第四十話:年末の告白
第四十話
六花先輩となんだかんだいいつつ楽しいクリスマス会が終わりを迎えた。
「写真かぁ…」
俺ではなく、六花先輩が写真を撮りたいなんて言うからサンタのコスプレをした状態で一緒に写真を撮った。先輩とのツーショット、がっちゃん先輩や百合先輩、美也子先輩達と一緒に撮ったものだってある。
それらの写真を眺め、俺はため息をつく。
「もう、冬休みか…」
たとえ冬休みになっても六花先輩や他の先輩に会えないわけではない。
冬休み中に会う約束をしているし、初詣だって六花先輩達と一緒に行く予定だ。
「もうちょいで六花先輩や美也子先輩達は卒業するんだよなぁ…」
卒業したら今の関係はどうなるのだろう。
六花先輩は俺とまだ一緒に居てくれるのか?
確かに、今は彼氏と彼女の関係である。でも、先輩は俺の事を好きだって言ってくれたわけではないから…もしかしたら、卒業を気にふられてしまうかもしれないのだ。
我ながら変な不安だと思う。
その不安は一向に消えてくれず…情けない事に俺は先輩に電話をかけてしまった。
『もしもし?この時間帯に珍しいじゃないの』
俺がいつもかける時間帯ではない。先輩はちょっと驚いていた。
「す、すみません」
『別にいいわよ、それで、どうしたの』
「あ、あの…」
六花先輩と一緒に居られる時間が少なくなって不安になった…だから、電話したなんて言ったらどうなってしまうんだろう。
黙りこんだ俺に六花先輩はため息をついた。
『…冬治、君どうせ大好きなわたしと一緒にあまりいられないって思ったんでしょ』
「え、えーと…」
ごまかしても、いい結果になりそうにない。俺は正直に言うことにする。
「はい、何だか恥ずかしいですけど…その通りです。だって、六花先輩は二月の終わりには卒業しちゃいます」
この学園の卒業式は早いのだ。
二月の終わりには進路をどうにかするためや就職を目指す者はその実地研修等があるのだ。
三学期の行事もそこそこある(節分、VD、ひな祭り、WD)ものの、これらに三年生は関与しない。六花先輩も既に生徒会長ではないのだ。
沈黙が訪れ、更に不安になってきた。
「俺、まだ先輩に『好きだ』と言わせてないんです」
『だから不安なのね?』
「…はい」
先輩が好きだと言ってくれれば、とりあえずの不安は取り除かれるはずだ。でも、それを今ここで言ってもらえても…意味がないと思う。言葉では言ってもらっても心の底から言ってもらえなければ…結果は変わらないだろう。
『…あのね、冬治。わたしは冬治に首輪をして引っ張ってるの』
「えっ?」
話がちょっと変な方向へ進みつつある。茶々を入れると話は黙って聞けと言われそうだ。もちろん、黙ってはおくが…。
『犬が逃げない限り、飼い主は見捨てないわよ』
「捨てましたよね」
『んっんー…けなげな犬が拗ねながらも戻ってきたんだもん。だったらまた飼うしかないでしょ?それに、捨ててもまたなんだかんだで戻ってくると思うわ』
「そうでしょうか」
『そうよ。今度は離さないわよ』
即答されて、自信が出てくる。
まだ好きだとは言ってもらえていない…でも、今はこれでいいのだ。
「六花先輩に電話してよかったです」
元の問題なんて解決はしていない、結局先輩は二月終わりには居なくなる…それでも、満足だ。
『…そう、じゃあ今度は君がわたしのおねがいを聞く番よね』
六花先輩のお願いなんて常にはいとイエスで答えてる。
どんなに無理な要望でもはいかイエスだ。
「何でしょう」
『玄関まで迎えに来て頂戴』
「えと…わかりました」
六花先輩がこの時間帯に我が家にやってくるとは思ってもみなかった。
あわてて廊下を駆け抜け、階段を飛び降りて玄関を開ける。
「せ、先輩…そんな恰好じゃ風邪ひきますよ!」
マフラーも何もつけていない部屋着だ。震えながら、右手にはケータイを握りしめている。
「うう、さぶっ…さっさとわたしを温めなさい」
「わかりました!今お風呂沸かしなおすんで待っててください」
そういって中に入ろうとする俺を六花先輩が抱きしめた。
「馬鹿ね、こういうときはこうやって温めるのよ」
「…ひゃい」
びっくりして、舌を噛んでしまった。
「まだ不安?」
俺の胸の中で先輩はそう聞いてくる。
「いえ、俺は…大丈夫です。六花先輩のおかげで変な不安もなくなりました」
「そう、じゃあ…この言葉はいいわね」
「この言葉?なんですか?」
先輩は俺から離れる。
「……冬治、好きよ」
「え……い、いいんですか!?」
信じられなかった。
こんなにもすぐ、六花先輩が…言ってくれるとは思ってなかった。
挑むような目で俺を見据え、六花先輩は唇をゆがめて笑っていた。
「いいんですか、って何よ。わたしが好きだから、それでいいじゃないの。さ、お風呂を沸かして」
「は、はいっ」
「一緒に入るわよ」
「ええっ?」
「キスより凄い事、するわよ」
一体何をするのか…俺はこの後どうなってしまうのか…そんなの、最早どうでもよかった。
不安なんてどっかに吹き飛んでしまったのだ。




