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第四十一話:告白(桜) 終わり

第四十一話

 さらに成績が良くなり、ついでに運動神経にも磨きがかかり、菩薩と間違われるぐらいの優しさになったと言われる桜は上から下から、同じ学年からもっと告白されるようになった。

 女子からは妬みと嫉みを一身に受け始めた…わけもなく、何故だか女子生徒からも告白されるようになったらしい。

 朝のHR前から引っ張りだこだ。一時間目から放課後まで告白のスケジュール埋まってるって何だそりゃ…。

「でさーその飛鳥って人がすごく強気な人でね、困っちゃったよ」

「ほー」

 いつものように俺と桜しかいない放課後。

 朝も一緒、お昼だって作ってもらってる、こうやって一緒に帰ることも出来ている…。詳しく言うなら、一つの大きなマフラーを二人で使っている…どう使っているかは想像に任せるとも。昨日、クリスマスプレゼントで編んだとかで…プレゼントされたのだ。


 舞い上がっちゃうほど、嬉しかった。


 お前もさっさと告白して敗れちまえと友人達は言って来る。

「春成桜さん、おれ…二週目入りました!好きです、付き合ってください!」

「ごめん、私…待っている人がいるから!」

 どうやら、桜が誰かを待っているのは本当らしい。

 その待ち人こそ自分だと疑わない連中を相手にするのは大変だろう。

「本当、御苦労さまだよ」

「え?何で?」

 本当にわかっていないようだった。

「あー、いや、だって、そうじゃん。律儀に毎回会って断ってるし…相手の気持ちも考えると大変でしょ?」

 そう言うと桜はふくれっ面になった。

「それさぁ、冬治君が言えるような立場じゃないよー」

「そうかな」

「そーだよっ…」

 髪の毛をいじりながら桜は独り言のように呟く。

「あーあ、ちゃんと冬治君がしてくれれば…困る事も無いのになぁ…」

 桜と呼び始めて、更に距離が近くなった気がする。こうやってアピールするようになって『結婚秒読み!』とか桜の友人達が言っていたりもするから…大変な事だ。

「あー…その事でさ、明日の、クリスマス会、桜に話したい事がある」

「…え?」

 ちょっとずるい気もする。

 気付けばお弁当のそぼろはハートマークになっていたし、桜の志望校の素晴らしさを一生懸命俺に伝えてきていた…あとは、『勉強するために取り寄せてみたよ』といって俺に婚姻届を見せてくれたりもした。ついでに言うなら女の子が生まれたらどんな名前つけるの?男の子は?何人ぐらい欲しい?…などなど。

 まぁ、相手の気持ちを知ってしまったのは完全に偶然だ。

 だから、俺が何とかしないといけない。桜はこうやって色々としかけてきても好きだとは言わないのだろう。

 それから桜は静かになった。

「ふー…いよいよ明日か」

 思えば、何で好きになったのか。

 最初は単なるいいなぁぐらいだったかな。

 それか、周りが告白しているから俺もいつか告白してみるかな…だったか。

 どっちにせよ、真剣に好きじゃなかったようだ。本当、桜に失礼だ。

 きっと、桜に告白している半分がふざけているに違いない…だとしても、かなりの人数に告白されてるじゃないか。二週目も入ったって人もいるし。

 クリスマス会なんてほぼ行って食事するだけだ。場所はホールである。

 恋人がいれば、さっさと抜ける人だっているし、その場で作ろうとする人もいる。契約彼氏、彼女だったり居るとか居ないとか…見栄張りたい人向きだな。

 行かない人だっている。俺は去年、行かなかった。ただ単純に風邪をひいただけだ。

 今年は絶対に行かなくてはいけない。

 そして、クリスマス会がやってくる。

 終業式が終わり、一旦家に帰る。もちろん、一緒に桜とも帰っている。

「冬治君…あのさ」

「うん?」

 今日は何だか二人とも緊張しているようだ。言葉なんて全然交わさなかった。悪い雰囲気じゃなかったけど。

「場所、私の方で指定していいかな?」

「わかった」

「その時になったら、電話するから。じゃあね」

 そういってマフラーから抜けて家に入って行った。

「ふむ、最初は二人だと歩き辛いって思ったけど…居なくなると寂しいなぁ」

 空いたマフラーの部分に鞄を巻いておこう。

「冬治君、あったかい」

 声真似してみた。もっとも、鞄がこんな事をしゃべるわけないがな…。

「坊主…寂しい事やってんな」

「あ、いや、これはその…違うんです」

 いいんだとばかりに通りすがりのおじいさんは俺に飴をくれたのだった。

 クリスマス会が始まったであろう時間帯に外へ出る。

「うう、さむっ…って、雪が降り始めたよ」

 こういうときは道理で寒いわけだ…って言わないといけないんだよな。

 おっさんからもらった飴を舐めて学園へと向かう。すると、電話がかかってきた。

「…もしもし?」

 桜からだ。

『もしもし、私だよ。教室に来てほしいんだ』

「わかった。すぐいく」

 もう走り出している。あやうく、車にはねられそうになった。

 ホールの方から楽しそうな声が聞こえてきている。俺の目的はクリスマス会じゃ無い為、当然無視して教室へと向かう。

 知り合いか、用務員のおじさんに見つかったら何と言おう。

「…サンタ用の靴下を忘れたって言えばいいな」

 サンタを信じなくなったのはいつだったか…冷めた幼馴染に言われたんだよなぁ…中学二年生はちょっと遅い方か。

 クリスマスらしい事を考えていたら教室についてしまった。

「…」

 誰か、人がいた。廊下にも当然、電気はついておらず、教室も真っ暗だ。

「桜?」

 自分の教室が暗がりのせいで違う場所のように見えた。

「メリークリスマス」

 どういう仕掛けか、クラッカーを鳴らすと同時に電気がつく。ぱたぱたと廊下を走り去る音が聞こえてきた。なるほど、道理で桜が怯えていなかったわけだ。

「おっと…」

 俺の目の前に先ほど否定したばかりのサンタがいた。

「似合ってる?」

 照れた様子でくるりと回る。スカートがひらりと舞った。

「ばっちりだよ」

 変に露出していない、可愛らしいサンタだ。いや、露出しているサンタも可愛いけどこうやって正装のサンタのコスチュームいいもんだ。いや、露出しているサンタも可愛いけどさ。

 ぽけーっと見惚れていると桜は赤くなってる。

「そ、そんなにみられると照れるよ」

「わ、悪い」

「ううん!ずっと見たいなら見ててもいいよ!」

「いや、でも俺は…そうだった。俺は用事があってここに来たんだ」

 頭を掻いて自分が何をするためにここへ来たのか思いだす。忘れ去るとはサンタ桜恐るべし…。

「あのさ、先にいいかな?」

「先に?」

 告白するんじゃないかとちょっと不安になった。

「あ、違うよ。それじゃないよ、それは、冬治君にやってほしい事だもん」

「そ、そう…」

 自身の机に座り、桜は言った。

「…最初はね、冬治君の事なんて本当にただの隣の人だったよ。最近知った事だけど、今の二年生は冬治君以外私に告白してたんだね」

「…ああ、そうだよ」

 強くてニューゲームの二週目の方もいたらしいぜ。どこら辺が強くなったのか(おそらく精神が)は知らんがな。

「きっかけはやっぱり、林間学校かな。あれが無かったら今の私は…多分、いないから。今年のクリスマス会、いかないつもりだったよ」

「そっか」

 俺も多分、行ってないね。あーケーキうめーって言ってただろうさ。

「迷惑かけて、疑って、監視しちゃって…本当、隣に居てくれてありがとう」

「え、あ、これはご丁寧にどうも…」

 頭を下げられたのでつい、こっちも下げてしまった。

「夏祭りから、私はもう、冬治君だけしか見れなくなった。もらった熊のぬいぐるみは…いつも私の隣で寝てる。他にも色々と言いたい事はあるよ…でもね、それは多分、後でも言える。だから、この先は冬治君に言って、欲しいの」

 そういって桜はぎゅっと目をつぶった。

 こんな風にされているのは慣れているだろうと思ってた…それが、実際は緊張で固まってる。どんな人前でも見た事の無い、桜の姿だ。

「…ああ、わかった」

 一度、深呼吸。

「桜、きてくれて嬉しいよ…は、違うか。俺が呼び出されたんだ。今のなしで」

「駄目、無理に続けてよ」

 落ちつけ、俺…落ちつくんだぁ…落ちつく為にはさっきのサンタを見て落ちつくしかないな。

「わかったよ…率直に言う。桜、俺のお弁当を毎日作ってくれ…これも駄目だなぁ…今も作ってもらってるよっ」

 がっくりとうなだれる。どうやら、緊張していた桜は緊張がほぐれたようだ。笑って待ってくれていた。情けないぜ全く…。

「桜、見てもらってわかると思う。俺、桜と一緒に居るとどきどきしてすっごく嬉しいんだ。まだこれからも俺の隣に居てほしい…付き合ってくだしああっ…噛んじゃったよ!」

 格好良く決めるつもりだったんだが…失敗しちまった。

「はは…冬治君が初めてだよ」

「え?」

「告白の時にそうやって悶絶してるの。どんなに恥ずかしがり屋の人だって、噛まずに言えたよ」

 俺の事を面白そうに笑っている。

「サンタ姿の桜が可愛すぎるのが反則なんだよ!さっきからどきどきが止まらない。桜、俺は君の事が好きなんだっ」

 桜は俺の事が好きだって思っていたとしても、こわかった。

 目をつぶって右手を差し出すとすぐに握られる。

「…その言葉を…待ってたよ、冬治君」

「桜…」

 すっと桜が近づいてきて俺の事を見据えていた。

 俺の胸に軽く手を添えると、目を閉じた。

「…」

 つま先立ちのサンタの肩を軽く掴み、引き寄せる。

「………!」

 顔を近づけ、気付けば息を止めていた。

 唇が当たりそうになった時…いきなり桜が目を開ける。

「うぐっ」

 そして、いきなり後ろを向いて何かをしている。

「桜?どうした?」

「ごめん、鼻血出ちゃった…あ、こっち来ないで!恥ずかしくって会わせる顔がないのっ」

 ここ一番に弱いのは桜もか。

 一生懸命、鼻にティッシュを詰め込んでいるであろう桜を後ろから抱きしめる。

「桜、大好きだ」

「…私もだよ。こ、このままでいい?」

「もちろんだ」

 気付けば廊下にはクラスメートたちが立っていた。

 それでも、俺は覚悟を決める。

 だって、桜が大好きだから。


っしゃーっ!ここまで桜編を読んでくれた読者の方々ありがとうございましたーっ。これにて、桜編終了です!蛇足なんてありませんとも、ええ。多分、予定通りの終わり方ですとも。桜編に関して言えば最初っから言っていた通り王道のつもりです。変化球を投げず(投げた気がする)、ヒロインが一途(当時の事を最初全然好きじゃなかった気がする)、三角関係なし(ややこしくなる)という予定でした。結果がどうであれ、これでいいのです。読んでほんのちょっとでもよかったと思えればこれ幸いです。何か言いたいことがあれば待っていますのでお気軽にどうぞ。

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