26話 休憩地点
ハクリの様子がおかしい。アピスは、ハクリに肩を貸しながら遺跡後の入口に入ってゆく。セレンは後ろが気になるようで、少し進んでは後ろを振り返っている。
「もっちー?大丈夫なの??」
「ほ、ほぉ…。だ、だい、じょうぶ。だ…。す、こし、シビ、れる。だ、け…。」
「っ…!?毒にゃ!」
ゴブリンの槍に左肩を刺されたハクリは、毒に侵され始めていた。今は、とにかく遺跡後まで急ぎ安全な場所へ逃げないといけない。
「ゴブリンは見えないにゃ、でも声が聞こえるにゃ…。」
「急がないとじゃ。」
遺跡後への道は、石畳になっていてクネクネと曲がっていた、それでも今までの旅路で1番歩き安い。道の両脇に入口の石柱と同じものが、等間隔で立っている。
「せれにゃっ。浄化作用のある薬草類探せるかのっ?」
ハクリの足取りが、重くなっていくので、アピスに体重が掛かり始めていた。しかも、剣と盾がそのままなので更に重たい。ゴブリン達の声が遠くなっていく。追っ手は来ていないようだ。
「うにゃ…。探しているにゃ…。」
歩きながらセレンは、毒を浄化できる薬草を探してキョロキョロしている。ハクリはモゴモゴなにか言っている。アピスの額に汗が滲むころ、石畳の道は開けた場所へと出た。
そこには、半壊したような建物。それに覆いかぶさるように大樹の根が這っている。
「ついたのかの??けどもっちーがっ。せれにゃっ薬草見つかった??」
セレンは、うつむいて顔を横に振る。
「とりあえず建物の中にっ。入るじゃっ。」
ハクリは、熱を出し始めているのか、汗をかきながらフーフー言っている。『傷口も気になる…。早くなんとかしなきゃじゃ…。』
遺跡後の建物の中に入ると、不思議な空間が広がっていた。建物の中なのに水が流れ、大木の葉が天井を埋め尽くし木漏れ日が仄かに明るく照らしている。
「水にゃ!とにかく傷口を綺麗にするにゃっ!」
セレンは、水辺へと走っていき、水辺を覗き込んでいる。
「綺麗だにゃっ!」
「うんっ…。わかったっ。じゃっ!」
ハクリを、水辺まで運ぶとバッグを枕にして、横に寝かした。ハクリの左腕の盾とプロテクターを外しシャツの袖を肩から千切った。傷口から血が溢れている。傷口に毒が残っている可能性があるのでアピスは口で吸い出す。
「この中に薬草ないか、ぐるっとしてくるにゃっ!」
そう言ってセレンは走っていく。アピスは口に含んだ血を吐き出した。
「もっちー!ごめんのっ!!」
「んぐっ…!?」
そう言ってハクリの肩を水へ直接付けた。
『んぁ…。このくらいしか思いつかないじゃ…。』ハクリを水から上げて、シャツの袖だったものを洗う。『んなぁ〜!もう回復薬もつける!』効かないかもだけど、害にはならないだろう。シャツに回復薬を染み込ませ、ハクリの傷口をぐるぐる巻にした。
「もっちー!これ飲むじゃっ!!」
返事のないハクリの口に回復薬を流し込む。
『なんかはじめて会ったときも、こんな感じじゃったなぁ…。』
ハクリは、ゆっくりだが回復薬を飲みこむのだった。