025話 棘の道
◇ ◇ ◇
「貴様の呪われし力を他国に渡すわけにはいかない。貴様はアーガス王国のために《魔の森》で死に、アーガス王国の礎となるのだ。ふふふふ、ははははは!」
ベントレーの陰湿な嗤い声と最後のセリフが脳裏をよぎった。
……眩しい。太陽の日差しで目が覚める。まだ躰が甘く痺れていた。
躰に残る心地良い気怠さに、ヒツギは昨日行われた調教を思い出した。自分は眠りから覚めたのではなく、リリスによって無理矢理飛ばされた意識を取り戻したのだと。
じんわりと汗が滲んでいる。躰の奥がじんじんと疼く。
「……んっ、あ、あぁ……ん」
あのとき強引に脱がされた服は、皺もなく綺麗に着せられている。
リリスに襲われたのが陽の沈みかけた夕方。そして今は朝だ。
あのままずっと失神して、意識を失っていたのだろう。
倦怠感は拭えないが、同時に肉体的には精力が漲り、傷も癒えている。
これなら一人でも魔の森の探索を続けることができそうだ。
ヒツギは、アーガス王国から課せられた使命、魔に選ばれた《十二界王》――《魔王》の一人、《不死王》ルナ・バートリーを殲滅しなければならないのだから。
そのための一歩を踏み出そう。例え行く先が地獄だったとしても、前に歩み始めた以上、引き返すべき道はいらない。もう帰る場所も、待っていてくれる人もいないのだから。
ゆっくりと少し歩き、リリスが張ってくれていた結界に内側から強烈な魔力を流し込むと、ゼリーが崩れるようにどろりと溶けて、霧のように霧散した。
相手が悪魔とはいえ、これだけは礼を言わなければならない。
「さてと、じゃあ行くか」
そうは言っても、どこに向かったものか。
アーガス王国兵はみんな死んでしまったので、ここからは一人旅だ。自分が今いる位置も把握していないし、標的であるルナ・バートリーの居場所も分からない。
アーガス王国の調査の結果では、彼女は魔の森の東よりの位置に居城を持っており、その魔城の名を《ブラッドムーン》というらしい。《眷属》と呼ばれる配下も大勢従えているので、一人で倒すことは不可能だろう。そもそもタイマンでも勝てるかどうかも怪しい。
「ならば、こちらもここで兵力をここで補充しておくか。今の俺にはもう《屍術》を使うことに対する躊躇いはない。これも俺の力だ。使えるものは、すべて使わせてもらうぞ」
リリスのおかげで全身に力が漲っている。魔力の流れも十分だ。
「《屍術》――《下位アンデット作成》」
周りに転がっていた、アーガス王国兵たちの死体がゾンビとなって立ち上がった。
「《操眼》! 《死体操作》」
自らの王国兵の屍を、紅に輝く魔眼で操る。そのまま三十分ほど、アーガス王国兵の屍を縦横無尽に操作し、死体の動かし方のコツを掴んだ。
「よし、後は……《地獄門・屍檻》」
地面に浮かび上がった禍々しい漆黒の扉に、屍達は飲み込まれていった。
R18に触れたためカット多数。