明日へと続く希望
レイドとの戦いは終わった。それにフィーネは安心する。
だが、マロンの目的は達成していなかった。
「何をする気?」
「先生を助けてもらう」
願いを叶えてくれる門。見合った以上の代償さえあれば、リリルを助けてくれる。
だが、いくらリリルのためとはいえそれを使うのに、ティトは頷けなかった。
「ダメだよ。そんなことしたらマロンが死んじゃう!」
フィーネももちろん、頷けなかった。
例えリリルが助かったとしても、マロンが死んでしまえば意味がない。それに、リリルは大きな後悔を抱いて生きることになるだろう。
「マロン、やっぱりあなたがやろうとしていることは――」
「勘違いするな。俺は命を犠牲にしようなんて思っていない」
マロンはそういって、みんなを押しのけた。
ゆっくりと門を見上げる。そのまま歩こうとした瞬間、ギブソンに肩を叩かれた。
「お前さん、何を犠牲にするつもりだ?」
マロンは振り返って笑う。そう、命は犠牲にしない。だが、それに匹敵する何かを犠牲にするつもりだった。
マロンにとってのそれは、あまりにも大きい代償だ。
「死にはしないさ」
ギブソンの制止を振り払い、マロンは門の前に立つ。
そして、願った。先生を助けたいと。そのためなら、大切なものも渡すと。
門は、頷く。そして、敬意を払った。
その決意と覚悟に。
◆◆◆◆◆
「以上が、ラフランカ帝国が消えた真相である」
ギブソンは、見たままのことを口にしていた。それを聞いた学者達はただざわめくだけである。
ある者は、改めてギブソンを評価していた。
ある者は、ギブソンの学説にあり得ないと提唱した。
だが、ギブソンは気にしない。なぜならこれは真実であるからだ。
「物議が交わされていますね、教授」
そんな中、一人の女性が声をかけてきた。振り向くとそこには、すっかり顔色がよくなったリリルの姿がある。
「久しぶりだ。その様子だと、すっかりよくなったようだな」
「ええ、自慢の弟子達のおかげです」
その手には、一つの指輪がある。それを見たギブソンは、優しく微笑んでいた。
「初めてのプレゼントは気に入っているようだな」
「これがないと、身体が爆発してしまいますので。まあ、悪くないデザインです」
マロン達が見つけたアーティファクト。それがリリルの命を繋ぎ止めている。
しかし、リリルは知らない。それが何を犠牲にして手に入れたものなのかを。
◆◆◆◆◆
「マロン、まだつかないの?」
「もっとゆっくり走ってよー!」
「静かにしろ、お前ら」
マロンは相棒達を連れてバギーを走らせていた。いつも通り賑やかで、悩みが尽きない。
だが、そんなことを考えていると突然バギーは煙を上げて止まった。
「な、なんだ?」
慌てて降りてエンジンを見る。するとなぜかドロドロに溶けていた。
思いもしない出来事にマロンは固まる。
「ちょっと、なんでエンジンがこうなるのよ?」
「やっぱ安物を買ったからだよ」
「金がないんだ。仕方ないだろ?」
「歩くなんて嫌よ? マロン、責任を取ってよ!」
「僕は頭に乗るー」
「お前らな……」
マロンは頭を抱えていた。そんな時、そんなマロン達を見てクスリと笑っている少年が目に入った。
マロンは思わず視線を向ける。しかし、そこには何もいない。
「どうしたの?」
フィーネの問いかけに、マロンは「何でもない」と答えた。
「そう? でも気をつけなさいよ」
「ああ、わかっているさ」
〈願望の門〉の影響で味覚を失っていた。もしかすると他にも何かを失っているかもしれない。
しかし、そんなマロンの目に時折、何かが見える。それはいつも、温かく見守っているような気がしてならなかった。
「歩くぞ」
道のりは長い。
人生の終わりにしても、何かを達成するにしても。
二つ星のトレジャーハンター、マロンはその果てしない道を歩く。
大切な仲間達と共に。
願いを叶えたことで、味覚を失ったマロン。
だが、後悔はなかった。
次なるロマンを求めて二つ星トレジャーハンターは、旅をするのだった。
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ご拝読ありがとうございます。
もし機会がありましたら、続編を書いてみたいと思います。




