第四十四話:ずっとずっと 終わり
第四十四話
六花先輩との初めての初詣っ。
あれ、初が被ってる…でも、初めてだから仕方がない。
六花先輩と、美也子先輩、百合先輩、がっちゃん先輩が来る予定だ。
さすがに夜中は女性が多い為止めになっていた。
「待たせたかしら?」
一番最初に来たのは俺、次は六花先輩だった。水色に、雪模様で、よく似合っていた。何を着ても様になるんだろうけどな。
もっともっと、六花先輩の事を見たい。
「意外と早かったですね。まだ、四十分ありますよ」
「早く来ないと君が電話してくると思ってね…『六花先輩っ好きですっ』なんて他の人に聞かれたら…他の人が不幸になっちゃうでしょ?ああ、あんな幸せそうなカップルは眩しすぎる…ってね」
「なるほど」
俺は居住まいを正し、咳払いをする。
周りなんて気にしない、俺の目には六花先輩しか映っていない。
「六花先輩、好きですっ」
「…よろしい」
周りから見たらあほなやり取りだろう…。
こっちに、近づいてくる足音が三つ。
「年始のあいさつが『好きです』ってどうかしら」
「いいんじゃねーの」
「お二人とも、あけましておめでとうですわ」
「先輩達、あけましておめでとうございます」
どうやら、俺の愛の告白はばっちり三人に聞かれているようだった。
「あら、早かったじゃないの」
六花先輩はいたって普通のあいさつをしていたりする。
「とりみださないわね」
「おもしろくねぇなぁ…」
「何故ですの」
てっきり取り乱すと思っていた(俺も思ってた)面子に六花先輩は宣言した。
「…晩冬冬治になるわ。冬治がわたしのことを好きというよりも、わたしのほうが、冬治の事を好きだから…何の問題も無いのよっ」
良く意味がわからない六花先輩理論のようだ。
「あ、ああ、そうなのね…」
何だか突っ込むと面倒な事になりそうだと懸命な美也子先輩は手を引いたようだ。笑顔が引きつってる。
「そうかい…おれにはよくわからんが幸せならいいんじゃね」
がっちゃん先輩も似たような結果に到着したらしい。
「…つまり、どういうことですの?」
百合先輩だけが小首をかしげて俺に尋ねてきた。
「…ふふ、よく聞いてくれたわね」
「わたくしは冬治君にきいたつもりでしたけど、説明してくれるのならお願いしますわ」
あちゃーという顔が百合先輩に向けられる。
百合先輩に何やら伝えている六花先輩はおいておくとして、美也子先輩達に尋ねてみた。
「先輩達も来るのが早いですね」
「いや、おれらはもう来てたんだよ。あそこの喫茶店で…」
そういって指差すさきに個人の喫茶店があった。
「まだ開いていないようですけど?」
「あの店、百合の実家なのよ」
「そうなんですか」
てっきり、豪邸に住んでいるかと思った。
「ま、あの家に泊まってたから早かったんだよ…それより、冬治はいいのか?」
「何がです?」
「六花と二人っきりで初詣に行きたかったんじゃないの?ほら、もう卒業しちゃうじゃないの」
「え、えっと、そうですけど…俺としては、美也子先輩、がっちゃん先輩、百合先輩たちとも初詣に行きたかったんです。だって、先輩達も卒業してしまいますからね。お世話になりましたし、少しの間…とても、楽しかったんです」
あの時六花先輩に電話をしなかったら俺は二人きりで初詣に行っていたと思う。そっちのほうがいちゃいちゃ出来たかもしれない…でも、今は違う。いちゃいちゃは終わってすればいい、先輩たちとも出来るだけ一緒に居たかった。
「冬治…お前ってやつは…」
「ぐへぇああっ…こ、これが無くなるとちょっと寂しっ…いです。涙が…出ますもん」
「六花ぁ、これもらっていい?」
「それはわたしのよ。駄目。ほら、さっさと離しなさい」
解放されて、一息つく。
「ふぅ…」
「冬治、まさか三年の最後になって…あなたみたいな可愛げのある後輩が出来るなんてねぇ…心底、六花が憎いわ。いっそ、刺し違えようかしら」
年始から何を言い出すんだろう、この先輩は。
「…六花、一週間だけ貸してくれない?」
一週間で私なしには生きられない体にするからと言っている。
残念ながら、今ではすっかり『晩冬六花専用』という肩書がついてます。
「駄目、ほら、触んないで」
二人を追い払っていると、百合先輩が近づいてきた。
「冬治ちゃん…いえ、冬治君は偉いですわね。ふられても、六花さんにしっかりと自分の想いをつげられたのですから」
「いやいや、あれは…偶然が続いただけです。気まぐれとか、百合先輩達に出会えてなかったら…在り得なかったと思います」
「人生、そういうものですわよ」
やたら重みのあるセリフであった。
「さ、行くわよー」
六花先輩が俺の手を掴み、宣言する。
「まだ時間ありますよ」
「誰を待つって言うの?全員そろってるのに」
「まぁ…そうですね」
「さ、おみくじ引くぞーっ」
「寝とり運で大吉を引かないとね」
「でしたらわたくしはおかし運で大吉を勝ち取りますわ」
友人達と一緒に行く初詣とはまた違う雰囲気だ。
一番普通そうな美也子先輩が寝とり運とか言ってるし…。
「冬治、君って他の男から睨まれてるわよ」
「はは、そりゃあ、そうですよ。何せ、六花先輩なんて綺麗な先輩に腕組まれてますから」
「よろしい、『ハーレムっすよね』って答えてたらどぶに捨ててたわ」
「冗談でも言うわけ無いですよ」
今年は、きっと楽しい事がもっと起こるはず。
卒業式じゃ、泣くだろう。
先輩がいなくなって、俺が三年の教室を使っても少しはへこたれるかもしれない。
でも、多分大丈夫だ。
六花先輩は…学園から歩いて五分の大学に通うのだから休み時間だってきっと、きてくれる。
そう思うと楽しくて仕方がなかった。
六花編、完結です。唯一の三年生…ツンデレと言うより我儘よりな人だったりします。実は、読み直す前は前回の終わりに冬治に好きと伝えていなかったりします。読み直して、気づきました。最後まで書いていたのに結局、告白しないまま終わってたんですよ。作者のほうがびっくり、いつの間にこんな展開になってたんだと慌ててやり直し…それはそれでいいと思いましたけどね。さて、春夏秋冬これで全部終わりです。全部読んでくれた方、なんと言えばうまく伝わるのか全然わかりません。だから、簡単に言います。読んでくれてありがとうございました。




