80話 海
サラサラと音が定期的にリズムよく聞こえてくる、なんの音なのか確かめようと体を起こそうとしたのだが。右腕が動かない。左腕は動いたので体を起こすと、目の前に広がる青色に目が自然と大きくなった。
「…。これが海かの…。凄いの…。」
初めて見る海に感動しつつも、左手になにやら柔らかいものがあるのに気がついて目線を向けると、ハクリが隣で寝ていた。
波打ち際では、鎧船でレオグとユキツグが荷物をおろして荷造りをしている。恐らく自分の代わりにハクリが船の舵を取ってここに辿り着いたのだろう。辺りを見回しても街らしきものが見えない、【カイダル】までどのくらい離れているのだろう。
「すまぬの〜もっちー…。」
ハクリの頭を撫でてやると、ムニャムニャと気持ち良さそうにして笑っている。
「お〜い!!アピス〜!!起きたのかぁ〜!!体は大丈夫なのかぁ〜!?」
レオグが遠くから声をかけてくれている。体のおかしなところはある、右肩から右手の指先まで全く動かない。胸の痛みは無くなっているから安心したけれど、魔法を使うのは怖いと感じる。
「大丈夫じゃ〜!!…。右腕動かないけどの…。」
胸の石の様子が気になるけど今は見る勇気が出なかった。胸の石の辺りに違和感が残っている。
でも海はとても不思議だ、定期的に波が押しては引いてを繰り返しているし細かい砂で辺りは白っぽくすら見える。それに風が独特な匂いがする。
しばらく体の異変を忘れて海を眺めていると、レオグ達が荷物を抱えてこちらへ歩いてくる。
「アピスー!!海はどうよっ?ハクリなんか船の舵取りながらずっと、ほぉほぉ言って賑やかだったんだぞ??魔力使いきってすぐ眠くなってたけどな…。ガハハ!!」
「レオグ…。ワシ『氣』も『魔法』も使えなくなってしまったようじゃ…。」
海の感想を伝えるより先にそんな言葉が出てしまった。
「はっ!?冗談は突然気を失うので足りてるんだが…。使えなくなったっておめぇ…相当体調でも悪いのか??」
これから先の旅路で足を引っ張ってしまうのなら、いっそここで石のことを話した方がいいのだろうか。
「…。良くわからないんじゃが…。駄目っぽい!!こんなことってあるのかの〜?」
「ん〜…。オレは聞いたこともねぇなぁ…。ユキツグは聞いたことあるか??」
「…。拙者もないでござる。かたじけない。」
「と、とにかく!!もっちーを起こして【カイダル】へ向かおう!!」
「おう…。あんま無理するんじゃねぇぞ??」