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4・海賊波止場 2

辺境軍ばっか書いてたおかげで、キレイに内容忘れてますね……

 船長の言うスペースパトロール……の隊長の女に敬礼され、ナルミは慌てて柵から離れた。

 船長の姿も見えたが、監視、拘束されているような気配もなく、自分を捉えたはずのスペースパトロールたちとも、どこか楽しげに談笑していたのだ。

 と、言う事は、あのスペースパトロールは船長と同じ一味で、船長の芝居に乗っかったのだろう。

「全く、あの船長は……」

 ナルミは呟きつつ溜め息をつき、そして苦笑した。

 船長ってのも、あながち嘘ではないだろう。先ほど窓から見下ろした際、他の者たが船長へ接っする時の態度から、その立場ぐらい察する事は出来る。スペースパトロール隊長の女も、船長に一歩引いているような気配があった事から、あの場にいた誰よりも格上の立場だったんだろう。だから、あの隊長も話を合わせるしかなかったのだ。

 深呼吸してナルミは周囲を見回す。

 宇宙港の中なら、立ち入り可能な範囲だが一通り足を運んだつもりだったのだが、ここには来た事がなかったのだ。

 というか、ここは今まで立ち入り禁止区画だったはずだ。

 俗に海賊波止場なんて呼ばれてる天道中継点の旧区画で、ガラの悪い船乗りが来た場合のみ、隔離場所として解放されるのだとか。以前、施設の人間から、そう聞かされていた。

「海賊波止場に宇宙海賊か……」

 ナルミは呟く。

 波止場から見えた船長達の船は、全長が五十メートル程だろうか。アスタロス号は全長千二百メートルなんて言っていたが、桁からして全然、足りてない。

 ただ恒星船としては、極めて小型の部類になり、これはこれで珍しい……というか、こんな小さな恒星船なんて存在すら知らなかった。

 宇宙港に出入りし、様々な恒星船を見てきたナルミの直感は、この船に恒星船としての能力がある事を直感的に見抜いていたのだ。

 亜光速推進装置が組み込まれているような気配が感じられる。小型化した結果、隠しきれなくなったのだろう。

 推進剤を限りなく光速近くまで加速させる事で、その反動で進む船体も限りなく光速へと近づく。その船体の持つ運動エネルギーを空間に作用させ、離れた二点を繋ぐ特異点を作り、そこを潜り抜ける事で長距離を一瞬で跳び越えるのだ。

 空間跳躍航法と呼ばれる航法であり、恒星船には必須の能力である。そして、亜光速推進装置を持つ船ならば、この空間跳躍航法が可能だと考えても差し障りはない。

「このサイズの恒星船……目立たせないために海賊波止場を使ってる?」

 ナルミが見抜いたように、分かる者が見れば、この船が恒星船である事は見抜けるのだ。一般向けの波止場に碇泊させていたら、かなりの船乗り達が、この船に興味を持つだろう。

 そう考えれば、目立たせないために海賊波止場を使っているというのは、理にかなっている。

 そんな船を所有する船長とは、一体何者なのか? 

 考えてみるが、ナルミには全く見当も付かなかった。

「結局、最後まで謎の人か……」

 ナルミは、大きく息をついた。

 あの船長が何者なのか、結局、解らずじまいだ。

 優秀な人間として遺伝子を操作され産まれた手前、ナルミは人よりも頭は回るつもりだった。でも、船長はナルミより何枚も上手だったのだ。

 でも、不思議と悔しくはない。

「また会えるかな……?」

 何となくだが、船長と再会できそうな予感があった。状況だけで判断すると、もう会う事などありそうにもないんだけれど。

 初めて海賊波止場に入れたのだ。せっかくだし、少しばかり見学させて貰おう。

 そんな事を思いつつ、ナルミは海賊波止場の中を歩き出した。

 五百メートル級の恒星船が収容できる密閉区画が五つもあるが、使われているのは二つだけだ。

 つまり、船長達と、それば別口の利用者が一組いるわけだ。

 せっかくだから、見ておこうか。

 そんな事を思いつつ、もう一つの区画、その近くまで行ってみた。

 もう一隻は、一般的な輸送船だった。ただ、今ひとつ大切に使われている気配はない。外装は汚れているのに、そのまま放置されていた。既に出向準備に入っているのに、だ。

 船を清掃する時間は、十分あったはずだ。なのに放ったらかし。

 恒星船乗りにとって、船とは職場であり商売道具であり、そして家でもあるのだ。だから、皆、船を大切に扱う。少なくともナルミの知る船乗りは、皆そうだった。

 だが、この船の乗員は違うようだ。

 ……こんな船に乗る者たちだから、この海賊波止場に回されたんだ。

 ナルミは、そう直感した。

 嫌な予感がした。だから、この場から離れようと思った。でもできなかった。

 振り返ると、三人の男がナルミの退路を断っていたのだ。

 喧嘩でもしたのか、顔には痣と血の流れたような痕。ナルミの短い人生経験でも、この状況は拙いという事が認識できた。

「なんで、こんな場所に子供が……?」

 一人が怪訝な顔をして言う。

「だけど、オンナだ」

 その言葉に、ナルミの全身が泡立つ。

 ここに居るのは拙い。ナルミの直感は告げていたが、足が竦んで動かないのだ。

「さっきの女の埋め合わせを、このガキでするか……あの騒ぎでも、警備員は飛んでこなかったしな」

 男達の怪我は、乱闘騒ぎでもやらかしたためらしい。その際も保安員が来なかった点から、海賊波止場は、保安監視対象から外れていると判断していると。

 その判断は、恐らく正しい。ナルミにとって、絶望的な状況だった。

『深呼吸は気持ちを落ち着ける』

 前、船長に言われた言葉を思い出した。そして男達に気づかれないよう、ゆっくり息を吸い、そして吐き出した。

 どうにか体は動いてくれそうである。

「出航時間が迫ってるんだ。ここで始めるなよ……」

 その言葉と同時に、ナルミは駆け出した。が、男達の一人が、無造作に繰り出した前蹴りを腹に喰らい、意識を失ったのだ。

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