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かくして我々は、市役所へと最新鋭戦車で乗り込んだ訳だ。
「降伏しろ!? あんなモノまで持ち込んで……戦争でも始める気かね、君は!」
紅潮気味に市長は机を『バンバン☆』と叩きながら、大いに抗議していた。
気持ちはよく分かる。
実際バカげていると、今更だが、私だって思いはする。
「戦争など、するつもりは有りませんよ。あなたが市長を辞め。市を、我々に大人しく〝提供〟するのであれば……ですがね」
娘は、冷静な物言いで淡々と言ってのけた。
娘の方は、こりゃ本気のようだ。
これが返って相手を威圧し、娘の本気を窺わせたらしい。それで、市長の顔色が見る見る青ざめてゆくのがよく分かったからな。
「時間を、五分間だけ上げます。こちらも色々と忙しいもので、それ以上は待てません。そこから一秒でも過ぎたら、構わず攻撃を開始します。
宜しいですね?」
「あ、いや! ま、待て! 待ってくれ!」
市長は顔面蒼白で、娘あかりに対しそう言っている。
「なんですか? 言って置きますが、時間延長などする気はありませんよ。しかも、カウントダウンは既に始まっておりますので。悪しからず」
「い、いや! そうじゃない。……分かった。降伏しよう」
そんな訳で、いともアッサリこの市は陥落した。
「信じられん……」
まぁ市長としては単に、時間稼ぎを計ろうと今の発言に及んだだけなのだろうが。うちの娘はそんなに甘くはない。
もちろん、経験上だ。
思った通り、娘あかりはふっと笑むと市長室の窓をサッと開けた。
見ると市役所の前に駐車中のうちの戦車(通称:猫まんま)から、この三階の窓にまで超集音マイクが伸びている。
「聞いた通り! これによりこの市は、我々〝早見沢〟家が預かることになります! 以後、皆様、お見知り置きを♪」
その市長の肉声は、衛星中継で全国中どころか世界中に流されていたのだ。しかもカメラアイがこちらをバッチリと捉え、それも同時全世界放送。
娘あかりのその宣言と優しげで美しい微笑みが、世界中のマニア達を一瞬にして『それもいいかも?』と納得されるほどの威力。
まさか、コレか……改装費6億円、ってのは?
「しっかし……よくやるもんだなぁ」
私は、頭を軽く抑えながら思わずそう零す。
……それから一週間後。
売国奴ならぬ、売〝市〟奴などとレッテルを貼られ、散々マスコミ等に叩かれた元市長は。この市を、家族共々泣く泣く出ていった。
娘はそんな元市長の後ろ姿を、悲しそうな瞳で見送り。こんな意外なことを、ポツリと零す。
「……人は、傷付き弱った者を。更に平気で、叩いたりするのでしょうか?」
「ン……?」
この子の中の優しい気持ちが、それを言わせたのか?
それともただ単に、人を客観的に観察しての感想を一つ述べたに過ぎないのか? 私には、正直いってよく分からない。
『お前が言うな☆』
って言葉も、勿論ありそうな訳だが……。しかしその感想になら、私なりに付け加える言葉がどうやらありそうだ。
「『傷付き、弱った奴だからこそ』って……見方も出来るのだろうけどなぁー?」
娘は瞬間驚いた表情で、それこそ真っ直ぐ、そう言った私の顔を見上げてくる。
その時の娘の表情は私の胸を抉るかのように、〝まさか〟って感じだ。しかし、私はこれまでの人生の中で、そういう奴を結構見てきている……。かくいう私だって、気づかずにやってきたこともかなりあるだろう。
思い浮かぶことだけで、幾つかあるからな。
だからこそ、その娘が今見せる真っ直ぐな瞳が、いまの私には痛く、突き刺さるかのように感じてしまうのではないのか……?
娘あかりはそれを私から感じ取ったのか、そこで一言だけ「悲しいですね……」と漏らし静かに俯いていたのである。