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国外追放されたので『魔王』に成った  作者: くろふゆ
第三章 魔の森の激闘
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027話 領域外の戦士

 確かにストーンゴーレムは強力な魔物ではある。外部からの衝撃に強く、耐久性に優れている。だが、ヒツギに言わせれば、硬さに物を言わせた剛腕が武器の、ただの岩屑だ。


 ダークエルフの女性と少し離れた場所から、ヒツギは遠慮がちに声をかける。


「あ、あの~、もしかして、助けが必要だったりします?」

「……! っ! に、人間ッ!? なっ、なんで、こんな魔の森の奥に……!」

「まあまあ、今はそんなことを訊いている場合じゃないと思うけど?」


 右の振り下ろしをダークエルフの女性に躱されたストーンゴーレムが、威圧感のある唸り声を上げて、今度は左足を持ち上げ、そのまま彼女を踏み潰そうとする。


 ダークエルフは身を捻って魔弓を引き絞り、ストーンゴーレムの頭部に放った。


 その矢はストーンゴーレムの顔面に直撃し、顔と思われる部分の左半分を吹っ飛ばしたが、数秒後には何もなかったかのように再生していく。


「……悪い、私では対処しきない。亜人である私が人間にものを頼むなど、礼儀知らずと思われるかもしれない。けれど現状はこれだ。すまないが、助けてもらえないだろうか」

「人間も亜人も関係ないでしょう? 困った人がいれば助ける。そこにややこしい理由はいらない。ケルベロス、彼女を頼んだよ。俺から距離を取ってくれ」

「……っ! そうか、あなたはそういう人間なのだな……」


 ヒツギは《ショートジャンプ》で、一瞬にしてストーンゴーレムの眼前へと転移する。


「さぁ、戦いの始まりだ。速攻でカタをつけてやろう」


 颯爽と駆けるケルベロスが、ダークエルフの服を口で咥えて自分の背に投げ、上に乗せて運び、間合いを置く。これで準備は整った。後はこの高まった魔力を解き放つだけ。


「消し飛べ、ザコが! 《シャドウボール》」


 前に構えたヒツギの右手のひらから、紫黒色の巨大な球体が生まれる。


 その塊が勢いよく射出され、ストーンゴーレムの胴体にヒット。その巨体をバラバラに粉砕し、形を保っていた全身を崩す。だが、直撃を避けた右の肩口から、赤紫色に光る核のようなものがコトンと音を立てて地に落ちた。直観的に嫌な予感がする。


「ダメだ! ストーンゴーレムは、体のどこかにあるコアを直接破壊しない限り、半永久的に復活を繰り返す」


 ダークエルフが言った通り、派手な土煙が巻き起こり、それが晴れた後には、先程とまったく同じ姿をしたストーンゴーレムが、ヒツギの目の前にいた。


「面倒な奴だな」


 膨大な魔力によって、仮初の命を与えられた土塊の自動人形。攻撃力、防御力が高く、魔術にもある程度耐性がある。だが、体内にあるコアさえ破壊すれば……否、


「次は一撃で全身を消し飛ばす」


 そう考え、筋肉を一度緩めて脱力し、体内魔力を爆発的に解放する。


 しかし目の前のストーンゴーレムは、目だと思われる位置を赤く光らせると、全身を激しく発光させた。網膜が焼け付き、思わず目が眩んだ。極光に飲まれる。


 視力が戻ったとき、自分のすぐ近くにいたはずのストーンゴーレムは消えていた。

 否、ストーンゴーレムがストーンゴーレムではなくなっていたというほうが正しい。


「……く、クリスタルゴーレム。まさか、こんなときに限って……進化したのか……!」


 ダークエルフの女性が少し後方で、綺麗な目を曇らせ苦い顔で嘆く。


「おい、人間! クリスタルゴーレムには魔術が一切効かない! ここまで肉薄されては逃げ切れるかは分からないが、私が囮になる。あなたはもう逃げろ!」

「……魔術が効かない? ということは肉弾戦か? 悪いが、そいつは俺の専売特許だ」


 ヒツギの体から紅蓮の闘気が立ち上る。紅花から受け継いだ『武』の力。


「《肉体機能増幅フィジカルエンチャント》! 《ブースト》! 《ブースト》!」


 増幅した身体能力をさらに何倍も何倍も増加させていく。多少は体に負荷がかかるが、日頃からしっかりと肉体を作っているヒツギにとってはなんの問題もない。


「魔術が使えなくなったら戦えません。って、そんなの戦士じゃねぇだろ」


 猛烈な加速でクリスタルゴーレムに接近し、腰から特殊加工された戦闘用ナイフを二本引き抜き、クリスタルゴーレムの体を前面から駆け上がりながら、縦横無尽に斬り刻む。


 だが頭部にナイフを差し込んだ瞬間、ナイフは二本ともひび割れ、無残に砕け散った。


「チッ、やはり装甲は厚いか! 慣れない武器は使うものじゃないな」


 そう毒づくと、ヒツギはクリスタルゴーレムの頭部を蹴り付け、宙を舞う。

 その際に、先程核を露出させた、クリスタルゴーレムの右肩を睨み据えた。


「人間! ゴーレムの核は復活する度に位置が変わる。次も右肩とは限らないぞ」

「さっきから、人間、人間、ってうるさいな。俺の名前はヒツギだ。そう呼べ」


「そ、そうか。すまない、無礼だった。私の名前はフィリシアだ。――って今はそんな風に、呑気に自己紹介をしている場合じゃないだろう!? ヒツギ、ちゃんと前を見ろ!」

「はいよ、火闇混合魔術! 《炎獄怨火葬えんごくおんかそう》」


 クリスタルゴーレムの全身を、黒い炎の渦が包み込み、焼き焦がす。


 しかし、その火が消えた後に姿を露わにした、クリスタルゴーレムの体には、燃え跡一つ付いておらず、さっきナイフで削った箇所以外は、文字通り無傷だった。


「だから! クリスタルゴーレムには魔術は効かないと言っただろう、ヒツギ! あなたは私の言葉を信じていないのかしら? それともやけになったか?」

「実験だよ、フィリシア。魔術が効かない? それはどこまで? 別に無効化する力場を作っているわけではなさそうだ。《肉体機能増幅フィジカルエンチャント》は使えている。なら次に試すのは――」


 何やら気を損ねたらしい、クリスタルゴーレムが両腕を順に振り下ろしてくる。

 それをヒツギは、両腕に焔を纏った《炎舞えんぶ》でいなす。火の粉はゴーレムに付かない。


「ほう、なるほどね。では、《束縛する鎖レストレイントチェーン》」


 ヒツギの両手のひらから大量の黒い鎖が出てきて、クリスタルゴーレム体を縛り付ける。

 その魔術は無効化されず、見事なまでにゴーレムの体を雁字搦めにした。


「があっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 クリスタルゴーレムは、近場にあった大きな石の塊を左足で蹴り飛ばす。


 その先には、退避していたケルベロスとフィリシアがいた。


 ケルベロスは身を翻して回避する。ヒツギはフィリシアを連れて距離を取れという命令をそのアンデッドに下してはいたが、彼女を守れと言う命令は下していなかった。


 置いていかれたフィリシアは、咄嗟に魔弓を構えようとするが、どうやら利き腕を痛めていたらしく、右手が痺れて矢を落としてしまう。そんな彼女が死を覚悟したとき――


「その女に手を出して良いとは言っていないのだがね、《岩石の檻ロックケージ》」


 ヒツギが地面に右手を付けていた。フィリシアの頭上に落ちてくる岩の塊を、彼女の前方に出現した土の壁が阻んだ。その間にフィリシアが後ろに下がろうと振り向いたときには、後方にも土壁がせり上がっていた。彼女の反応速度を上回る速さで、左右からも分厚い土壁が現れ、フィリシアを全方位囲み、それが格子状になり、鳥籠のような形になった。


「強度は問題ない。フィリシア、キミはこの戦いが終わるまで、そこで見ていたまえ」

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