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それから……その騒ぎから数年後のことだ。
我々は直ぐにその場で捕らえられ、一時的に拘束されはしたものの。間もなく、元・早見沢国民やH・S・A会員らが集めた数千万名分にも及ぶ嘆願書が効果を発し、早見沢国家解体を条件に再び自由の身となった。
そして今や、国民皆の意識は変わり、政治参加が活発化し。平均投票率も八十パーセントをしばしば当たり前のように超えるようにもなり。あかりも私も先ずは、ほぅ……とひと安心をしている。
そうして、皆が一時期のホリエモン程に娘のことを忘れ始めた頃。私は石垣島近くの孤島で、娘と共に、花粉症対策にと避難ばり平和に過ごしていた。
んで、そんなとある日の午後。新聞紙を広げながら……私はつい。
「世界の経済活動が及ぼす環境問題が、またまた深刻化しているようだなぁあ~。
しかもついでに、食料問題までもかぁ? こちとら、花粉症だって大変だっつぅーのによぉ。
世界は更に、困ったモンだねえぇ~」
と悠長に言った。
そんなところへ、娘あかりは私の前のテーブルの上に珈琲を置きながらこう言う。
「それはまた、重大な社会問題ですね」
あかりは、『それはイケない』とばかりに真剣な表情を浮かべ、手を『ポン☆』と打ち。
「経済クーデター、起こしますか?」
と真顔で言う。
「経済クーデタぁあー?」
私は、持っていた新聞紙を思わずポロリと床に落とす。
「取り敢えず活動資金として、父様の少ない銀行預金から黙って借り入れ、株式取引とFXで増やしておきましたから。これを使いましょう!」
「又しても……少ない預金は、余計なお世話だが……どれどれ?」
6の後に、やたらと0が並びまくっていた……。
「……6000億……いや、まさかの六兆円か?!」
「600兆円です」
「…………」
またしても、目を丸く点にしていた私を見て。娘は不安気な表情で、「足りませんか?」と聞いてくる。
「……足らん、こともないな……」
私は最早驚くことも無く、無表情にそう返した。
そして次に、ふっと笑みを浮かべ、こう付け加える。
「で……取り敢えず、どこの『国ごと』買収する気だよ?」
石垣島の孤島で、現実有り得ねぇーくらいに高い超高層ビルの最上階に作られた自宅テラスで。私は、あかりにそう愉快に笑顔を向け問うていたのである──。
―可憐なる独裁者―【完】
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