ、質、用途等から、ヒツギは地球からの転生者ではないかと睨んでいる。この世界では珍しい、白衣を常に着ているという開発研究が恋人の病的な女だ。昔、一目見たことがあるが、左目は義眼で緑色に発光していた。


「……まさか《七聖天帝》になった私を心配してくださるのが、魔物サイドの《黒の魔女》一人だとは皮肉なものですね。形式は問いません。お好きに暴れてくださいな」

「お前こそ、相変わらずのアバウトさだな。いいだろう。勝利だけは保証しよう」


 懐かしさに、楽しそうに笑いながら、ヒツギは《黒鏡》のチャンネルを切った。


「ヒツギ様ぁ~、見えましたよ。先陣は誰が切ります? わたくしが行きましょうか?」


 ルナ・バートリーが背中に生えた黒い羽根を楽しそうにバサバサと羽ばたかせる。


「いや、ルナ。今回は俺の我儘で始まった戦だ。ここは俺が切ろう」


 ヒツギは《支配者の椅子》の上で、目元がくり抜かれた灰色の仮面を顔に付ける。

 ごく一部の人間以外に正体がばれないようにするための、余所行きの代物。それを付けることで、自分がただの人間ではないと自覚し、スイッチを入れるための儀式でもある。


 そうこうしているうちにも、アーガス王国とカルトガルド公国の戦場に着いた。


「とはいえ、俺は所詮ちっぽけな、ただの人間だからさ。頼んだぜ、みんな」


 ヒツギの信頼の言葉に、配下が目を光らせた。今こそ自分をアピールする場だと。


 幾人かの兵士たちが、遥か頭上に浮遊するタイラントレックスの姿を目に収め、にわかに騒ぎ始める。やがてその騒乱は波紋となって広がり、視線を一点に集める。


 その上で、ヒツギは高らかに宣言する。偉大なる、魔の森の王として。


「揺るがぬ意志で、世界の真なる悪を裁く、魔の森の王――ミッドヴァルトの征服者、《黒の魔女》たる『私』は、故合って一時的にアーガス王国の味方となろう」


 その宣誓と同時に、タイラントレックスが重低音の唸り声を上げて下降する。


「悪いな、みんな。私の家族のためだ。例え忌み嫌われた《屍術師》になろうとも、私を育ててくれたアーガス王国への恩義はここで返す」


「お気になさらず。あなたというお方は、本当に義理堅いお人だ」

「私は~、いつも通り好きにやらせてもらうけど、それでいいのよね~?」

 相反する答えを返す、ホロウとリリスにヒツギは頷いた。


「ホロウとリリスは好きにしろ。フィー、バーミリオン、ラクラ、クインは一般兵を相手にしつつ、アーガス王国兵を救援してやってくれ。ルナとウルルは、分かっているな?」

「ええ、人間ゴミの命を貪り散らかして、派手に吹き飛ばせば良いのでしょう?」

「いつだって、オレはボスの期待に応えるだけだ。オレは敵将を見つけて……殺す!」


「……まったく、頼もしいな。任せたよ、私の大切な仲間たち。では、行こうか」


 数名の人間を踏み潰し、地面に着地したタイラントレックスが吼えた。


「蹂躙しろ、タイラントレックス!」

「うじゃうじゃと、鬱陶しいザコ共が! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す!」

 タイラントレックスが翼を広げ、全身を旋回させて周囲の人間を無造作に蹴散らす。


「好きに暴れるがいい。お前の本領を見せつけるときだ」

「我に指図するな、ヒツギ。……邪魔だ、クソ蝿共が! 《ギガントマギア》!」


 スカルドラゴンの振るう猛威が、両陣営構わずに襲いかかる。


「……ド、……ドラゴン!? それも異常に大きい……。決して、誰かに従うような存在では……。しかも骨!? あり得ない。これだけでも、主人の度量が伺える……っ!」


 カルトガルド公国の兵士長が、困惑に満ちた叫びを上げた。


「我が《デミ・レギオン》よ! 為すべきことはただ一つ、我々の力を見せつけろ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ