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神様の依り代|オモチャ|  作者: 愛華
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第一話 前兆

念願の高校生活への第一歩となる入学式へ向かう道中。

目の前にはこれから毎日のようにくぐることになる高校の大きな校門と、入学を祝う立て掛け、

そして三年というわずかな青春の一時を過ごす校舎。

すべてが新鮮に満ちていて、心踊らずにはいられなかった。

さらには、レンガで覆われた地面には惜しくも散ってしまった桜の花弁が散りばめられていて、

あくまでも散ったのは入学生を出迎えるためだと言わんばかりの美しい桜に満ちた通り道が出来ていた。

あまりの美しさに絶句していると隣から

「きれいね」と一足早く桜道へのコメントする声が聞こえた。

「お前な…」

青年は隣にいる少女に向かってジト目で、はあ、とため息をこぼしてみせる。

「え、何よ、素直に口に出しただけじゃない」

青年からお前呼ばわりされた少女は素直な気持ちを青年にため息によって避難されたと感じたのか、必死に弁護しようと慌てふためいた。

「それにっほらっ」

「こんな桜道より、お前の方がキレイだ…」

「なんだ、乙女ゲーの鉄板言いたかったのか、わかったわかった」

青年が一言放った途端に、少女は青年をあしらうような態度に変わった。

もちろん、本来の普通の男女であれば、微笑ましいただのイチャつきになるのであろう。

普通ならば。

そんな年の近そうな青年と少女を後ろから訝しげに見つめる二人がいた。

二人は未だに漫才のような乙女ゲーの鉄板の実演ごっこ(?)を繰り返す男女のことをあくまで他人、

というよりいない者だと思わせるかのように隣をすっと歩いて追い越していく。

「まったく、オレらが変な目で見られちまう」

「でも本当にキレイだね、この桜道…」

男女を追い越した二人もまた、同じ年くらいの青年と少女であった。

乙女ゲーの実演に盛り上がっていた二人は隣をいつの間にか追い越してスタスタと前を行く青年と少女にようやく気がついたのか、慌てて追いつこうと走り出した。

その、刹那。

「ヘル・ファイア‼」

後ろから聞こえた叫びに近い女声とともに、レンガと桜に満ちた二人の足元から唐突に火炎が舞う。

しかし火炎は人には害を及ぼさないのか、熱くもなく、熱波さえなかった。

走ろうとしていた二人の足は火炎によって動きを制限されてしまう。

「なっ、何⁉」

「あつく、ない…?」

二人は思わず口をあんぐりとあけてしまった。

突然目の前で火炎が舞い、その火炎に熱がないという摩訶不思議な現状なのだ。驚いて当然であった。

すると、現状に戸惑う二人に向かって先ほど火炎を起こした本人であろう女性から声がかけられた。

「えーっと、エミリア=ギルスティーナとシグレ=ゼーレントであってるかしら」

「は、はい…」

「何ですか…?」

普通に返事を返してしまったが、二人は顔を見合わせ、はて、と首をかしげた。

さもあらん、謎の火炎を発生させた張本人から、名乗ってさえもいないのに唐突に二人続けてフルネームで呼ばれたのだから。

「さっきはごめんなさいね、あなた達は依り代に選ばれたの。」

「より…しろ?」

「は、はあ……」

ゲームや漫画などの創作物でしか見聞きしたことのない言葉に二人は不信感を抱いた。

そもそも選ばれた、とは何なのか。

「すみません、悪いんですがあなたの変な趣味に付き合う気は…」

シグレと呼ばれた青年は目の前の女性から逃げようと、断りの言葉を入れようとする。

しかし女性はその隙さえ与えなかった。

「マリア様が呼んでるの、拒否権はないわよ」

女性はそういうとエミリアとシグレの腕を強引に掴んだ。

「なっ、ちょっと‼」

「おいっ放せ‼」

二人は逃げようともがくが、女性の腕を掴む力は想像以上に強くビクともしない。

エリシアならまだしも、男子であるシグレでさえも振りほどくことはできなかった。

二人は女性からまるでペットのような扱いを受け、余計に腹が立ち必死にもがいて腕から解放されようとした。

しかしそんなことをもろともせずに

「ハイハイ、暴れないで頂戴ね」

とまるで赤子をあやすようにつぶやくと、二人の腕をさらに引き寄せ自分の方へ二人を抱きかかえるような態勢をとった。

その途端に二人は自身の体に不思議な感覚が渦巻いてゆくのを感じ取る。


――――そしてそれと同時刻、目の前の景色は変わっていた。

先ほどの美しい桜道は360℃どこをみても見当たらず、まるで別世界に飛ばされたようであった。

火炎を生み出した女性から抱きかかえられた途端に異世界へと飛ばされてしまった。

二人にとっての感覚はそれ以外の何かになることはなかった。

「やっぱり依り代の器なのね」

自身の体に渦巻いている感覚と、突然に変わってしまった景色に戸惑いを隠せずキョロキョロとあたりを見回している二人を女性は見つめながらそう呟く。

その呟きは、まるで二人を気の毒に思うかのようだった。

さて、女性は軽くのびをしたかと思えば、気を取り直したのか、くるりと踵を返しどこかへ二人を案内しようとする。

「さ、アリア様の元へ行くわよ」

要件をささっと一つだけ述べて、スタスタと先へと歩いていこうとする女性に対して説明の無さや扱いに怒りを募らせていたシグレは完全にキレているようだ。

「おい、さっきから何がどうなってる、説明しろ」

と、クールではあるものの、殺気さえ見えそうなほどの威圧で女性に問を投げかけた。

しかし、

「その必要はありません」

あろうことかシグレの怒号に言葉を返したのは例の女性ではなかった。

聞き覚えのない女声が後ろから透き通るように聞こえてきたのだ。

「うちのセレナがごめんなさいね。セレナ、まったくあなたって子は…魔法で脅して困惑させて、さらには無理やり【こちら側】に連れてくるなんて、それが正当な態度と言えるのかしら」

「す、すみません…早く【こちら側】へ連れてくるのはこの方法が一番早くて…」

「いいわけは無用よ」

火炎を立て、セレナと呼ばれた女性は突然あらわれた女性にこっぴどく怒られ、しゅんとなる。

話を聞く限りではセレナは女性を思って行動したのだろう。

話を終えて、本題に入るべくセレナを叱っていた女性はエリシアとシグレへと向き直った。

「私はアリア、アリア=アルテミス。あなたたち依り代を呼ぶ…降ろし屋といったところですね。

 さっきはセレナが強引にこちらに連れてきてしまったことを謝るわ。それで本題なのだけれど、あなたたちには依り代になってもらうべくこっちの世界に来てもらったの。手を貸してくれるかしら」

アリアは二人に真剣な眼差しで思いを伝えたようだった。

が、

「とりあえず依り代がわからないんですケド」

「そもそもここどこ…」

もちろん二人にはアリアの思いなど伝わらなかった。

「そうよね、でも真剣なのよ」

と、アリアはもうひと押しするも

「真剣だとしても、そもそも知らないことが多すぎます、というか早く元の世界に返して下さい」

「俺たちは入学式に行かなきゃならないんだ、友人たちに迷惑も掛かる」

二人は話なんて聞かず、早く元の世界に戻りたい一心だった。

そんな二人を見かねたのか、アリアは、ふう、と一息漏らして二人ににこっと微笑んだ。

「今はもういいけれど、あなた達の入学式が終わったら迎えに行くわ、セレナも演説があるから行かないといけないでしょうし…」

「というわけよ、帰るから身をこちらによこしなさい」

シグレとエミリアはアリアから勝手に約束を取り付けられ、再びセレナから腕を引っ張られる。

二人はもうあきらめたのか、セレナにおとなしく身をゆだねると瞬きをした途端に桜の舞い散る元の世界へと戻ってきたのを実感した。

「これ、どうなってんだろ…」

「ほんとにな…」

二人が謎の瞬間移動に脳をうならせてると前の方から声が掛かった。

「お前ら―おいてくぞー」

「おくれちゃうよ~」

と聞きなれた青年と少女の声に導かれてシグレとエリシアは走り出そうと足を踏み出した。

しかしふと思い立ったのか、シグレが踏み出そうとした足をとどめて

「俺たちが変なところに行ってた間の時間があるはずなのに、なんで二人との距離が変わっていないんだ…?」

と誰にも聞かれることなく呟く。

この疑問の解決にはセレナがよいと判断したが、先ほどこちらの世界に戻ってきてから見かけていない。

「…アリアとかいう女に聞くか…」

結局アリアと会う約束に理由を見つけ出してしまったシグレは止めていた足をまた動かして先に行ってしまったエリシアたちの元へと駆けて行った。

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