第三十七話:桜の友人は応援します
第三十七話
気付けば二学期末テストが行われようとしている。
去年までの俺だったならば、震えて縮こまっていた事だろう。
しかぁし、今年は違う。夏休みの弊害…失礼、春成さんのおかげで学年トップを突っ走るまでに鍛え上げられたのだ。ただ蹂躙されるだけの俺ではない。
「今日から私の家で勉強会しようよ」
「うん、いいよ」
当然、春成さんからのお願いを断るわけもない。たまに陰っていた事もあったけど、今では完全に前向きになって前よりさらに仲良くなったと思う。
何でも言い合える友人…親友に成った。まだ告白してないけどさ。
今はこの関係でいいと思うんだ。なーに、焦る事は無い。
「あ、それならあたしたちも混ぜてよ」
「桜の教え方超うまいって夢川君が言ってたもん」
「赤点脱出したいの!」
まるでゾンビのような人たちが群がってきた。
その瞳は間違いなく、去年の俺そのものだ。
「うん、いいよ」
春成さんと二人きりで勉強できないのはちょっとだけ、寂しいものがあるものの…たまには他の人と一緒に勉強もいいだろう。
それなりの人数になった為、そのまま教室で勉強会が行われることになった。
「ねー、ここおせーて」
「はいはい」
「桜―こっちもー」
「わかったー」
春成さんは大忙しである。こんなんじゃ、自分の勉強どころじゃないはずだ。ちょっと、お人よしなところもあるけど、其処がまた魅力だ。
まぁ、春成さんなら勉強しなくても楽々だろうがね。
「ねぇねぇ、夢川君」
「ん?」
「夢川君も最近成績いいよね。あたしに教えてくれない?」
「俺でよければいいよ。でも、春成さんより教えるの下手かも」
「だいじょーぶだよ。あたしの目的は赤点脱出だから」
なるほど、その程度なら大丈夫だろう。
春成さんも大変そうだし、此処は手伝ってあげたほうがよさそうだ。
それから、田本さんの勉強を終わりまで見てあげることにしよう。
下校時間になったので、そのままの人数で校門を後にする。
「春成さん、お疲れ」
「…うん」
どうやら本当に疲れているようだ。元気がない。
「大丈夫?」
「痛い痛いのとんでけーしてくれる?」
「痛い痛いのとんでけー…どう?」
「ほ、本当にしてくれるなんて…」
ちょっとからかってあげるとすぐに元気になってくれる。照れた顔とか可愛いなぁ…。
絶対に、言えないけどさ。
「おやおやーお二人だけの世界にいってますなぁ」
「いちゃつかないでほしいであります」
下世話な友人達が現れた。
「いや、いちゃついてないから。ね、春成さん」
「…そうだね」
あれ?元気がなくなったぞ。
「あのさ、付き合ってるのに『春成さん』なんて呼び方何でしてるの?桜って呼べばいいのに」
「え?付きあって無いけど」
「ふーん、そっかぁ」
にやにやとしている悪そうな人だ…せっかく、勉強教えてあげたのに。
「でもま、付き合ってないとしても何だか他人行儀だよ。桜だってそう思うでしょ?」
「わ、私は…」
ちらりとこっちを見てきた。
「ほら、桜も他人行儀だって思ってるよ。ちょっと桜って呼んでみて」
「ちょっと恥ずかしいなぁ…こほん、さ、桜」
「なぁに?…冬治君」
は、恥ずかしい。でも、悪くないかも。
「うんうん、青春ですな」
「名前呼び合っただけで青春って…」
「ねぇねぇ、夢川君、桜と付き合ってないんだよね?」
「ああ、そうだよ」
思えば、親友どまり…だ。
この前、ご飯を食べて、春成さんの部屋で勉強してたらそのまま朝を迎えたけども…まだ、親友どまりだ。
「じゃあさ、テストが終わったらあたしとデートしてよ」
「はい?」
周りの女子生徒達はにやけていた。春成さ…、桜のおかげで虹色脳細胞へと変換した今の俺ならわかる。こいつら、俺を…いや、俺らをおもちゃにする気だ。
「駄目っ。テストが終わったら私が冬治君と遊ぶのっ!」
「……え」
俺が反応するより先に、田本さんと俺の間に桜が入ってきた。
お尻を俺に押し付け、体で隠そうと頑張ってくれている。もちろん、隠れきれてないが。
「おやおやー、付き合ってないのにお邪魔するのですかな?」
友人に指摘されてはっとなる桜。
「え、えっと、私の方が早く約束してたから!約束は守らないと駄目だよ、うん」
取り繕って笑っている。
残念、そのくらいじゃ相手は引いてくれないと思うぜ。
「じゃあ、その次の休みでいいよ」
田本さんではなく、別の女子がそう言ってきた。
「駄目!その次も一緒に遊ぶから!」
「ああー、なるほど。だから最近告白されても昔みたいに『御免、考えられない』じゃなくて、『待ってる人がいる』ってことなんだぁ」
ぐへへと笑う友人達に桜は顔を真っ赤にしていた。
春成さ…ではなく、桜は待っているのか。
誰を?
「桜?」
「…………」
顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。周りがはやし立てる。
多分、俺だ。
「待ってて誰かに盗られたらどうするの?」
「な、ないもん。在り得ない。告白なんてされるわけ…あ、でもラブレターもらってたし」
「嘘!夢川君ラブレターもらった事あるの?」
「何気に酷い。でも、もらった事はあるよ。今の流れで俺が引っ張り出されるのもちょっとおかしいけどさ…」
これがちょっと前までなら胸を張って答えていただろう。でも、今回は抑え気味に、無機質に答えておいた。
「ふーん、ま、顔は悪くないし、成績もいいし、運動神経は…どうなの?」
「よくな…」
「ちょっと運動は苦手だけど、完璧じゃないほうがいいよ!」
何で桜が言うんだろう。
その後も俺に対しての質問を桜が全部返した。途中から、得意になって答えているもんだから…友人達に遊ばれている事に気づいていないようだった。
完璧じゃないほうがいい、か。その通りかもしれない。




