第5話 さよなら、今までの私。
仕事の都合で月末、月初は更新絶望的とご容赦ください。
週一は最低でもがんばります。
side:白沢天音
その日は朝から憂鬱だった。
めずらしく家にいた両親と交渉決裂し半ば家出のように少し早いけれど登校してきたから。
それは授業が終わるにつれておそらくまだ両親の居るであろう家に帰らなければならないという事実とともに重くのしかかってきた。
「確かに今年で高校は卒業だけどもう婚約者の話しだなんて。」
正確に言うと(見込み)婚約者(予定)と同じ大学への進学も合わせての話だったのでこれからの人生の大半の話だった。
(いやだなぁ、かと言って良い人もいないし。行きたい大学もないですし。)
微妙に距離もあるためにまっすぐ家に帰らなければ門限に引っかかる。
嫌だ嫌だと言いながらも律儀に帰っていた。
(大輝くんと優花ちゃんは今頃、今日も放課後デートかなぁ。いいなぁ。)
最近あまり遊ばなくはなった幼馴染たちに少し羨望を抱きながら空を見上げる。
(大くんは笑いながら誤魔化すし、優ちゃんは動揺しながら逃げるけど。やっぱりデートだよねぇ。)
閑静な住宅街に入り、もうすぐ家。現実逃避と両親の対応を色々と思案しながら歩いていた。
そう丁度、三夜沢がギリギリ回避した約100mほど先の道を歩いていたのだ。
轟音とともに視界が横になぎ倒された。何が起きたのかわからず、痛みを感じる前に視界が暗転する。
次に目が捉えた映像は白い壁、たくさんの管。そしてこの世の終わりを見たような両親だった。
入り口には最近あまり見なくなったおじさんたちの姿も見える。
「天音!……お父さん!天音が!!」
「……天音!!!」
(……病院。ごめんなさい心配をさせたみたいで。)
口を動かしても声が出ない。呼吸器のようなものが付いている。体も指一本動かない。それに開けたばかりの瞼がものすごく重く感じる。
「大丈夫よ!すぐに治るから!!ね!」
「そうだ!勿論だ!……頑張るんだ!なんでもしてやる!!俺たち今朝のはちょっとやりすぎたなって言ってたんだ!な!
だからもう寝ないでくれ!頼む!」
(……あはは。やったぁ。あれだけ悩んでた内容が解決しちゃった。でもごめんなさい、ダメみたい。一回起きるのが限界だったみたい。)
口に出来ないもどかしさを目に載せて送る。目を見ればわかる!両親の得意技だった。
「なぁ、そんな目をしないでくれよ!頼む!」
「お願い、お願いだから……。」
(ごめんなさい、お父さん。ごめんなさい、お母さん。)
そのまま私はまた暗闇に潜っていった。
(ごめんなさい、トラックの運転手さん。)
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「大変!申し訳!ありませんでした!!!」
三度目の起床をすると、目の前には土下座をした綺麗な女性がいた。
「……どういうことでしょうか。」
「あれ?ここは……天姉!?」
「えっ俺たち、死んだんじゃ?」
更に私の隣にはデートをしていたであろう困惑した幼馴染たちがいた。
死んだ?これは……まさか……異世界転生!?やりました!本で読んでからあれこれ考えていた時期もありました。
まさか、本当に、実在するとは!?つまり、神は存在しこの世界に少し手を加えることができる!
死後の世界もあるし、平行世界も。待って、ということは地獄と天国も輪廻転生もあるのでは!?この事実は大変興味深いですが戻しましょう。
生前に特に善行を積んだような気もしないですので、おそらく今回はこの目の前にいる女神様のなんらかの不注意での死亡による謝罪と見ていいですね。
きっとすごい能力がいただけるに違いない。能力無しにしても異世界ですよ!異世界!あぁ心が躍ります。
何をしましょうか、自分で家とかアクセサリーとか服とか作れてしまうのでは!?魔法の力で便利器具を作る。絶対楽しいです!
あっ、でもどうしましょう。きっと今後旅をして目標達成で帰還か残留かの選択になりますよね。
あれだけお父さんとお母さんを心配させたまま別れるというのも嫌ですし、でも戻ればおそらく許婚の話が戻ります。
……そうです!帰還時の特典で許婚の話をなくしてもらえば良いのです!
それでしたら問題ありません!それに今は今を楽しみましょう。
ここでしたら将来を悩みながら進むこともありません、親のレールも環境もありませんし、私のことを大体知っている幼馴染だけ!
私の本当の人生がスタートするんです!
さて、そうと決まればこれから何をしましょうか。うふ、うふふふふへへへへへへへへへへへへ。
「あの~。白沢さん?が話を聞かないでトリップしているんですけど~?謝罪と説明はいいんですかね?」
「あぁ、大丈夫です。私たちのほうでしっかり聞いてますのであとで伝えます。」
「……これがなければなぁ。」
「では、本当に申し訳ありませんがお願いいたします~。」
急に目の前が強烈な光に包まれ、眩みが直るとそこは王宮内と思われる部屋だった。
周りを見るとさっきまで一緒にいた幼馴染たちと、もう一人知らない男性がいた。
私ははじめて『見る』人には目をしっかり見ることにしている。両親の得意技であり、私にも使える必殺です。
視線が合うと羽毛のような柔らかさと木漏れ日のような温かさが伝わってきた。
(この人は大丈夫だ。というかもうちょっと見ていたいな。)
ここまで気持ちの良い心は中々見れない。幼馴染を除いて。
玉座にいる王様に視線を合わせたがやはり普通の人だ。暖かい部分もあるが鋭い冷たさもある。冷たいほうがやや強いがまぁ普通の範囲。
問題は隣にいる王子っぽい人だ。一言で言うなら、たまにいる人の枠の外にいる外道。にこやかに白い歯を見せながら笑っているけど凄い黒さ。
自分の家が家だったので来客の中に見ることもあったが、なかなかに心にもつ物は化物と言っていい酷さ。あまり関わらないようにしよう。
宮廷魔術長だというボルシュさん(少し出世欲が強い)が私たちで少し話す時間をくれるそうです。
でもこの中で知らない方は一人だけなんですけどどうすればいいのでしょうと思っていましたら、
「うし、パッと見最年長みたいだから俺からするぞ。」
いつでも先陣を切ってくれる方がいると助かります。
男性の名前は三夜沢 和晶さん。
社会人だそうですけど細いながらみっしりと鍛えた体をしていて、お仕事は何をされているんでしょうか。もしかしたらお父さんより強いかも。
少ししてから強いの判定基準が父なことに恥ずかしさを感じましたが、優ちゃん、私、大くんも続いて自己紹介しました。
大くんが自己紹介を終えてから三夜沢さんがガックリ首を下げたり、大くんをうらやましそうに見たりころころ顔を変えているのが面白くて少し笑ってしまいました。
「あっちなみに職業はニートでなく、便利屋だからな。」
えっ、便利屋さん!?……いえ、待つのです私。
きっとトイレ掃除とか屋根修理が主な仕事の便利屋さんという名前のリフォーム業者です。きっとそうです。探偵家業のようなことをして警察と仲がよかったり、時折料理屋を手伝って気難しいお客を唸らせたり、護衛兼運転手で雇われたりなんてありえません。
まさか、異世界に来られたからって元の世界まで漫画っぽいことが起こっているはずがないんです。私の家だって他所と比べてすこーし特殊なことをのぞけば世の中は大変普通なんです。つまらないんです。
……聞かぬは一生の恥とも言いますし、確認のためだけ。
「便利屋さんって何をされてるんですか?やっぱり探偵さんとか?危ないこととかもされるんですか!?」
大変恥ずかしい。少し声が大きくなってしまった。三夜沢さんも少し引いている。……少し?うん、少し!
「そうだね……探偵業のようなこととか家庭教師とか代理で調理場に立ったり、タクシー代わりとか色々やったなぁ。
1回だけ港に呼び出されて危なかったこともあったよ。」
……嘘。本物?言われて見れば服装も少し変わっているかも。一見普通のスーツにしか見えないけど、よく見ると足や腕に収納ポケットが付いている。右腕を少し浮かせている癖がある辺りたぶん内側にホルダーも付いてそうです。
背面はどうなってるんだろう、あっやっぱり隠しポケットが付いてる。触ってみると明らかに布と人体の間に硬い防護用のモノが仕込まれている。
多分、ネクタイとか靴とかにも何か仕込まれていそう。あっネクタイに小さい鏡が付いてます!
この足の収納ポケットは何が入ってるのかな?見てみたい。確認を取って嫌そうな顔していなければいいよね?ね?
「少し失礼します。」
チラッと顔をというより目を見るが困惑はしているのものの嫌悪はされていないようだった。
これならば見てしまってもいいよね……おぉ!なんでしょう、この平たい鉄?の板は!なんでしょう!やっぱりあれですかね、これのおかげで助かったみたいな?
確認しようとしたところで魔術長さんからストップがかかってしまいました。また後で確認してみましょう。
そして少し前から視界がもやもやしていましたが宝石を渡されて腕に付けた辺りで記憶がありません。
気付いたら表示球?とやらが目の前にありました。
「…はへ?…あぁ、表示球に手を置くんでしたね。」
よくわからないけどそんなようなことを聞いた気がする。一応確認で聞いてみるけれど何か不味いことがあったのか辺りがシンと静まっている。周りを見ると視線は皆、新田さんへと向かっている。
やがてボルシュさんから「今、魔法を使われましたか?」と。
いつもの私だったらきっとまた気付かない内に質問攻めにしてしまっていたでしょう。
でも、このときは違いました。魔法と聞いていつも通り心は弾みました。使用していたと聞いて何故見ていなかったのかといつも通り悔やみました。いつもと違い視界のモヤと頭にグワッと昇ってくる熱気がありませんでした。胸から上に覆っているカーテンクロスのような何か暖かな物がそれを押さえてくれるようでした。
しどろもどろと説明している三夜沢さんがきっといつもの私の悪い癖を止めてくれたようです。もう借りができてしまいました。受けた借りは必ず返す。異世界に来てしまったとはいえ家訓としてしっかりと返さなければ。
何もない空間から小さな天使みたいな女の子が出てきても……なんとか耐えれました。でも頭とか撫でたいです。フォスラさん抱きしめたいです。耐えますけど。もう迷惑は掛けられません。……耐えるのです私。
気をそらすために三夜沢さんをまた観察していると今度はボーっと立っていると思ったら顔をにやけさせたり、しかめたり、歪めたり百面相しだしてしまいました。傍から見るともしかして私はあのような状態なのでしょうか。
ボッシュさんとフォスラさんは話がすぐに終わったようで順番を三夜沢さんに譲って欲しいそうです。
あとから調べられないとかは特にないようですし順番なんて何でもいいと思い返答しようと思ったのですが大くんと優ちゃんは何か伺いを立てるようにこっちを見てきました。
「はい、大丈夫です。」
次の瞬間には梟のように首を回して三夜沢さんへ詰め寄っていました。……さよなら、今までの私。ここまで迷惑を掛けていたとは思いませんでした。
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途中突然床がへこみ地割れが起きた事とまた三夜沢さんが魔法を使った以外は特に問題なく終わったようだ。
三夜沢さんのステータスを眺めて、肉体の情報とかは乗らなくて少し安心した。女性に配慮された道具と思っていたら頭に直接響く声がした。
『目の前にいるフォスラです。ご覧のとおり過去の悲劇の後、改良された表示球は身長、体重、すりーさいずは載せません。
安心してお使いください。そして改良をした先代勇者様に感謝の祈りをお願いいたします。』
先代勇者は偉大だった。
私の番が来たことをを嬉しく焦がれるように緊張しながら、高ぶる心を抑えるために勇気を貰うためにすれ違いに入れ替わる三夜沢さんとハイタッチをして行った。心の準備は出来た。
試験結果発表より、呼び出しラブレターより、家を飛び出た時より心臓が弾むのを押さえながら前に進む。
「では、白沢様。手を。」
姓名:白沢 天音
性別:女
年齢:18歳
種族:平人
レベル:1
ステータス:体力E 魔力S 筋力C 知力B 俊敏D 運A
特殊スキル:【慈愛の神術】【範囲拡大・極】【消費魔力節約・極】【心の眼】【柔の極み】
はぁー……えっ?S?それにスキルも多い。と簡単な感想を持ちましたが横からズサッと崩れ落ちる音がしました。
見るとフォスラさんがまた解説しようとして羽を広げたようですが様子がおかしいです。
「どうされましたかフォスラ様?」
「いえ……あ、あの私に敬語はお使いにならなくて結構です。……申し訳ありません言い方を間違えました、どうか敬語はお使いにならないで下さい。」
希望と絶望がいっぺんに来たような暗い顔光る目をしながら突然頭を下げてきました。
「わかりまし……わかりました。私の話しやすいように話します。フォスラさん。」
「はい、よろしくお願いいたします。
エンテ・ボルシュ宮廷魔術長、イグナーツ・クローネ国王陛下。メルキュール教国としてこの場で白沢天音様のステータス解説はできません。
詳しくは明日。勇者様出立後にご説明させていただきます。」
まさかの言葉を受けたようにしか見えないぐらい驚いた顔をした国王様がゆっくりと縦に首を振ったのを見てボルシュさんが優ちゃんと変わるように促した。
『先ほどは申し訳ありませんでしたボルシュ様、白沢様。』
『いえ、イグナール陛下が肯定してくださったので大丈夫ですが、それほど白沢様のスキルには危うさがあるのですか?』
さっきと同じように頭に直接二人の声が聞こえる。
『はい、ここで先に軽く説明しますが、まず慈愛の神術。あらゆる治療、再生、複製が可能です。慣れれば死後1日経過した死体も復活します。
ただし凄い量の魔力を使うのですが、おそらく現状で1日1発は使用できるかと。
そして消費魔力節約・極。魔法、魔術全般の魔力使用量を約1万分の1ほどに軽減します。範囲拡大・極は使用魔力を増やすことで効果範囲を加算式で広げます。半径10m広げて2倍、20mで4倍と言う形ですね。』
『確かに強力ですがそこまで隠す…………。心の眼は回避系の【心眼】とは違うのですか?』
『それです。心の眼はそのとおり相手の心を見る眼です。』
『あぁ。わかりました。我が国のクズ王子様が知ったら大変なことになりますね。』
『【柔の極み】もありますので撃退は大丈夫でしょう、しかし最初から回避できる問題は起こさないほうが良い。』
『えぇ。私のほうから適当に誤魔化しておきますので教皇殿。』
『と、こういうことですので白沢様。白沢様のほうでも注意してください。』
『はい。わかりました。』
続いて球へ向かった優ちゃんがうんうん唸りながら表示に乱れが発生しているスクリーンを必死に出す風景を見ながら三人でのお話を終えました。
私のステータス……強すぎ。
ラナス『あー、やーっと帰ったよあの人。』
ティオ『途中で姉さんが懐柔されなければ
もっと早くお帰りいただけたはずなのですが。』
ラナス『過ぎたことは気にしなーい。』
ティオ『次回予告もう尺無いですけどどうするんですか?当番の方?』
ラナス『次回!爆発!もう一人の女の子サイド!』
ティオ『間違ってないと言えば間違ってないような。』