無駄にスペックの高い天才ほどタチの悪いものはない
俺の視界が不快なノーズブラッド&コンデスミルクから解放されて、見慣れたSDS室になったところでほっと息を吐いた。
「おかえり~」
枝宮さんの楽しそうな声が聞こえる。
専用の機械を使って俺がさっきまで潜っていた夢を、というか俺がさっきまで目にしていたものを 詳細に記録していた枝宮さんはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。
「ご苦労様。意外な隠し場所でビックリしたわ~。まさかベッドの下どころかベッドそのものを造り変えていたなんてね~」
「うぐ……」
思い出しただけでも穿きそう……じゃなくて吐きそうになる。
「と、とにかく俺の仕事は完了なんで戻らせて貰いますよ」
「え~。もっと観察しない? 結構面白い画像とかあるわよ?」
「一人で勝手に観察してください」
「つまんないわね」
「………………」
この人の感性だけは本当に理解できない。
馬鹿と天才は紙一重どころか、変態と天才は表裏一体なのではなかろうか。
「じゃあ失礼しますね」
「はいはーい。私はもう少しこのフェチたんを堪能……じゃなくて研究するわ~」
「……堪能って言いましたよね?」
「うっかりすると本音が出ちゃうのよね」
「歳を取るとその辺りがずぼらにな……ぎゃふん!」
さっきまで俺が使用していたヘッドホンをぶん投げられた。
おいおい一応精密機器だろうが!
つーか特殊公安部の備品だろうが!
もっと大事に扱えよ!
……などと呟きながら恨めしそうな視線を向けてみるのだが、
「私が壊しても自分で修理できるんだから問題ないでしょ」
とのことだった。
無駄にスペックの高い天才ほどタチの悪いものはないかもしれない。
これ以上付き合っていると傷口が広がりそうなのでもう敗北を認めて退室しよう。そうしよう。
「あ、そうだ。これから結ちゃんところに行くんでしょ?」
「ええ。外出許可は取っていますけど、何か問題ありますか?」
「んー。私的には問題ないんだけど、一応忠告しておこうと思って」
「忠告?」
「なるちゃんが近々結ちゃんの夢にお邪魔するって言ってたから、中で会うかもしれないわよ」
「んなっ!」
「あ、これ以上の質問は受け付けないからね。うちは基本的に放任主義なのよ」
「うぐっ!」
質問攻めにしようとした俺はそんな牽制を受けて黙り込んでしまう。
「分かりました。自分で何とかしますよ」
「良かったら遊んであげて。あの子あれで結構寂しがり屋だからさ」
「そうですね。母親の悪事をバラすついでに楽しく会話をしてきましょう」
せめてもの抵抗にとそう言ってみるのだが、
「うふふ。無駄無駄♪ あの子は私の悪事なんてみ~んな知り尽くしてるもの。というかこの奪い合いでさえ母娘間のゲームみたいなものだしね」
「最悪な母娘関係ですね!」
怒り混じりにSDS室から出て行く。
これ以上会話をしていたらマジで怒鳴りつけてしまいそうだった。