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第二十八話:相対する人

第二十八話

 美也子先輩に聞いた話。

「六花、血眼になって冬治君を探してるわよ」

 同じ学園だ。

 会おうと思えばすぐに会えるはず。

「でも、自分で会いに行くのが嫌みたいでね。大嫌いって言われたのが相当堪えたらしいのよ。友達として心配」

「その割には滅茶苦茶いい笑顔で話してますね」

 女の子の友情は男のそれと違うとか聞いた話があった。

 美也子先輩と晩冬先輩はそれなりに仲良くやっているはずだ。俺が口を出すような話でもない。

「冬治、お前六花に電話番号とか教えてないんだろ?」

「通話できない、メールも送れないって愚痴ってましたわ」

 がっちゃん先輩と百合先輩も俺に聞いてくる。一緒に昼ごはんを食べるようになって、俺は食堂には行かなくなっていた。

「ええ、まぁ…」

「そんな意地悪しなくてもいいだろ?」

「でも、ケータイ壊したのがっちゃん先輩何ですけど…」

「それはがっちゃんが悪いですわ」

「むー…でもよぉ、お前六花と仲がいいんだよなぁ。おれは友達にそうされるとへこむよ」

 がっちゃん先輩の言葉も正しいもんだった。

「晩冬さんが悪いですわ。わたくしでしたら冬治ちゃんを二度と離しませんもの」

 百合先輩が嬉しい事を言ってくれた…でも、手を出すと警察のお世話になりそうで怖い。

「それは…おれもそうだけどよぉ」

「掘られそうで怖いっす」

「何かいったか?」

「ちょっとしたジョークを…とりあえず、先輩から『もう連絡しないでくれ』って言われてますし、番号もアドレスもケータイが死にましたから。そもそも、俺のケータイに勝手に登録したの晩冬先輩ですもん」

 俺と晩冬先輩の繋がりなんて、そんなもんだ。

 俺の方から積極的に晩冬先輩と一緒に居るわけではなく、引っ張られている。

「冬治ちゃんは晩冬さんと一緒に居たくないんですの?」

「晩冬先輩にとって俺は、所有物みたいなものなんですよ。おもちゃが『捨てないで』って言っても要らなくなったら捨てるでしょ?

「おもちゃが喋ったら怖いですわ」

「そりゃそうだ。おれだったら一発でゴミ箱…いや、神社にもってくわ。百合ならこわすもしれないけどさ」

「え?百合先輩って意外と怖い先輩何ですか」

「それについては何とも…とりあえず、私だって神社にもっていくわ」

 全員でその通りだと頷いて、俺は顎に手を置く。

「たとえを間違えました…そうですね…うーん、ペット、は違うか」

「ペットだって聞いたがなぁ」

「要は拗ねてるんですわね」

 ぐさっと百合先輩の言葉が胸に刺さった。

「あ、図星ね」

 美也子先輩がいやらしい笑みを浮かべている。

「これからいじりまくってやりたいが…残念、昼休みがもう終わる。またこいよ」

「はい、また来ます」

「待っていますわ」

 教室を出ると、晩冬先輩がこっちを見ていた。

「…」

 何も言って来ず、腕を組んで俺の事を見ているだけだった。

 一番近いほうの階段の前に陣取っている。他の生徒達は関わり合いにならないほうがよさそうだと避けて歩いていた。

 俺も、回れ右してちょっと遠い階段から降りることにした。

 先輩はおって来ず、俺はちょっとぎりぎりで教室に滑り込んだ。

 放課後、さて、帰ろうとすると校門に誰かいた。

「…晩冬先輩…」

 これまた、腕を組んで待っていた

 俺は何も見ていない事にして裏門から逃げようとして…

「読まれてた」

 姿を見られていないのが幸いか…晩冬先輩は怖い顔で待っていた。

 捕まるのも癪だったので、今度は正門から走って逃げだした。

「おおい、どこに行くんだ?」

 残念ながら、網が敷かれていたようだ。

「が、がっちゃん先輩…」

「私もいますわ」

「百合先輩、美也子先輩まで…」

 あっさり捕まった俺はどういう事か説明してほしいと美也子先輩の方を見る。

「美人先輩三人組に囲まれて嬉しそうね。わたしも嬉しいわ」

「嬉しいですけども、説明していただけるともっと嬉しいです」

「おいおい、そんなふざけた事言ってるとおれは遠慮しないぞー」

「がっちゃん先輩も美人ですよ。頼りがいありますし、一緒に居ると安心しますから」

「冬治…お前ってやつは…」

 がっちゃん先輩は俺をひしっと抱きしめる。ぐえぇと口から出そうになるのをこらえていると、百合先輩によって解放された。

「惜しかったですわね。でも、駄目ですわよ」

「……むー、た、確かにそうだな。こういうのは駄目だよな」

「じゃ、じゃあ説明してくれませんかね」

 美也子先輩が手を挙げて(外なのに恥ずかしくないのだろうか)、喋りはじめる。

「今回は、今回は…六花の方に手を貸すわ」

「つまり?」

「晩冬さんの話を聞いてほしいんですの」

「…冬治、駄目か」

 この三人とは仲良くしている。一緒に帰ったりすると必ず奢ってくれる人たちだし、夏祭り以降、一緒に居ると楽しい人たちだ。

 つまり、俺は折れるしかないのだ。そもそも、嫌って言ったら物理的におられそうだ。

「…先輩達の頼みを断れるはず無いじゃないですか」

「だ、そうよ…六花。後はあんたがどうにかしなさい」

「…わかってるわよ」

 不機嫌な六花先輩は俺の手を引いて、学園へと戻って行った。

 二人とも無言なまま、生徒会室へとやってくる。先輩は生徒会室の鍵を閉めた。

「…一体、何なんですか」

 抑えようとは思っても、声がとがってしまうのを感じる。言っておいて何だけど、六花先輩が更に不機嫌にならないか心配でならなかった。


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