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 その一月後となる、この日。多くのSPから守られながら、福田福助内閣総理大臣はやってきた。

 元・市役所であった早見沢国家大統領府には、《H・S・A親衛隊》が周囲の警備に当たり、関係者以外は立ち入れないよう厳戒態勢を取っている。


 因みにH・S・Aとは、《『は』やみ『さ』わ 『あ』かり》の頭文字を並べただけらしく。娘あかりが新設した訳でも私が命じた訳でもない。彼ら《H・S・A親衛隊》の団長とやらが勝手に組織した、『早見沢あかり』ファンの者達ばかりが集まって出来あがった、言ってしまえばファンクラブ組織である。


 その会員数、凡そ35700名。(早見沢国家内だけでの調査数)

 早見沢国家外の者達も含めると、会員数150万人を既に超えていると聞く。


 今や早見沢国家大統領府内にも、頼んでもいないのに警備を理由に各所にて常に待機し、うちの娘を24時間体制で守ってくれている。

 そして今日に至っては、これから会見を行う会議場内にて、福田総理を守るSP側と娘あかりを守ろうとするH・S・A親衛隊が睨み合う形で会談は行われていた。


 まあ、なんというか……やれやれだねぇ。



「つまり、ここに居る役所の者達は、元々我々の職員なので。即刻、返して頂きたい訳です」

「……なるほど。それも、一理ありそうですね」


 娘は、実に意外なほど簡単に納得していた。

 これには、この会見に同席していた我が早見沢国家の閣僚や秘書官その他から、一瞬、動揺めいた声が上がる。

 この周りの反応には、私も同感だ。


「で、その期限はいつまでに?」

 そう聞いたのは、福助総理からではなく。意外にも、娘の方からだった。


 ──期限だってぇ!? そりゃあ~本気かぁあ?


 福助総理も、始めは意外に感じたのか? 驚いた顔を見せていたが、間もなく。


「出来ましたら、今月中、という方向でお願いしたいですね」

「──今月中!?」

 それには流石の娘も、顔を曇らせる。


 更に、周りに居た閣僚や秘書官その他もついにザワつき始めた。

 それら周りの反応は、仕方がないコトだといえる。


 初めは、独裁国家など悪いに決まっている……と不平不満な意見が、各役所内外問わずから湧き起こり対応に追われる毎日であったが。独裁国家とはいっても、この半年間で娘が執り行ってきた政治体制は、アメリカばりの大統領制に近く。先の大統領選から直ぐに、ネットや回覧などを通じて、国民の意見を汲み取り。娘がシステム的に作った、歳入と歳出のバランスを自動グラフ化するソフトにより、随時誰しもが目で見える形で国家財政込みでの政策をシミュレートし検証を行えることが出来るようになっていた。


 今ではそのシステムを使い、意見を切磋琢磨に国民皆で議論し合える政治体制に合った仕組みも整えられ、それは既に施行され始まっている。


 娘は、その議論の中から出てきた内容を精査し、主だった政策を大きく幾つかに纏め掲げ。周に一度、ネットなどを用い《国民投票》という形で集計実施し、政策実現を地道に重ね続けた。


 結果として、今では投票率が常に九十%を超え。この早見沢国家では二十%の増税がなされることになったが。福利厚生面では、全体として国民の納得出来るものになっていた。これにより、年金納税額も過去最高となり、その安心感からか内需も拡大され、結果として税収も上がり始めている。


 しかし娘は、セーフティーネット(社会保障)については『これで良いでしょう』としながらも。そればかりでは、共産主義的なデメリット色が次第に色濃く広がる(頑張っても、頑張らなくても、結果が余り変わらないことから起こる国際市場競争力の低下)恐れがある、とし。『働かざる者喰うべからず』、の言葉があるように。頑張っても頑張らなくても結果が同じとはならないよう、頑張った者には、頑張った分だけの利益配分が正当に行われる仕組み作りを、ネットや回覧調書を用いて研究し続けた。


 その結果、新たな評価制度&セーフティーネットとして。収入の少ない者は、保険負担額などを軽減化、若しくは場合により無くし。その代わりに、国民税負担額を増大させる。

 しかしその国民税すらも払えない者には、後でまた改めて記すが、《社会奉仕活動ポイント》が義務付けられる。


 逆に収入の多い者は、保険負担額など社会保障は高負担にし。代わりに、国民税負担額を一律型の実質減税措置とすることで、納税額を減少させた。


 つまり資産家に優位性を持たせ、そうしながらも低所得層が払えない社会保障額のバックアップとする。



 しかし、これだけではまだとても足りそうにもない。

 そこで……それに併せ、消費税も一定額以上を納めた(金を使った)場合には、段階的に減税額を更に増やし。それにより、資産家達や中流層の”個人消費を促す”ことにした。


 また、従来からある生活保護者には年間の《社会奉仕活動ポイント》を義務付け。生活保護を受ける代わりに、義務付けられた社会奉仕活動のポイント分を、『その能力に応じて奉仕する』ことを義務付けた。



 それにより、セーフティーネット(社会保障)は確保しながらも。頑張った者と、そうでない者との差別化を図り、内需拡大策も講じ。これで上手く行くか行かないかは、実のところ未だ不明ではあったものの。不満解消と、やり甲斐のある社会作りの両立を目指し続ける姿勢を崩さなかった。


 その甲斐あってか……。

 つい数日前、秘書Aがこんな報告書を持ってきた。


 二十代半ばの若い女性だ。

 まぁそれでも、うちの娘からすれば、オバチャンだが。


「閣下。朗報ですよ! 年金の納税額が過去最高になりました。更に、国内需要も拡大傾向にあるそうです!」


 それに続いて、ノートパソコンを確認しながらインテリっぽい秘書Bが口を開く。

 こちらは若い男性だ。


「中には依然として、色々とあら探しをする者も居るようですが……。

概ね、毎年その税の使い方を自分達で決められる、と。閣下を賞賛する書き込みが多数を占めております。

それに、数字は正直なものですねぇ……。出入国を、閣下が原則自由化したことで。国内からの人口の減少を当初、私どもは懸念しておりましたが。嬉しい誤算で、色々とネットなどを通じて噂を聞きつけてか。逆に、人口が増え続けております。現状としては、我が国家への入植者の待機待ちの問題解決が急務となっているくらいですから、驚きます」

「国外……特に、日本国からの批判が未だ続いておりますが。ネット上で、これだけの評判です。

きっと近いうちに、理解される日もあるのではないでしょうか?」


 その二人の表情は、この結果に対する自信と誇りに満ち溢れていた。

 ムサイ艦橋風に改装した元・市長室内で、シャ○ーアズ○ブ○ばりなコスチュームを着込んだ娘あかりが、そんな二人に気を緩めた笑顔を向け。それから瞬間なにかを考え、それに対する疑問点を聞いた。


 因みに勿論、秘書二人とも《ジオン軍》の軍服である。



「それは嬉しいニュースですが……その入植者の内訳には。金融危機以来の派遣切り難民、またはそれに準ずる者が多く含まれてはいませんか?」


 そんな娘の言葉に、二人は緩めていた表情をハッとした顔に変える。


「現在、統計調査中ですが……内訳は、色々ですね。確かに、閣下が御指摘の通り。富裕層や中流層である者よりも、派遣切り難民その他と思われる者の数が圧倒的に多いと思われますが……」

「……全体として緩やかな回復傾向とはいえ、この世界的経済難が未だに収まらぬ中。皆、すがる思いで来たのだろうと思われるのですが……。今からならばまだ間に合いますので、そうした人達は皆、日本国へ追い返すことに致しましょうか?」


「いや。それ自体は問題ないので、そのままに」


 その娘の言葉に、秘書二人は安堵の表情を見せる。

 しかし娘は、単なる人情からそう言った訳ではなかった。


「単に、楽をするつもりで来たのであれば。他の我が国民の迷惑になるので、遠慮願いたいものです……。ただ、派遣切り難民だろうが何であろうが。本当にやる気のある者ならば、当然受け入れますし。受け入れてみなければ、判断も出来ません。また、経歴だけで判断してはならないのだと思います。

但し、もしそうでないのであれば……我が国の、『評価制度』の洗礼を、否応無しに、その身をもって受けることになるでしょう……。

それだけの制度機能が『既に完成してある』と。私個人としては、信じていますから」


 それにも職員二人は互いに顔を似合わせ、自信を持った顔で力強く頷いた。



 これまでに、ネットを通じての国民との直接対話を繰り返し。大きな国としての方向を指し示し、直接的国民投票をもって、それらを叶えるようにする為の努力を重ねてきた。

 これで何か問題があったとしても。国民は納得こそしないだろうが、理解はするだろうし。その解決の為の改善と努力を怠りはしないだろうと、多くの者はいつの間にか、この娘のコトを信じるようになっていたからだ。



 次に娘は、私に意思確認するかのように、目を向けて来たので。私も同じく、それに頷いた。

 私の理由も、他の二人とまったく同じだ。


 それを受け、娘は快く笑みを浮かべ。それから再び、口を開く。


「では……その筋を通す為にも、私は私なりで、為すべきことを実行に移すことにします……。

以前、素案であったように。企業に対する、法人減税特区を早急に国内に設け。外部からの企業を呼び込み。それを新たな、雇用の安定策とする……。

これを具体的に検討してみることに致しましょう!

この件についての情報開示と統計調査を、早めに、ネットと回覧で国民皆へ流すよう手配して下さい。その結果をもって、政策にし、《国民投票》に揚げます」

「はい、直ちに」

「取り急ぎ、行います!」


 二人はジオン公国式の敬礼をし、直ぐ様に出ていった。



「……大したもんだなぁ」


 出航は風が吹かず、または嵐にもなり難航を極めていた。

 しかし今は、適度な風が吹き。更には、自力で航海する為の動力もみんなで開発し。今、共に進もうとしている。

 全ては、いよいよこれからだ! と皆がそう思い始めていた矢先に、福田福助総理がやってきたのだ。



 私は再び今に思いを戻し、そんな娘を見る。

(……一体、何を考えて……? まさか本気で、なのか??)


 実は私には、それに思い当たる節が、一つだけある。

 私は、そこで再び……数日前の出来事を思いお越していた。




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