第三十六話:彼女は一時間前に居ました
第三十六話
なし崩し的に…自分が六花先輩を好きだった事に気づいて告白してしまった。
挙句の果てに、唇まで奪ってしまった…。
その日は悶々とし過ぎて部屋で布団を蹴りまくった。
おかげで、ちょっと寝不足だ。デートプランまで考えたもんだから更に寝るのが遅くなった。
「…とりあえず、もう行かないとな」
余裕を持って三十分前についておいた方がいいだろう。
どうせ、六花先輩はいつものように遅れてくるはず…と思ったのが間違いだった。
「嘘…でしょ」
六花先輩がせわしなく時計を見たり、身だしなみを気にしていた。
時間にルーズで、身だしなみにもあまり気を使わない人なのに…それほど俺とのデートを楽しみにしていてくれたのか。
「す、すみません、六花先輩っ。遅くなりましたっ」
潔く頭を下げる。
君から誘っておいて、この体たらく…体で払ってもらおうかしら。そう言われると思っていると頭を軽くはたかれる。
「まだ約束の三十分前よ。気にしてないわ」
「り、六花先輩…」
何が先輩を成長させたのだろう…もしかして、六花先輩の本質がこれだったのではないかと考える。
「でも、女の子を待たせるなんていい度胸してるじゃない」
「やっぱり、そうなるんですね」
「やっぱり?…冬治、あんた失礼な事も考えていたようねぇ」
「……すみません」
何処かほっとしている自分が情けなかった。
「さ、反省したらわたしに好きだって言ってもらえるよう頑張りなさい」
「はい、頑張ります」
六花先輩の事は好きだ。
だから、六花先輩も俺の事を好きになってほしい。そうしないと、俺は六花先輩の事をさらに好きになれないだろう。
そう思うのはちょっと危ない考えかもしれない。
「やれやれ、君がストーカーになったらどうしようかしら」
「まさしくミイラ取りがミイラになるってやつですね」
「先に聞いておくけど、君ってどういう事に興奮するの?」
真面目に考えてみるとしよう。
「…うーん。わかんないです」
「うそでしょ?前、私に抱きしめられた事あったじゃないの…あれで興奮しなかったの?」
「あの時は…しましたけど、そもそも女子生徒に抱きしめられることに驚いたりしただけです。その後にがっちゃん先輩に抱きしめられまくりましたから」
がっちゃん先輩のおかげで頑丈な身体になったと思う。
「…じゃ、じゃあ、生徒会室での口づけはどう?興奮したでしょ?背徳感もあったわよね?」
「背徳感ですか?えっと、百合先輩が…その、あーんをねだるほうが背徳感あります」
見た目がロリぃなのだ。
六花先輩には悪いとは思う…でも、背徳感で言うと、そっちの方が半端ない。
「…一体何に興奮するって言うの?」
「俺はまだ先輩の事を好きだって気付いたばっかりですからわかりません」
「君、もしかしてわたしの体が目的で好きだなんて言ったんじゃ…」
「六花先輩には申し訳ないですけどスタイルだけで言うなら美也子先輩のほうが、凄いですよ」
「うぐっ…」
「安心してください!先輩の身体が目的じゃないです」
六花先輩が崩れ落ちてしまった。
「み、美也子の奴…それで、一体、そのあいつ自慢のボディとやらをいつ知ったのよ」
「六花先輩が俺の事を捨てた後すぐにです。夏祭り以降ですね」
「…はぁ、こんな事になるのならあんな事を言わなければよかったわ」
ため息をつく先輩を俺はフォローしてみることにした。
「でも、先輩が一度捨ててくれて自分の気持ちを知れたんです」
「…最初は名前どころかわたしの存在も知らなかった男子生徒に半年ぐらいで告白されるなんてね…」
「好きになったから仕方ないです」
そう言うと先輩はほんの少しだけ苦虫をかみつぶしたような顔になった。
「好きって軽々しく言わないで。何だか、ありがたみが薄れる」
「そうですかね」
「そうよ、付き合ってあげてるんだから私のちょっとした我儘にも付き合ってもらうから」
「はい」
我儘なら、もう慣れた。
多分、これから先ももっと我儘を言われて俺は喜んで従うんだろうなぁ…。
意外と、マゾなのかもしれない。




