強さと脆さ
「どうしてそんな提案を俺にするんだ?」
俺の気持ちは定まらない。
消して欲しいという願望と、それは違うという否定が同じ割合で鬩ぎ合っている。
だからこそこれだけは訊かなければならない。
枝宮なるの目的を。
どうしてそんなことをするのかを。
問い質さなければならない。
「知りたいから」
なるはあっさりと答えてくれた。
囲むように歩いていた足を止めて、俺の両頬に手を添えながら続ける。
「貴方の心はとても強い。剥き出しの魂を他者の悪意に侵蝕されない程に。だけどそれは強いだけだとあたしは考えているの」
「強い……だけ……」
「強さの裏側にあるものはきっと、脆さだと思う」
「脆さ……」
「そう。ふとした切っ掛けで全てが崩れ去ってしまうほどの脆さ。だからこそあたしはそれを試したい」
試す。
つまりそれは……
「好奇心、か?」
「その通り。ママが憧護くんに抱いているのと同じ気持ちね」
「俺は、強くなんかないよ」
「そうかもしれない。だからこそ試す価値があるのよ。如月結から都賀峰隼人の記憶を消したとき、つまり貴方が人殺しという罪から逃げ出したとき、その心にどのような変化が訪れるのか。具体的にはSDとしての適性数値にどのような変化があるのかを、ね」
「………………」
「適性数値千八百という数値は、本当にただの数字なのか、それともその強さに裏打ちされた確かなものなのか、あたしはそれを知りたいし、見届けたい。一人のSDとして」
SDとして。
なるはそう言った。
記憶を奪い、時には改竄するだけの彼女にも、SDとしての矜持があるのだろう。
それがどんなものなのかは分からないけれど。
彼女自身も譲れないもののためにここにいるのかもしれない。
「つまり、俺がその提案を受け入れることを君は望んでいるんだな?」
そうすることで俺に起こる変化を見定めたい。
そういうことなのだろう。
「それは違うわ」
なるは俺の両頬から手を離して、そしてくるりと背を向けた。
「憧護くんがどんな答を選ぶのか、そして選んだ先に訪れる未来がどんなものなのか、あたしはそれを知りたいだけ。この提案を受け入れるのも拒否するのも、それは憧護くんの自由なのよ」
「………………」
縛られない言葉に絡まる、逃れえないほどの鎖。
自由という言葉こそが何よりもの不自由を強いることを、俺は改めて実感した。
「今日はここまで。また会いに来るから、どうするかを考えておいてね」
「ああ……」
なるはそのまま軽く手を振ってから消えてしまった。
自分の身体へと戻ったのだろう。
同時に俺の身体も薄れはじめた。
制限時間である九十分が経過したのだろう。
逆らうことなく目を閉じた。




