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第三十話:幸せが不安な日々

第三十話

 千波は毎日が幸せだった。

 窓から侵入して(部屋を繋ぐ橋を作った)、起床時間まで冬治のベッドにもぐりこんだり、寝顔をずっと見たりすることが出来る日々が続いている。

 それまでは窓ごしに写真を撮って、寝る前に眺める程度だった…もちろん、それは今でも毎日続けている。彼女のPCには『冬治寝顔ファイル』といった彼女にとっては掛け値なしのファイルがあったりするのだ。

 こんな幸せが毎日続くのが不安だった。

 何だか、詐欺にあっているのではないかと思ってしまうのだ。

 学園祭を周っているときも冬治の方から腕を組んでほしいと言ってきた。

「ほ、本当ですか」

「え、何がだ」

 冬治はかなり驚いていたりする。

 彼が積極的に腕を組んでほしいなんて言って来るのは初めての事だ。付き合い始めても、人前では気にしてか言ってきてくれない。

「…俺何か変な事を言ったか。千波、お前なんて聞こえたんだ?」

「腕を組んでくれって言いましたよ」

「俺も、腕を組んでほしいって言ったから間違っては無いよな…」

 辺りに俺と同じ声の人なんていないよなぁとあほな事を言う兄をじっと見つめる。

「ま、いいや。とりあえず腕を組んでほしいんだよ」

「こう…ですか」

 自分の胸の前で腕を組んでみた。

 発育のよい友人はそれだけで胸が強調されると言うのに、千波は違った。冬治が『俺は千波なら薄くたっていい』と生徒の前で宣言したからそれで構わないのだが…。

「あ、いや、そのー…千波さん」

「何ですか、兄さん」

「腕を組んでほしいって言うのはそうじゃなくて、こうだよ、こう…そんで『兄さん、好きです』って言って」

 千波の腕に自信の腕を絡める冬治。

 隣を通って行った生徒が何だか珍しいものを見ている感じだった。

「そ、そうですよね」

「いつもはすぐにしてくれるのに…ボケに走るとか一体、どうしたんだ」

 ボケに回りたくなってきたのかというとぼけた兄貴についムッとしてしまう。

「違いますっ。なんだか最近怖いんですよ」

「怖い?」

「…幸せすぎて、怖いんです」

 喋った後にちょっとだけ悔んでしまう。

 こんな事を言われても今一伝わらないし、頭は大丈夫かと言われるだろう。何を言っているんだと思われてしまう。

「ははぁ、なるほどな」

 ただ、予想に反して冬治はわかりきったような感じである。こうして察してもらえるのはそれだけ心が通い合っているんだろうな…不安もちょっとだけ和らいだ。

「笑ってくれても構いませんよ」

「笑える要素は無いだろ?どこで笑えと?」

 真剣に考えてくれているようで胸をなでおろす。

「俺はもっとお前と幸せになれると思うよ」

「え」

「だって、そうだろう?まだ半年もつきあった…ってわけじゃないぞ。倦怠期に陥っているわけでもないし、そもそもあんまりデートをしてない。キスだって三ケタもいってない」

 人目を気にせずそう言ってくれる冬治をちょっと恥ずかしいと思った。それより、嬉しい気持ちの方が強かったりもする。今のところ、キスの回数は四十七回だ。

「千波はちょっと気が早い。もっと幸せになってから言うもんだよ。それに、あんまり損な事を言うと『ひゃっほー!フラグがたった!』って思われる」

「そう、ですかね」

「そうだよ、そう」

「兄さんがそう言うのならそうなんでしょうね…あの、どんなフラグが立つんですか」

「そうだなー…千波と俺が喧嘩して気まずくなって別れ話を…」

「あり得ません」

 一蹴する千波に冬治が笑う。

「じゃあ、俺が浮気したらどうだ」

「その時は兄さんを殺して、千波も死にます」

「それを聞けて満足だよ」

 馬鹿面をしている彼氏を見ると悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。

 冬治の腕にしっかり抱きついて、引っ張る。

「時間を無駄にしましたから、行きましょう」

「そうだな。うん、お前がここ最近元気がなかったからどうしたのかと思ったよ」

「気付いてくれてたんですか」

「たまたまだよ。買いかぶってもらっちゃ困るからな。いくらお前の彼氏だからって全部は把握できねぇ」

 ついうるんでしまい、冬治の胸に顔を埋める。見られたくないと思ったのは、冬治にか、それとも周りの人たちか…そもそも、周りの人等眼中になかった。やはり、冬治に見られたくないのだろう。

「兄さん、大好きです」

「俺もだよ、千波」

 そして、抱きしめ会う二人を見ながら他の生徒達は思うのであった。



『余所でやれよ…』



気づけば三十話…。よく続いたもんだね、うん。春夏秋冬が終わったら特別編でもやるかなぁ…もし、第二弾をやるなら今度は三原色に黒と白でいきますのでその時はよろしくお願いします。せっかく四人いるんだから一人ぐらいはBADエンドでもよかった気がする。

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