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第六話:一方通行な好感度MAX

第六話

 夏八木千波は俺の部屋の窓から見える距離にいつだっている。

 これってプライバシーの侵害じゃないかしら。

「兄さん」

「なぁに千波ちゃん」

「兄さん!女言葉を使うのはやめてください!幼少のころを思い出します!」

「そいつは失礼した」

 千波の口調がちょっとでも強くなったら限りなく赤信号に近い黄色信号である。彼女を怒らせると現状でも頭があがらないのに土下座させられる勢いになり、ご機嫌取りに財布が軽くなると言う(しかも、満足しなかったら更に機嫌が悪くなる)ことになるのだ。

「掃除していたらアルバムが出てきたんです。一緒に見ませんか」

「おう、みるみる」

 たまにあることだ。でも、不思議な事にこれまで同じアルバムを見せられた事は無い。

「そっち行きますね」

「じゃあお茶を準備しとく」

「いいです。千波がしますから」

 窓から窓へ渡ればすぐに来れる距離だ。落ちたとしても多分、今なら引っかかる事が出来るだろう。俺はたまに千波の部屋に行く時にやる…ただし、俺の妹分は絶対にそんな事はしないがな。俺がやっても相当怒る。危ないんだと。

 数分もせず、千波が部屋にやってくる。既にお茶まで準備して持ってきてた。

「器用だな~頭にアルバム載せてお茶まで持ってきたよ」

「早く来たかったですから。こういうときじゃないと部屋に入りません」

 おかしなことを言う娘さんだ。

「別に用事が無いからって来ちゃ駄目ってことはないだろう」

 それに窓を開ければ目と鼻の先にあるのだ。

「そう、ですか?」

「ああ」

「じゃあその言葉を信じます」

 何だかいたく感動しているようだ。このまま押し倒して抱きしめたい…って、俺は何を考えているんだ。

「こほん、じゃあアルバムを見せてくれ」

「はい、いいですよ。こっち来てください」

 ベッドの上に陣取った千波の隣に座り、ページをめくる。

「うわーこの頃の千波、可愛いな」

「兄さん、その言い方だと今が可愛くないように聞こえます!」

 ここで、今も十分可愛いぞ…なんて言ったら間違いなく変な空気になる。千波がどうなるかは分からない…俺は間違いなくなるだろう。そして、そのまま抱きしめてどうかしちまいそうだ。

「嘘だよ、嘘。冗談だ。今はまた違った可愛さがある。あどけなくて護ってやりたいなって思わせる可愛さだけれども、今は女性的な可愛らしさだ。立派に成長したんだなって思うとあれ、涙が…」

「兄さん、ハンカチ…」

「うん、ありがとう。ずびーっ…洗って返す」

「いいです」

 汚れたまんまのハンカチを千波に返してページをさらに捲る。

「…俺が写ってるな」

「はい、それは…そうですよ。だって、隣にずっと居たんですから」

「………しかし、俺はあまり可愛くないな。背伸びしたい典型的なガキみたいだ」

 実際そうなのだ。サッカーするときだって、野球をするときだって、ままごと、お人形遊び、かくれんぼ、鬼ごっこ、だるまさんがコロンボなど等…何をするときでも千波と一緒で俺はお兄さんを演っていた。

 幼少のころにある『男が女と遊ぶなんて~』等とのたまったガキどもはその当時怖いもの知らずの俺は完膚なきまでに叩きのめし、『俺はいいの!』で通したもんだ。

「可愛いですよ。兄さんは…わたしを、守ってくれてましたから」

「そうかね。タイムマシンがあったら行ってデコピンしてやりたいぐらいだ」

「わたしは、戻ったら…兄さんを抱きしめますよ」

 そう言う事を言うのは、辞めてほしかった。

 その言葉のせいで微妙な空気になり、アルバムのめくるスピードを上げて、コメント発言を控えた。

「兄さん、此処懐かしいね」

「ノーコメント」

「脳コメント?心の中じゃ何と思ってるの?」

「うは、千波たん可愛すぎ萌えー」

「…」

 思えば小さい頃から千波が隣に居てくれた。今だってそうだけど、昔のそれとは違って千波が何を考えているのかいまいちわからないことがある。


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