52話 目つきがキツイ客
結局お昼になることろには限界を迎え、カウンターのイスに腰掛けることにした。それにしても色んな、客が来た。冒険者ばかりかと思っていたのだが、中にはシャベルが壊れたとか、バケツに穴が開いただとか、魔法都市の住人も金物を持って来ては修理を頼んだり、調理用のナイフの依頼があったりもした。武器ばかりではないのだ。
ハクリは、たいして時間も立っていないのに、まるで昔から【獅子の鍛冶屋】にいたような溶け込みっぷりで、レオグも言葉もなく固まったくらいだった。
アピスは、イスに座って、プルプルしながらゴールドの勘定をするもんだから、若いお婆ちゃんみたいだと言われて恥ずかしかった。『氣』の構えにバケツは凄くキツかった。
「まだ初日だって言うのに、上出来だ!じょおちゃん達!この調子でたのむわ!アピスは…。まぁ無理すんなや…。」
レオグは客が引いたあと、そう言ってニカッと笑っている。ハクリは一通りすることが無くなったのか、レオグに言った。
「レオグー!買い物とか何かある??あればモチが行ってくるのぉ!なければ鍛冶を教えて欲しい!」
「んーそうだな。おっ!そうだ。しばらくはここで生活するんだ、寝間着と他にもなにか足りない物があれば買ってきてや!オレにゃわからん物もあるだろうしな!」
「ほぉ!寝間着!!モコモコがよい。モコモコ。」
「レオグーなんでもよいのかの??」
「おうっ!必要な物なら言ってくれや!」
「じゃ〜…。」
アピスは、紙に家で使っていた浄化液を作る為の材料をメモした。レオグはメモをのぞき込んで首を捻っている。
「ん?果物が食いたいのか??」
「いあ!お風呂で体とか頭を洗うじゃ!」
「ほぉ!!アピちゃん家で使ったいい匂いのやつ!!」
「うむ!」
「風呂???」
レオグは、まだわからないようだったが了承してくれた。アピスは動けそうもないので、ハクリ1人で買い物に行くことになり、寝間着はハクリのセンスにお任せすることにした。
「でわっ!もち。いってきまーす!!」
元気にハクリが出かけたあと、ローブを着た少女の客が来た。
見た目は魔法使い、きっと魔法学院の生徒だろう。ローブが受付で並んでいた魔法使い達と同じだ。綺麗に結ばれた金髪のツインテールで、目つきがキツかった。観察していると、なにやら店の商品を見てはガッカリしたように溜め息までついて首を振っている。
「期待ハズレね…。魔法都市の鍛冶屋なら私に相応しい物があるかと思ったのに…。」
アピスがカウンターでボーっとしていると。そんな呟きが聞こえて目が遭ってしまった。
「ちょっと貴女。魔法が使える剣がないかしら??」
「魔法が使える剣…?えっと!ちょっと待っての!…。レオグー!!」
「呼んだかぁ!?なんだーアピスー?」
「魔法の使える剣ってあるかじゃー??」
「ねぇーこともねぇーよー??なんだぁ?お客の注文かぁ?ちょっと待ってもらってやー!」
「あーい!!…。ちょっと待ってて欲しいじゃ…。」
「わかったわ…。」
少女は若干イライラしてるのか、剣をとってはブンブン素振りをしている。それにしても、魔法の使える剣があるんだと、アピスは少しビックリしていた。どんな剣なのか、アピスにも使えるのなら自分の魔法も役に立つんじゃないかと。期待したのだった。