第3話 はじめてのまほうも意外と簡単だった
「二つほど質問してもいいですか?」「はい、三夜沢様」
「そのような個人のステータスを表示する球が神器ということは、この腕輪も相当な代物だと思えるのですが自分のような者達に渡してもいいのでしょうか」
「えぇ、そのような術具にはランクがありまして、下からブロンズ、シルバー、ゴールド、アーティファクト、レジェンダリーと分かれます。これはアーティファクト級。この大陸にある4大国で40あるかないかぐらいですね。これは皆様への期待とこのような事しかできない私どもの気持ちということで。」
何かしらの能力があるかもわからないうちにずいぶんと大きく見られているようだ。この後に少なくともその分は働くということだからこれは不安にしかならないが。
「それともう一つ、この画面はもしかして他の人には見えなくなるような効果があるのですか?」
ひっくり返した後は魔術画面が出るはずだが他の人の画面も見えなかった。つまり魔術画面とスキル画面はおそらく認識阻害がかかっているのであろう。
「そうですね魔術画面とスキル画面は第三者から見ることはできません、第三者のステータスを見ることができる【鑑定士】スキルを持つ者が極稀にはいますが、実証されれば城にて左団扇で生活できるようになります。ちなみに現大陸には皇国に1人、帝国に2人、教国に1人、王国に1人います。」
超レアスキルで性能も優秀ともなれば喜んで召抱える、というより自領から出したくはないだろうな。
「それと【鑑定士】を持つ者でも勇者様のスキルには見えないものもありますが、それすらもこちらの球を使えば見ることができます。」
「わかりました、ありがとうございます。」
そこまでのものなら神器扱いでも当然か。
「よし、遂にステータス表示か」
前に進んで手を伸ばそうとする新田くん、を横から湧いて出たかのように腕を掴む影がいた。
「…ダァイくん、レディファーストって知ってるよねぇ?」
白川さんの目から光が消え、というかドブ川のように濁った色をしだしているんですけど。実は魔王か何かに操られてるとかないよね?とりあえず助け舟だけは出そう。
「白沢さん、庭谷さん、新田くん、俺でいいんじゃないか、先に見ても後に見ても変わらないしね。」
「はい、では表示球に手を置いてください。魔力を込めることで表示球の上に魔術画面のような形で出ます。」
ボッシュさんのスルースキルは一体なんだろう、もしかして白沢さんは名の知れ渡った状態以上で治せるとかなのかな。
「うへへへへ……。」
ゾンビのようにゆったりとした速度で珠に近づいていく。もう色々と人間やめてそうなんですけど。
こういう時は近くにいる庭谷さんにこそっと聞けばいいさ。
「アレって治らないのかな?というかいつもあんな感じ?」
「そうですねぇ、あそこまではめったにならないんですけど。
脳の許容量超えてる感じは否めないのでもう1つか2つ好奇心をくすぐるものが加われば気絶するかと。」
「気絶するほどなのか、危ないな。」
「本当にめったにあそこまではいかないんですけどね……。」
いつもあってたまるか。というか流石に何とかできないだろうか。年頃の女の子がしていていい行動じゃないんだよな。
『はいはい!ニャーが思うに斜め45度で殴れば治んない?』
無理だな家電製品じゃねーんだぞ、あとお前誰だよ。
さっきから響く声とはまた別のよく通るが少し頭の足りない感じの自分より少し若いぐらいの女性の声だった。
『おそらくパニックの状態異常かと治療魔法を使えばよいのでは?』
あーうん、ありがとう。それにしても何度も聞いていると何故か聞き覚えのある声のような気がしてきた。ところでどう使うのだろう。
『イメージを高めてあとは魔力をどこでもいいので一点に集中して下さい。行使できる域まで達すれば放出していい感覚がありますので、押し出す感覚で放出してください。』
イメージ……白沢さんがまともに戻る、いや、不安を取り除くようなイメージ…。
『【精神感知】【魔力変換:精神】を取得しました。』
一点集中……全身から何かが沸き手のひらに集まる感じがする。
『【魔力操作】を取得しました。』
そのまま放出。
『【射撃補正】を取得しました。』
『完璧ですね。』
『よくあの曖昧な説明でできるね!』
『…わかりました。次は姉さんが説明してください。』
脳内ケンカを他所に、透明な薄緑の色をした空気の塊の様なものが手からはなれ白沢さんに命中した。
「…はへ?…あぁ、表示球に手を置くんでしたね。」
「「「………」」」
よかった。我ながらはじめてのまほうも意外と簡単だったな。おそらくまともだった時の白沢さんに戻った。が、広間にいた全員が唖然とした表情でこちらを見ている。
「今、魔法を使われましたか?」
「え、えぇ、ボルシュさん」
「どのような魔法か聞いても?」
かなり矢継ぎ早な感じで聞いてくる。もしかして何か特殊な技だったり?このまま重宝されて薔薇色ロード一直線ですかね!?
「えーおそらく対象のパニック状態を平常まで戻すものかと。」
『ご主人様、正しくは対象の精神状態を感知しそれに対する精神回復の創造魔法です。』『あー!次はニャーの番だったのに!』『遅い姉さんが悪い。』
「あーすみません少し違うみたいで。えっと、対象の精神状態を感知し、それに対する精神回復魔法?だそうです。」
しどろもどろに説明する内容を聞きボッシュさんの顔が段々険しくなっていく。
「ふむ、王国では魔術が主体となっているためそのような魔法に関してはイマイチ研究されてませんが、教国ではそのような魔法があるのでしょうか教皇様。」
俺らから見て右側の何もない空間に向かってボルシュさんが話しかけると、
「そうですね、全ての精神状態と身体状態を回復させる魔法はありますが一部の……それこそ大司教クラス以上ですね。
症状を絞ってやるにしてもエルフでしたら【精神感知】がありますのでそれを使うことができれば内容を絞って使えますので初心者でも治せると思います。
それを除くとやはり相当な法士でないと…。」
だぶ付いた大きめゆったりした白衣に十字架が付いた赤い前垂れ、丸い小さな白い帽子を被った薄目の若…幼い女の子が何もない空間から現れながら回答している。
パッと見140cmぐらいだがまさか教皇がそんなに若いわけもあるまい。
「失礼しました。私はこのエルツ王国の隣国、メルキュール教国にて教皇をしております。フォスラ・プリエーラと申します。わけあってエルツ王国にいますが、よろしくお願いいたします。」
お辞儀はせずに微笑んで挨拶をしめた。少し揺れる先端が輪のように丸まったアホ毛が合わさり天使にしか見えない。が、この子はさっき何もないところから出てきた。まさか他にも隠れているんじゃないだろうな。
『んー?じゃあ周囲に隠れている人がいるか探してみるー?』
そうだな、できるなら調べて欲しいかも。あとお前は誰だ。
『ニャーの名前はラナスだよ!主様忘れるなんてひどーい!』
お前らの名前は初耳だよ、……あれ?少し聞いた覚えがある。誰だっけ外国人の知り合いはいなかったはずなんだが。
『じゃあ耳と額と目に魔力を集める感じでー、こう、キラーン☆って感じで。』
なるほど、まったくわからん。指をⅤにして目の前に横にして添えるあのポーズか?
『耳と額と目に魔力を集めて第三の目で見るような、そうですねゲームの三人称視点のようなで通じますか?』
つまり一歩引いた感じで周囲を見るのか……。
『【魔力感知】【魔力エコー】【視覚強化】【聴覚強化】を取得しました。』
うむ、見える。俺の頭の後ろだ。見るというより脳に直接イメージが湧くような感じで見える。
というか、フォスラ教皇の後ろに二人。教皇と同じようなデザインの服を着て帯剣したゴツイおっさんと長杖を持っているヒョロいおっさんがいる。
ゴツイおっさんは気づいていないですよと言わんばかりにキョロキョロしているし、ヒョロいおっさんはこちらに手を振っている。これは見ていることに気付いてるな。
他に誰かいるか見る範囲を変えてみる。
そして俺らから見て左側にまだ姿を見せていない軽装に部分的に鎧を着て剣を腰に下げている長髪赤髪の女性が一人。
その後ろに仕事のできそうなモノクルをかけた全身黒の男と殺気を流しっぱなしの屈強な全身鎧を着た女がいる。
なぜフルアーマーが女性かわかるかって?少し透視のようなこともできるようで兜の中の顔まで見えるのである!…首より下は無理みたいですけどね。少しガッカリなんてしてないぞ。
というか軽装の女性がさっきからずっとこっちを見ている。見定めているとかではなくて何かを確認するように見ながらぶつぶつと何かつぶやいているが、まぁ珍しいからだろう。
剣と逆側の腰ベルトに本やビンをつけているし学者か何かなんだろう。聴覚強化で聞こえなくもないが多分聞いてはいけないタイプの独り言だ。そんな悪寒がする。この視野も切って置こう。
「――つまり彼の何らかのスキルですか。」
「おそらくは。彼を先にしてみても?」
フォスラ教皇とボッシュさんの話がまとまったようだ。
「えぇ。すみません勇者様方。ステータス表示ですが三夜沢様、白沢様、庭谷様、新田様の順でよろしいでしょうか?」
「はい」「私達はかまいませんが」
新田くんと庭谷さんはすぐに返事をし、急変した白沢さんのほうを狂犬が騒がないようお伺いを立てるように見て。
「はい、大丈夫です。」
その回答に驚いた顔をし、凄い早さでこちらに振り返り息を合わせたかのように
「「三夜沢さん、その魔法を教えてください!」」
「あーうん。このあとね。」
余程今までに色々とあったのだろう。できることなら今後のことも考えて共有できる物は共有したほうがいい。
ティオ『次回。ご主人様のステータス初公開です。』
ラナス『待ってティオ。そこ最後。
そっち先に読まれたら間に書いた文が無駄になっちゃう。』
ティオ『知ってますよ姉さん。
それにこんな寒い三文芝居の台本なんて読めませんよ。』
ラナス『待って、ほんと待ってティオ。
それ書くのに毎回ニャーは夜なべしてるの。
燃ーやーさーなーいーでー。』