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瑚島憧護の囚人生活  作者: 水月さなぎ
Storage dive system
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陽だまりの少女

 忘却記憶を取り戻し、そして隠蔽記憶を暴き出す。

 SDSの表向きの、そして主立った役割はこの二つだ。

 表の仕事に従事する僅かなSD達もこの二つが全てだと思っている。


 しかしSDSの可能性はそれだけではない。

 一つ確認されていることは、他者の夢、記憶へと潜ることで、その記憶の書き換えが可能になるということだ。

 もちろん簡単にはいかない。

 書き換える記憶そのものを用意しなければならないし、その記憶を夢の中で具現化し、書き込むだけの意志力が必要になってくる。

 夢の中で物質や捏造記憶を具現化するには、SDの意志力が必要になってくる。

 明確なるイメージを確固たる形へと固めていく作業。

 この作業はセンスと慣れが必要であり、現在活動中のSDでこの具現化能力を使いこなせるのは三人だけだ。

 もちろん他の連中も具現化能力だけなら発現出来るが、精々ナイフやハンマーなど、単純な破壊道具に限られる。

 どうしてそんな物騒な道具が必要になるかというと、夢、つまり記憶領域には明確な区切りがあり、一年ごとに階層化しているからだ。

 ここ一年の記憶を探りたいのなら潜った空間をそのまま探し続ければいいのだが、それよりも前の記憶を遡りたいのなら、現在の空間を半分以上破壊しなければならない。

 破壊することで時間を遡っていくことが出来るのだ。

 ちなみに夢の中のものをいくら破壊しても本人の記憶には何ら影響は現れない。

 影響が現れるのは『箱』を破壊された場合のみだ。

 初心者の潜入ではまずこの破壊作業に時間を取られて目的の箱を見つけられないという失敗が多かったりする。

 SDは箱を見つける洞察力と同時に、空間を破壊する道具の具現化、そして効率的な破壊能力を身に付ける必要がある。

 かくも一流のSDへの道は厳しいのだ。


 そして改竄記憶の具現化による記憶の書き換え。

 これはもう特殊能力としか言い様がない。

 現在この書き換えを可能にしているのはただ一人。

 枝宮なるだけなのだから。

 彼女は夢の中で記憶を奪い、そして書き換える。

 どのようにしてそんなことを可能にしているのかは不明だが、彼女との接触によってそれも明らかになるのかもしれない。


「とりあえず、まだ姿は見えないな。ならこっちもいつも通りの仕事をするとしよう」

 結の夢の中は静かな草原だった。

 一キロほど歩いた場所に大きな樹があり、その幹に背をもたれさせて読書をしているのが結である。

 結の年齢は俺と同じく十九歳。

 しかしこの世界の彼女はまだ十歳ぐらいの幼女だった。

 俺はゆっくりと結に向かって歩き始めている。

 本日は晴天。

 潜る日によっては雨だったり暴風雨だったりもする。

 しかし天気に関わらず彼女は常に同じ場所にいる。

 どれだけ天候が荒れても、あの樹の下にいる限りは影響を受けないのだ。

 まるでバリアが張られているかのようにあの周りだけ雨も風も入ってこない。

 この広い草原の中、そこだけが唯一安全な場所なのだと示すように。

「こんにちは、結」

 声をかけると俺に気付いた結ゆっくりと顔を上げた。

「こんにちは、憧護くん」

 憧護くん――

 今の彼女は俺をそう呼ぶ。

 この世界で何度か関わる内に、結は俺の名前を憶えてくれた。

 しかしあくまでも頻繁に訪れてくれる夢の旅人を記憶してくれているのであって、かつて恋人同士であった瑚島憧護として認識しているわけではない。

 今の如月結の精神はあくまでも十歳の女の子であり、十九歳の彼女ではない。

「隣、いい?」

「いいよ」

 巨樹の幹にはまだ余裕があり、俺が結の隣に座っても問題はない。

「読書、大分進んだ?」

「うん。結構進んだかも。憧護くんのお陰だね」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね。結が頑張っているのも確かだよ」

 結は本を閉じて膝の横へ置く。

 俺との会話に集中するためだ。

「今日は何か面白い話ある?」

「面白い話は、難しいかもなぁ。今日は鬼軍曹がいなかったから」

「あはは。じゃあ鬼軍曹さんにいつも踏まれたり蹴られたりするお話は聞けないんだね。ちょっと残念」

「………………」

 確かに会話を弾ませるべく俺と鬼軍曹のエピソードを面白可笑しく、多分あんまり脚色していない状態で語ったりもしたのだが、ちょっと会話の選択肢を間違えてしまったかもしれないと後悔してしまった。

 将来、結がそっちの趣味に目覚めたりしたら非常に困るのだが。


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