10話 大きな黒い影
振り返るとそこには大きな影が両腕を上げて爪を光らせている。その姿見は3メートルほどの大きさのクマだった。目が真っ赤に光っている。ハクリは剣を抜き、アピスは、あわあわしながら印の付いた木の棒を懐から取り出していた。
「ガァァウゥウウッ!!」
「ほぉ…。これは…。ピンチっ!!」
クマは、両腕をハクリに向けて振り下ろす。
ガキィンッ!!「んぐぅっっ…。」
受け止めた瞬間、ハクリの腰はグッと落ちたが、ぎりぎり持ちこたえていた。
「アピ、ちゃん。逃げ…てっ!!」
アピスは、音にビックリして印の付いた木の棒をどこかに落としてしまった。探しながらも、ハクリの状況を側で見ている。
「もちのことは据え置きで!は、や、く…!!」
ハクリの盾と剣にグッと体重をかけるクマが、そのままハクリの頭へ噛みつことしていた。『今逃げたら、そのままガブリと食べられちゃうじゃん!』
「ん〜〜…んなぁぁぁああっ!!おいて逃げるなんて無理に決まってぇぇ!!おるじゃろぉおぉぉおおあおおおああ〜!!!」
涙目でアピスはハクリの脇から飛び出し、クマの脇腹に両手を伸ばしながら突っ込んだ。
「ファイアァボールッ!!」
アピスの最大火力は、顔と同じぐらいの大きさの火属性の魔法玉。魔法玉はクマの脇腹へぶつかるとボワッ!と音と共に魔法玉の体積と同じ量の火が燃え移った。
「グォアガァァア〜!!!」
クマはハクリから転がりながら離れてゆく。
アピスは、前から綺麗に倒れ込でしまったがクマから目を離さなかった。
「ほぉ!!まほぉっ!!アピちゃんは、やっぱり凄い!!」
「いやっ!!あんなの毛が燃えただけじゃってっ!!」
クマについた火は脇腹から顔半分まで燃え移っところで消えていた。ランタンの灯りに照らされて薄暗いが、皮膚がタダレテいるのがわかる。クマは大きく肩で息をしている、怒っているのか?肩で息をする度に目の赤い光が、段々と体毛に滲むように全身が真っ赤になってゆく。
「真っ赤になったのぉ!!」
「真っ赤になったじゃ!!」
「グルルルルゥゥゥ!!!」
クマは四足歩行の姿勢で、アピスへ向けて体当たりを仕掛けようと前足で土を掻いている。
「もち。アピちゃんのお役に立ちたい!!」
アピスの前にハクリは立ち、真っ直ぐ剣を振り上げている。
『いやいや、あんなデカイのが体当たりしてきたら…』
真っ赤になったクマは、2人目がけて走りだした。真っ直ぐに突っ込んでくる。
「もっちーっ!!!!!」
アピスはハクリ(もち)の腰もとに抱きついた。アピスは、なにかに暖かなものに包まれた気がした。