68話 ダーテ
そして、50号ゴーレム倒しも日課となり、セレンと共に40号を倒しに行ったりもした。
レオグの言っていた水属性魔法がここまで有力なものだとは思わなかった。硬いゴーレムでもコアを覆う鉱石を剥がしてしまうので、40号も難なく倒せてしまった。
それでも30号からは、なかなか水属性魔法も効き目が落ちてくるという。鉱石の質も上がり水属性で鉱石を剥がすより、高熱の火属性が効くようになるらしいのだ。ただ鍛冶屋で使うような温度の火属性魔法となるとかなりの熟練度が必要で、それは魔法学院の先生レベルにあたるという。
アピスは、『魔氣』に慣れてきて、ハクリは『氣』をしっかりと武器にのせられるほどになっていた。50号ゴーレムならハクリの剣で斬れるが、アピスはちゃんと『氣』が武器に乗せられても斬るまではいかなかった。『氣』の量もあると思うが、他にもなにかあるのだろう。結局『魔氣』で殴るように攻撃する形でしか50号に通用しなかった。
「はぁ…。まだ斬れないかぁ…。あれから結構練習しているのにのぉ…。」
「でもでも!アピちゃんには『魔氣』があるからのぉ!素晴らしいのぉ!」
あれから13日、鍛冶屋の手伝いをしながら『氣』『魔法』を練習し続けていたのだが、アピスはあまり成長している気がしなかった。一方でハクリの『氣』は、成長しているのがハッキリわかるほどだった。
今日も50号を倒して、鍛冶屋に戻ると扉の音を聞くなりレオグが店の奥から飛び出してハクリを慌てて呼んだ。
「おい!!ハクリ!!来てるぞ!!」
「ん??来ているって誰かの??」
「ダーテだよ!!おめーの父さんだ!俺の部屋にいるからよ!」
「えっ!?えっ!?ほぉぉぉおお!!!」
ハクリは、店の奥へと走っていくとレオグの部屋へと飛び込んでいった。アピスも慌てて追いかけるとレオグの部屋へと入った。
「パパー!!」
「あぁハクリ。すまないな。なにも言わずに、元気そうでなによりだ。」
ハクリはダーテに抱きついている。初めてハクリが泣いているのを見た。なんだか急に母を思い出して、アピスももらい泣きしてしまった。
「しかし、レオグのとこにいるとはな…。一通り話を聞いてビックリしたぞ?」
「パパ宛にちゃんと王都へ手紙書いたのに!読んでくれてなかったの…。??」
「手紙…。すまない、恐らく破棄されてしまったのだと思う。厄介な仕事でな。すまないなハクリ…。それにレオグお前の店を借りることになって、それもすまない。」
「お、おう。構わねーよ?戦況…、押されてるんだろ?いったい何が攻めて来てるんだ??なにも情報がないんだ。」
「あぁ。相手は人間族だ。隣国の王が変わって一気に戦争まで関係が悪化したらしい。なんでも人間族主義で多種族を一切認めない頑固な国のようだ自分らの国を【帝国】と呼んでいる。戦況が押されているのは、『氣』『魔法』『呪術』『奇跡』以外におかしな武器を使っているからだ。時期にここが本拠地となるだろう、まだ竜石の剣があれば、王都が落ちても奪還できる見込みが出来るだろうし、それに魔法学院にも力を借りることになれば力強い。」
ダーテはハクリの頭を撫でながら、レオグと話している。レオグの予想通りダーテは竜石の剣を作っていた。それにしても【帝国】の使っているおかしな武器がなにか気になるのだが、他にも気になった言葉があった魔法学院にも力を借りるとは、生徒達も戦争に参加すると言うことだろうか。
色々と頭を回しているとダーテが話を続けた。
「ハクリ、レオグと共に逃げてくれ。私はここで竜石の剣を作らねばならない。」
「えっ!!また離れなきゃならないの!?」
「あぁ…。戦況が悪いのもあるが、ここから北側でドラゴンが出現したという噂もある。戦争に加えてドラゴンまで来たら大変なことになる。」
「ちょっと待ってじゃ!!あっ…。ワシはアピスという。北側でドラゴンって本当かの??それになんでココにドラゴンが来るんじゃ?」
「君がアピスか、ハクリが世話になっているようで、本当にありがとう。…。ドラゴンについては、王都へ少し前に到着した冒険者がそう話しをしていた。ドラゴンがココにくる理由は…。」
「竜石だろ?ダーテ。」
「あぁ。」
ドラゴンは何処にでもいる魔獣とはまた種類が違う。存在が神出鬼没で、どこから来るのか未だにハッキリとわかっていないらしい。
「母…。大丈夫なのかの…。」
「セスか…。まぁ!アピスの母ちゃんなら大丈夫だろうよ!なにせ赤ん坊のアピスを抱きかかえて戦ってたくらいだからよ!!」
「うぬ…。」
カルーナへ向かうと書かれた手紙を貰ってから母からの手紙は来ていない。アピスはブローチを握ってうつむくのだった。
「パパ!もち。逃げるのいやだ!!」
「まぁそういうだろうと思ったよ。だが命の恩人を守ってやれ。アピスの側でお役に立ちなさい。」
「うぅ…。」
「アピス。ハクリもよ?俺と一緒に魔法都市を出ようぜ?アピスの父ちゃんも探すんだろ?たぶんだけどセスは、父ちゃんの力が必要だから探して欲しいんじゃないか??」
「うぬ…。」
また、逃げなければ行けないのか。悔しい思いだけがつのるばかりで、落ち込む一方だ。アピスにできること、父親を探すこと。それしかないのだろうか。
「少し時間が欲しいじゃ…。」
そう言って部屋を出た。