プロローグ
パーン、パーン、パーン。
後方から、3発。一定の拍をとって、ピストルの様な銃声が響いた。
身の危険を感じた彼は、全速力でそこから走り去った。
すると、今度は2発、銃声が聞こえた。
辛うじて、避け切ったものの、前の3発よりも、音が小さくも大きくもなっていないということは、走っても逃げきれていないということを表している。
ここは、森の中。
ここが何なのか、どこなのかを、彼はまだ知らない。
ここには、木々が水蒸気を閉じ込め、不快を感じるほどの湿度が漂っていた。
日本から持ち込んできた、彼のデジタル時計には、「21:00」という数字が見える。
日本の夜の9時だ。
しかし、この世界はまだ明るい。
「世界各地で活動してきたのに、この地形と気候…。謎だ」
彼が、今走りながら得られる五感からの情報は、これくらいだった。
彼は、今、この世界の何物かに命を狙われているのだ。
7発目の銃声が、彼の耳に届いた時、とっさに彼は、膝を曲げ、腰を下ろし、近くの木に捕まり、回転を利用して後ろを向いた。その間に、もう片方の手で、腰に搭載してある、拳銃を手に取り、音の方向へと向けた。
音の方向へ拳銃を向けたものの、彼の目は、音の原因をつかめていない。
「見えない……ッ」
それは、敵の服が、背景とうまく重なって見えなくなっているのか、それとも、この世界に存在する何らかの「力」のせいなのか。
彼は分からなかった。
しかし、しばらくしても銃声が聞こえなくなったのは、敵は、こっちが見つけたと思い込んでいるのだろう。
森林が静寂に包まれた。
彼は、自分の鼓動がうるさく感じた。それは落ち着く気配がない。
拳銃の重さを握りしめ、引き金を引き、威嚇の意を表した。
数秒後、数十メートル先に潜んでいるであろう相手に、反応が見られた。
木々か何かを踏んだ音が、響いたのだ。
彼は、そこを聞き逃さなかった。
彼は、とっさに腕をそこへと動かし、人差し指と3回引いた。
3発の鉄の玉が、肉を切り裂く音をしっかりと耳にした彼は、軽く溜息をつき、そこへと歩み寄った。
そこには、穴の空いた死体があり、そこからは、まだ固まっていない鮮血が流れ出ていた。
どうやら死んだようだ。
彼は、死体を確認した。
どうやら、この地帯の警備兵のようだ。
服装は、迷彩柄の動きやすい服装だった。
「森の中で彼を確認することができなかったのはこのせいだったのか」
彼は、ボソッと呟いた。
次は、死体の持ち物だ。
首には、青い宝石がネックレスとしてつけられていた。
この宝石が、魔力を秘めたものなのだろうか。彼は、恐る恐る、触れてみた。
彼の体には変化が起こらなかった。
触るのではなく、装備をすることで力になるのか、と考えた彼は、それを、自身の首につけてみることにした。
これで魔法が使えるのか。彼は、試しに、近くの木に手を当てた。
「ハッ」
この声とともに、手のひらに力を入れた途端、木は、手を乗せたところから、折れて前に倒れた。
「おお…、これが魔力なのか…」
魔力の力を感じた彼は、今一度、死体の持ち物を確認した。
「身分証か」
身分証が内ポケットから出てきた。身分証には、「モーリス・ゴーン」と書かれていた。これが名前らしい。
手には、ピストルが握られていた。これで攻撃してきたのだろう。
ピストルには、玉を込める場所がなかった。
もしかすると、これも魔力を秘めることにより効果を発揮することができるのか。
彼は、さっきと同様、ピストルを握り、数百メートル先の木に狙いを定め、手に力を入れ、引き金を引いた。
パーン。と。
人間界のピストルと変わらない音が響き、一直線に弾丸が放たれた。
弾丸は狙い通りに木に当たった。
「狙いやすさは、人間界のより優れているが、振動や、使う人への負担が大きいな」
そう言うと、彼は、死体の持ち物を奪った。服も脱がせ、奪うことにした。
どこかの街に出たら、洗濯してもらって、その服で変装をするためだ。
彼は、死体に背を向け、歩いて森の中の攻略に進んだ。
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