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第二十五話:初デート

第二十五話

 夏休みは何のためにあるのか。

 それは、多分休むためだ。だって、名前にも『休み』って入ってるもん。

 だが、俺はどうだ?春成さんとずっと勉強をしていた。

 今更になって『夏祭りの時に告白しとけばよかった』なんて後の祭りだ。何がチャンスがあったら即決だ、だ。それより俺は勉強したくないと言う気持ちで逃げようとしていたんだ。

 あれからの春成さんは凄かった。拍車がかかったのだ。これまではどうやらリミッターがかかっていたらしい…。

 俺の両親に連絡して、さらに遅い時間帯まで一緒に勉強してくれた。下手をすると春成さんの一家と夕食をとったりもした。

 もう、涙が出そうなくらいだ…おかげで、俺の学力は完全に春成さんと同等クラスとなった。ただ、視力はどうやら悪くなってしまったようだが。

「春成さん、夏休み最終日は…ちょっと眼鏡買ってくるよ」

 眼鏡がすぐ来るものではないと知っている。まぁ、店によっては速かったりするらしいけどさ。

「え?目が悪いの?」

「うん、やっぱりはっきり見えていたほうがいいかもしれないから」

「ふーん、そっか。じゃあ、ついて行ってもいいかな」

「それは構わないよ」

「私もちょうど眼鏡買おうかなって考えてたの」

 春成さんもきっと勉強疲れなんだろうなぁ…そんな事を思いつつ、俺はペンを走らせる。

 そして当日、春成さんの家へ迎えに行く。

「あら、冬治君」

「こんにちは。春成さ…桜さんいますか」

「居るわよ。どうぞ、あがって」

 春成さんではなく出てきたのはお母さんだ。

「ちょっとここで待っててね。コーヒー飲みたくなったら勝手にしていいから。作れるわよね?」

「はい」

 勝手知ったる…とはいうものの、当然ながら大人しくしていよう。

「桜―、冬治君が来たわよー」

「え、嘘っ。い、今行くっ」

 春成さんには珍しい事に慌ただしく階段を下りてきた。スカートがめくれ上がってちょっとドキッとしてしまう。

「お、お待たせっ」

「あ、うん」

「どうかな、変なところないかな」

 いつもは遊ばせている髪をポニーテールにしていた。チェック柄のプリーツスカートにパステルブルーのシャツ、薄手のカーディガン…どれも似合っていた。

「凄く似合ってるよ」

 普段は…春成さんには悪いけど…キャミソールかタンクトップだからなぁ。こういったのは新鮮である。最初はドキドキしてたけど、慣れてしまってこういう可愛い系は大歓迎だった。

「じゃ、行こうか」

「そうだね」

 お昼はどこかで食べることになっている。夏休み最終日と言う事で今日は遊んで過ごすことにしたのだ。

 春成さんに反対されるかも…その不安は『ううん!大賛成!』という返事で何処かに飛んでしまった。

「でも意外だったよ」

「え、何が?」

「遊んで過ごすって言うの。春成さんはてっきり来ないかと思ったもん」

 夏休みの最後だ。そもそも、夏休みに男女二人でずっと勉強とか何の罰ゲームだ。

「春成さんの事は優等生だって思ってた…でも、此処まで勉強好きだとは考えてなかった」

「私だって本当は遊びたかったよ。で、でも…」

「でも?」

 言い淀んであうあうなっていた。実に珍しい光景だ…。

「な、何かいいにくいことなら言わなくても…別にいいけど」

「う、うん、また改めて言うから待ってて」

 忘れてそうだ。

 その後は二学期の勉強の事とか、進路の事を話しつつメガネ屋さんへ向かうのだった。

「私はもう決めてるから」

「そっか」

 視力検査に向かった春成さんとは対照的に、俺はフレーム選びに没頭する。やっぱり、見た目も大切だけれど長くかけるって言うなら軽さとかも重視せねば…。

 あとは、ずれにくい奴を選んだ方がいいと眼鏡の友達から教えてもらった。

「決めた?」

「まだ」

 春成さんは既に終わったようで俺のところへとやってきていたりする。

「これと、これで悩んでてね」

「ふーん、そっか」

「どっちが似合うと思う?」

 ショッキングピンクと若干透明な灰色のフレームレスをかけてみせた。

「う、ううーん…私としてはピンクの方は無しかな」

「そう?」

「あくまで私の意見だから」

 ここは大人しく春成さんの意見を受け入れることにしよう。

 眼鏡は約一週間で出来るそうで、メガネ屋を後にした俺達は食事へと向かう。

「何だかさ、一緒に遊びに行くのって…初めてだから緊張するね」

 春成さんの言葉に俺は苦笑するしかない。今さらである。

「まー、夏祭りの時も二人だったけど…というか、夏休み中ずっと一緒だったよ…」

 部屋で二人っきりよりも外で二人っきりで緊張するとか初デートかよっ!と突っ込みたくなった。

「これって…さ、デートみたいじゃない?」

 そう思っていたところだったので俺はちょっと驚いた。

「ああ、そうだね」

「そ、そう思うと緊張しちゃって…」

 でも、その言い方からしたら夏祭りの時は特に緊張してなかったって、事になるよなぁ。

 せっかく春成さんが照れているのだから何か気の利いた事を言ってやればよかったかもしれない。でも、俺としてはそっちの方が気になった。

「夏祭りの時は緊張しなかったの?」

「うん。全然」

 それはそれで悲しいもんだ。

「何でだろうね」

「わかんない」

 初デートでは普通はこんな会話しないはず。もっと、嬉し恥ずかしみたいな物を俺は初デートとやらに期待したい。

 ムードなんてなくなって普通の友人とするような会話をしていると頼んでいた品がやってきた。

「頂きます」

「いただきます」

 何度か料理を口に運んで俺はぽつりと呟いた。

「…春成さんの手料理のほうがうまいね」

「ヴぇっ」

 およそ、女の子が口にしないような言葉を吐いてくれた。そもそも、男だってそんな言葉発しないだろうな。

「じょ、冗談やめてよ。茶化して遊ぼうって魂胆だねっ。お店の人にも悪いよっ」

 顔を真っ赤にして否定してくるけど、俺は茶化してなどいない。

「いや、嘘じゃないよ」

 春成さんは勉強に付き合っているから(どっちかと言うと俺が教えてもらっているのに)と昼飯を毎回作ってくれている。料理の勉強だと言いつつも、元から上手だった。

 毎日食べて居たい味だよ…そこで気がついた。

「そっか、今日が最後だから春成さんの手料理もう食べられないのか…」

 残念だ。

「え、えっとさ、そんなにおいしかったの?」

 春成さんを奥さんにする人はきっと幸せもんだと言おうとして…辞めた。何だか茶化しているように聞こえる。

「うん、冗談抜きで毎日食べたい」

「じゃあさ、お弁当作ってあげようか」

「それはさすがに迷惑をかけるよ」

「い、いいから。お母さんに私から話してみる。駄目だったら電話するからね」

 一度やると決めたら意外と頑固な春成さんだ…これも、夏休み中に知った事である。

「わかった、お願いするよ。でも、御弁当代だってそれなりにかかるよ」

「ううん、いいの。えっとさ、さすがに学園で渡すのは恥ずかしいから…」

 下駄箱に入れてくれるんだろうか…あ、でも、俺の方が先に来る事多いからそれは無理かな。それに、そんなの見られたら春成さんも嫌だろうし。

「朝、私と一緒に学園に行かない?」

「……なるほど」

 やっぱり春成さんは頭がいい。

 こうして、俺と春成さんの関係は一学期のそれとは違うものになったのだった。


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