9話 もち剣、もち盾
アピスとハクリは、庭を出て森の中へと入って行く。ランタンのおかげと月あかりが道を照らしてくれて普段の夜より辺の様子がわかるので、2人はニコニコしながら魔法のことや、剣術について話をしていた。
「アピちゃんは凄いのぉ!!魔法凄いのぉ!!」
「全然じゃよ!!全然じゃよ!!飛ばせないし…もちこそ!剣術を習っていたのだろう?」
「いゃいゃ。もち剣なんてへなちょこ、だのぉ。」
ハクリは、鍛冶屋の娘であるが『使い手の気持ちを知らねばよい物は作れない。』という父の信念により、剣術をならっていたそうだ。頑なに『へなちょこ』と譲らないハクリ(もち)に、アピスは、半分ムキになっていた。アピスの魔法を褒めてくれたのはハクリが初めてで、嬉しさ反面に、剣術の方が役に立つ気がしてならないのだ。
「もち。アピちゃんに助けて貰ったのだから、なにか、お役に立ちたいのぉ!」
「そんなのいいじゃ〜。あっ!なんでモチ?ていうの?」
「えっ!?ほら、もち。モチモチでしょ??」
「なんじゃ〜それ〜!」
そういうとハクリ(もち)は、自分のほっぺにアピスの手を持っていくと。
「確かに。モチモチじゃ…」
「だろぉぅ?はっはっは!」
ハクリ(もち)は、腰に手を当てて、ほっぺをコネコネされながらも笑っている。
「おかしいのぉ!」
アピスも終始笑顔なっていた。おかげで頬が痛い。頬を自分でマッサージしながら、ハクリの倒れている場所へ辿りついた。今更ながら、リーンリーンと虫の鳴き音や、風の音まで聞こえるほど夜は静かなことに気がついた。
「あそこじゃ。」
アピスは、指をさしながらハクリの腕を引っ張り歩く。
「ほぉ!あったのぉ!もち剣と、もち盾!」
「なんじゃその名前。モチモチじゃないし結構重いのに。」
ハクリ(もち)は、しゃがみながら、剣を腰に、盾を左腕に装備をした。
「良かった〜無くなることないと思ってたけど、ワシ安心したじゃ〜。」
「アピちゃんは優しいのぉ!…っ?」
ハクリ(もち)は、立ちあがりアピスを見下ろしている。アピスはハクリが真顔なのに違和感を感じた、その時だった。
ドスッ…ドスッ…ドスッ…
背後から、足音が近づいている。アピスの顔が青ざめてゆくが、ハクリの表情は次第に力が籠もってゆくように見えた。
ドスッドスッ……ドスッ……
音が止まった。2人は、見つめ合ったまま固まっていたが、ハクリの顔が険しくなった瞬間、振り返ると。
そこには、大きな影が両腕を振り上げ爪を光らせていた!!