002話 初めて女の優しさに触れる
高森柩が中学を卒業して高校に入学した日、彼は紅花にファーストキスを奪われた。
「悲しい記憶も、寂しい思いも……私が忘れさせてやるよ」
紅花のほうが柩よりも背が高いため、頬を紅花の両手に包まれ、顎を持ち上げ無理やり上を向かせられた。柩は少し背伸びしながらも、震える手で紅花の躰に縋る。
(……凄い。初めてだけど、キスってこんなに気持ちいいんだ)
頭がふわふわする。それとも、相手が紅花だからなのかな……
紅花の躰がビクンと跳ね、甘い吐息を漏らした。普段は強い意志を宿している瞳は熱っぽくとろんとしており潤んでいる。胸に熱いものがこみ上げてきた。
紅花になら何をされても構わない。むしろ求められることは嬉しい。
「……ん? もしかして、こういうこと初めてか? どうりで女に耐性がないわけだ」
「そう……だけど……んっ! 紅花が、初め……て」
「ふーん、童貞か。じゃあ、お前の初体験は全部私のものだ」
鼓動が速くなる。快楽の残滓が躰を巡り、力が抜けたところを紅花に支えられた。
紅花が「お前が一つ大人になった記念だ」と言って、頬を赤く染め、ほんの少し恥ずかしそうに笑っていたのを覚えている。柩の躰には、甘い脱力感がまだ残っていた。
「柩は、私のだからな。誰にもやらん。先に唾を付けておく」
「うん、俺は紅花のものだ。だから、ずっと側にいてくれ」
「言っておくが、これから先も、私が我慢できるとは限らないからな」
そう言って、肩にもたれかかる紅花の重みと温かさ。小さな幸せを感じる。
「なんでもするから、俺を一人にしないで」
「分かった。これからは寝る前と朝起きたときに、キスをしてから挨拶をすること」
今度はより深く、またキスをされた。
「お前はよく頑張っているよ。誰が認めなくても、私が見ている。一人で辛い気持ちを抱え込まなくてもいい。お前には優しくされる権利がある。その努力は報われなければならない。私が『師』である以上、最後まで見捨てない。ふふ、お前を逃がしはしないさ」
紅花はいつも柩のことを見てくれていた。理解してくれた。守ってくれた。いつでも味方になってくれる。迷ったときに道を示してくれる。教えるべきことを分かるまでしっかりと教えてくれ、自分を伸ばしてくれる。一つ先の世界へ連れて行ってくれる。
「柩、お前はもっと年上の女に甘えるべきだ。大丈夫、私が側にいるよ」
紅花といると安心した。でも、それでいて胸の奥がきゅんと締め付けられる。
最初は変わった女だなと思っていただけなのに、大人の女性である紅花に甘える心地良さにいつの間にか溺れてしまい、彼女から離れられなくなってしまった。
心も体も、もう、凰紅花がいないと生きていけない。
R18に触れたためカット多数