19話 南の森へ
母を抱きしめかえすアピス。ハクリは抱きしめられてニヤニヤしていた。セレンは母の後ろからギュッと抱きついて。
「アピにゃんの母さま、村を頼むにゃ…。」
「セレンちゃん、この2人を宜しくね?」
母は、アピスを引き剥がし頭を撫でると、三人の背中を押して言った。
「さぁ!行って!!また必ず会えるから!それまで母さんも頑張るから!」
アピスの足取りは重いというより、動いていない。だが、ハクリとセレンがアピス担ぐようにして歩みを進める、母はニコっと微笑むと村長のところへ戻っていった。チラッとダンケの姿が見えたけど、まだ村長達のところで猛講義していた。きっとダンケは村に残ると言ってるんだろうと想像がつく。
広場から一斉に飛び出していく村人達だか、避難の訓練などやってもいない為か、親達は平常心ではない様子で広場のあちこちから溢れてバラバラに広場から出ていっている。
セレンによると、セレンの両親は既に村の出入口付近で魔獣達と戦いを初めているという。下山するのに歩きやすい道はこれで塞がってしまった。その情報を知らない村人は、その道を諦めて道のない南の森へと次々と入って行く。
三人も村人たちの流れに乗り、森へと入って行くのだが村の方からは、魔獣の鳴き声や何かが燃える音など色んな音が大きくなり始めて、とても気になり何度も振り返ろうとしたが、その度にセレンに止められた。
「振り返っちゃだめにゃ!!絶対にだめにゃ!!」
セレンは涙目だった。セレンも本当は両親の傍にいたいのだろう。そして振り返ろうとしていたのはアピスだけでなく、ハクリも同じだったようで、ハクリも一緒になってビクッとなっていた。
「ゆこう。【アストルム】へ。」
アピスは振り切るように、歩いた。南の森を抜けて下山するのに、大体半日くらいかかるだろうか、しかし、ランタンの灯りがあっても非常に歩きずらい。木々の根っこがみっしりと編みのように地面を這っていてデコボコしているからだ。
アピスは、足の感覚がもうないので、何度も転がりそうになりながらハクリとセレンを追う。ハクリは元気で軽快そのものだ。セレンは先頭を行きキョロキョロしながら道を選んで進んでいく。
ハクリは、時折心配そうにアピスを待って声をかけてくれる。
「アピちゃん…大丈夫〜??」
「う…ぬ…。」
『とにかく急がないと…。』
アピスは、木に寄りかかりながらも、ふり絞るように歩くのだった。