選ぶべきものは
「……ふう」
自分の身体へと戻った俺はヘッドホンを外して目を開いた。
目の前には眠り続ける結の姿。
俺がこうして彼女の夢に潜り続ければ、いつかは目を覚ます。
医者の話では脳波も変化していて、回復の見込みが出てきたとも言われた。
だから結はいつかきっと目を覚ます。
俺は再び結と再会できる。
だけど、その時俺は……
「結……」
痩せこけてしまった頬をそっと撫でて、名前を呼ぶ。
「………………」
もちろん反応はない。
当たり前だ。
「俺は、どうすればいいのかな……」
簡単に答を出せる問題ではない。
だけど、誘惑に抗えるほどの強さも持ち合わせていない。
強いけど、脆い。
脆いとは、つまり弱いということだ。
「強くなんかない。俺は、強くなんかないよ……」
なるの言葉を再び否定する。
あの男の記憶。
その何もかもを無くしてしまえたら、どんなに救われることだろう。
もしかしたら、俺が望めばなるは俺自身からもあの男の記憶を消してくれるのかもしれない。
彼女は俺の選択を見届けたいと言っていた。
つまり俺の望みを叶えることで起こる変化を見届けたいということだろう。
結だけではなく、俺自身からも人殺しという事実を消し去ることが出来る。
少なくともその記憶を。
殺したことに対する後悔はない。
だけど罪の意識は常に感じている。
その罪が、俺を苛む。
だからこそそれを失えば俺は取り返しの付かないことになるという確信もある。
人間として大切な何かを捨ててしまう。
そんな気がするのだ。
「分からないよ……」
本当、どうすればいいのか全く分からない。
正しくあろうとすることはとても簡単だ。
だけど清濁併せ呑んで前に進むことはとても難しい。
それでも俺は考えなければならないのだろう。
答を出す為に。
未来を選ぶために。




