014話 先生と生徒
周囲には砕かれて舞い上がった無数の岩が。この地の成れの果てと示す。
視界が晴れた先では、ヒルデが水属性魔術の防護壁――《アクアウォール》で自分の体を守っていた。対するヒツギも、闇属性魔術の絶対防御――《地獄門》でしっかりと余波によるダメージを防いでいる。
「まさか、自分より八歳も幼い子供相手に、火属性の極大魔術の一つ、《天火爆撃》を使うことになるとは思いませんでしたよ。成長しましたね、若様」
本当に嬉しそうに、まるで自分のことのように、ヒルデが笑顔を見せる。
(……これだ。これが見たかった。三年間お世話になった先生の、ヒルデのこの笑顔が)
彼女に、ヒツギ・フォン・アーガスと出会えて良かったと思って欲しかった。
「じゃあ、もういいよな。本気を出しても。『切り札』を……使うぞ」
「……は? はいぃ? 切り札は、さっきので、終わりでは? え? まさか、この展開は……いつもの……」
「ええ、俺は先生の驚いた顔を見るのが好きですから」
快活な笑顔で、ヒツギは本心からそう言う。
「あ、あの~、私、負けたらどうなるのでしょうか?」
「怖いのか? もう負けたときのことを考えているとは、負け犬の思考だな。この雌犬」
「……わ、私も一端の魔術師だぁあ! こうなったらやってやんよぉおおお!」
彼女が見せる驚きには、いつも期待と歓喜が入り混じっている。ヒルデは生粋の魔術師だ。魔術師の本能が、もっと高みの領域を求めている。
「俺が先生をもっと上のステージに連れて行ってやる!」
闇属性魔術、《ショートジャンプ》を発動し、瞬間移動でヒルデの背後を取る。
「読んでいますよ。いまさら近接戦ですか、懲りませんね! 《水神拳》!」
「これが真の切り札! 《虚空暗黒領域》」
ぞぞっと広がる闇。蜘蛛の巣を張り巡らせるように、確実に標的を網に捕らえる。
自身の半径3キロメートル内の、すべての魔術師の魔術を無効化する、ヒツギが編み出した究極の闇属性魔術。魔術師の存在ごと否定する、もはや魔術を超えた呪いの類。
「……なっ……!?」
「俺は……踏み越えてみせる。限界の、その先を……!」
無属性魔術の《肉体機能増幅》と水属性魔術の《水神拳》。その両方を打ち消され、武術経験の浅い、ただの正拳突きになったヒルデの拳は、いとも簡単にヒツギに払われる。
ここから先は、魔術なしの『武』の世界。ならば、決着は一瞬で着く。
「終わりだ。秘門――《六大開・虎撲》」
六種の型からなる中国拳法の戦闘理論、その運用法の一つ。
ヒツギは震脚を踏みながら、両掌をヒルデの胸に叩き込む。本気で撃ち込めば、胸骨をへし折り、呼吸と心臓を止める大技。それが直撃する寸前のところで止める。あまりの迫力に空気の流れが変わった。一陣の風が吹き、猛烈な覇気が飛び散る。
「……ま、参りました。私の負け……です。若様……」
ヒルデの口から降参の声が上がった。
「じゃあ、ご褒美をもらおうか。いつもされているセクハラの仕返しだ」
ヒルデのすぐ近くに寄ると、芳醇な雌の香りがする。
R18に触れたためカット多数。
015話は全年齢版では丸々すべて掲載できません。
よって次話の更新は016話となります。