第三十五話:遊園地へ
第三十五話
放課後に遊園地へ遊びに行くとかどんだけ遊園地が好きなんだよ。
そう言いたい相手は残念ながら風邪をひいていた。
昨日は超元気だったのに、その後電話をかけたら何故か風邪をひいていた。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
秋口さんがいるので二人で遊園地だ。
「しっかし、和也が風邪をひくなんてねぇ…」
「へ、変かな」
「ほら、馬鹿は風邪引かないっていうじゃん」
「…そうかも」
「あれって確か、馬鹿は風邪をひいてもわからないから…って理由だったっけ」
「どうだろ」
そんな話をしながら遊園地までやってきた。
秋口さんの態度が若干気になる。
「今日は夜遅くまでやってるんだってさ。和也はほーんと、残念だろうなぁ」
「そっか…だから和也君は…」
「え」
「ううん、何でもない」
入り口でお金を払おうとすると秋口さんからチケットを渡された。
「和也君が今日までだっていってたよ」
「ああ、なるほど」
期限が今日までだから遊園地に誘ったのか。
一日フリーパスを手に入れた俺達に怖いものなんてない…けども、時間は存在するので全部のっているわけにはいかない。
そもそも、制服だからちょっと問題がある。
「どうしようか」
「じゃあまずは一番近いお化け屋敷に行こうか」
「そうだね」
秋口さんはお化けが怖いわけではないらしい。
彼女は言った。
「…ごきぶりが部屋中居たら卒倒する自信あるよ」
俺だって、卒倒すると思う。
コンニャクが縦横無尽に襲ってくるエリアを抜けると、次は底なし沼のエリアだった。
「くるよ、来るよ…きゃーっ」
どこか楽しんでいる悲鳴だ。この程度の悲鳴なら心配する事も無いだろう。
最後はおそらく全速で追いかけてくるゾンビを相手に(後で聞いたらグールだったそうだ…違いがわからね)逃げまくって出口へとやってくる。
「ふぁー走った走った」
「凄かったねー」
「ああ、楽しかったよ」
あと一つしか乗れない時間帯だ。
「観覧車、どうかな」
「観覧車?いいよ」
二つ目で最後なんて勿体ない気もする。でも、時間を守らないとやばいだろう…そもそも、学生服では基本的に来てはいけない場所だ。
秋口さんと観覧車に乗ると、ちょっと変な感じもした。何せ、目の前に…ちょっと狭い…秋口さんの顔があるのだ。
向こうもどうやら意識しているようで、気恥かしかった。
「っと、終わりか。あっという間だったね」
照れているだけで気付けば一周したと思うと恥ずかしくて帰り、話せるか不安になる。でも、俺とは対照的に秋口さんはちょっと怖い顔をしていた。
「後一周、乗って。お願い」
「…わかった」
有無を言わせぬ目をしている。これが、幼いころの秋口さん…暴君秋口なのだろうか。
「冬治君っ」
「は、はいっ」
「こ、紅葉って呼んで!」
「えぇ?いきなりなんでさ」
いきなりすぎて話についていけない。
「和也君の事は和也だよね?」
「そうだけども
「じゃあ問題無いよ」
「あるよ。だって、秋口さんは一歳年上だよ。いくら友人だからって呼び捨ては…」
「じゃあ、ちゃん付けでもいい」
そっちの方が問題あると思う。
押し問答の末、更に一周して(係員さんが俺らの顔を見ると逃げていった)結論がでた。
「紅葉さんで、いいよね」
「うん、満足」
こうしてようやく解放された。
「手、繋ごう?」
「うん?って、もう繋がれてる…」
何かあったのか、それとも心境の変化なのか…紅葉さんは俺と手をつないで大喜びだった。
もしかしたら遊園地に来て童心を思いだしたのかもしれないなぁ…。




