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瑚島憧護の囚人生活  作者: 水月さなぎ
Storage dive system
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記憶略奪者

「厄介なことになりそうだな」

 SDS室を出て軟禁部屋へと戻る道すがら、俺は盛大な溜め息をついた。

「枝宮なる……か」

 枝宮なる。

 枝宮月陽の一人娘。

 SDS開発者の一人娘ということで世間の注目を集めていたが、彼女は表よりも裏の活動を好んだ。

 表向きの仕事である忘却記憶の回収任務に従事しているSDストレージダイバーの数は現在八人。

 潜入適性者を日本全国から集めてそれっぽっちなのだから、SDがどれだけ貴重な存在か理解できるだろう。

 そしてさすがは枝宮月陽の一人娘と言うべきか、枝宮なるの適性数値も四百二十と平均よりもずば抜けて高かったという情報も流れている。

 しかし枝宮さんは一人娘をSDとして採用せず、自由気ままに行動させることを選んでいる。

 その結果、一人の記憶略奪者を生み出した。

 あらゆる夢に潜り、そしてアトラクタの箱を奪っていく。

 依頼を受けて箱を探すSD達は、彼女に何度も邪魔をされているらしい。

 他のSDからの情報によると、本人にとっては母親に与えられた玩具で遊んでいるだけのつもりらしい。

 略奪された記憶は依頼者に戻ることはない。

 忘却記憶は喪失記憶になってしまう。

 もちろん他の人間に記憶を奪われたなどということを表沙汰には出来ないので、依頼者には箱を見つけられなかったと報告することになる。

 箱は依頼者によって本当に分かりづらい場所に隠されている場合もあるので、実際のところその言い訳でも十分に通用する。

 こうして枝宮なるの存在は世間から隠され続けた。

 彼女は夢の庭で遊び続ける。

 まるで母親と戯れるように。


 他者の夢と記憶を侵略する略奪者。

 本来ならお縄になってもおかしくない犯罪者なのだが、如何せんSDSそのものが特殊であるため、証拠がないのだ。

 誰が誰の夢に潜ったという記録は機械に残らない。

 つまり痕跡を残さない。

 そして略奪する物が物理的なものではなく、記憶という心理的なものである以上、窃盗犯として指名手配も出来ないのだ。

 捕まえたところで取り戻すべきものがその手に存在しないのだから。

 だからこそ枝宮なるの存在は今まで放任されている。

 彼女に遭遇した場合は、SD自身の裁量で解決することというのが暗黙の了解となっている。

「しかしなんで結の夢にまで……」

 あいつの記憶なんて奪うほどの物じゃないだろう。

 そもそもアトラクタの箱なんて存在しない。

 今の結は忘却記憶なんて関係ない状態にあるのだから。

「ま……会ってみれば分かるか」

 結の夢に侵入されるというのは正直不愉快だが、しかし枝宮さんがああ言っていた以上、枝宮なるは必ず近い内に現れるだろう。

 奪われる心配は今のところないにしても、対策ぐらいは練っておかなければならない。

「女の子相手にあんまり手荒な真似はしたくないけど、仕方ないか」

 もうすぐ邂逅を果たすかもしれない少女に対して、俺は盛大な溜め息をつくのだった。


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