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第二十一話:花火の後で春成に言いたいこと

第二十一話

 俺は今、自身の無計画な嘘のおかげで苦しんでいたりする。

 そりゃあ、そうだ、以前は『いつか告白したい』と思っていた相手と四六時中顔を合わせ、勉強を続けさせられれば離れたいと思って嘘もつくさ。

 結局、海に行く…なんて言った日も一緒に勉強したよ。残念そうな春成さんの顔を見ると変な罪悪感で一杯になった。だから、俺は春成さんと夏祭りに行く約束をしたのだ。

 夏祭りの当日、いきなり四季から連絡があった。春成さんと夏祭りに行くんだと言うと実に嬉しそうに『じゃあ会って話がしたい。今後の為だ…こないと、あのことばらしちゃうぞー』などと無理やり奴と会う事になった。

 約束したのは春成さんと会う一時間前だ。

「おう、どうしたよ」

「ふっふっふ…」

 いやーな、笑みを浮かべながら近づいてくる不審者一人。

「もしもし?警察ですか?羽津神社前に不審者が…」

「はっはっは、呼んでもいいけれども…お前も一緒に豚箱行きさ」

 それは自分が不審者だと認めているよな。

 まぁ、いいや。

「それで、何だ。俺は言った通りこの後春成さんと約束があるんだよ」

 すぐに終わると言われたから会う事にしたのだ。春成さんが俺との夏祭りを楽しみにしていて一時間前に来たらどうするんだ!もう、結果は見えてるけどさ…。

「なぁに、すぐに終わる」

 こちらに右手の内側を見せてきた。

「……お前、生命線短いな」

「うっさい。違う。誰も手相を見てくれとは言ってない」

「…え?俺には見えなくてお前には見える何か特殊能力的な何かがあるとか?」

 右手に黒い炎でも宿ってんのか?後悔するからそういった一人遊びはやめとけよ。

「違うわい。そういうのは一年前に卒業した」

「はっきり言え、何がしたいのかわからないぞ」

 そう言うと堂々とした態度でこう言った。

「二千円貸して」

「お前なぁ…」

「おれ、みたんだよ。お前が林間学校の肝試しやった日に女子部屋に侵入したの」

 そう言われて頬が引きつったのを自覚できた。

 やヴぁい、こいつ、下手したら…春成さんがどんな状況だったのか知っているのかもしれない。

「………他はみてないのか」

「何だ、もっと何かしてたのか。それはもっと強請れたって事だよなぁ…お前にとってはラッキー、おれにとっては残念だが、それ以外はみてない」

 ほっと胸をなでおろす。よかった、こいつは俺が女子の部屋に侵入して下着を盗んだ程度と思ってくれている。

「ま、見られたからには…仕方ねぇか」

 財布から二千円を出して手渡す。もし、ばらされたら面倒だ…春成さんの事を話さなくてはいけなくなるだろう。

 さすがに、女子の部屋に侵入したなんてばれたら俺だって自分が可愛い、春成さんはさようなら…である。

 もちろん、そうならないよう努力はするさ。

「ぐっへっへ、今後も一つ、よろしくお願いしますよ兄貴ぃ」

 今後も強請る気満々だな。

「今後?はは、渡してやってもいいが…お前の旅行バッグの中からとあるブツが出てきたのをこっちはばっちりカメラに納めてあるんだぜ?」

 その一言で統也の面が真っ青になった。

「な、何の事かね」

「さぁねぇ…で、だ。この二千円はどうせ坂和さん関連で居るんだろ?」

「そ…そうだよ。格好付ける為に必要なんだ。だから、貸してくれぇい!」

 そのまま頭を下げられる。元から貸すつもりだったので別にかまわない。やたら電話で『おれと坂和さんは運命の糸で~』等と連呼していれば今日の夏祭りに行かないはずはないだろう。

「わかったよ。貸す条件だが…さっきの事は忘れろ。もし、思いだしたりしたら…これを提示する」

「おれは、退学なんて怖くないよ」

「何、勘違いしてるんだ。俺は坂和さんに告げる」

「…それだけはやめてくれ。わかった、忘れるから」

「ほら、さっさと行ってやれよ。坂和さんと夏祭りデートだろ?」

「まだ待ち合わせには時間あるから」

 この後、あいつが何をするかは俺の知ったことではない。

 それから十分後…約束の時間までまだ三十分はあったものの、春成さんがやってきた。浴衣なんて期待していなかったものの、見慣れていない私服だ。新鮮である。春成さんの家で勉強するときとか結構肌を露出してたし、無防備と言うか何と言うか…。

 ほんとね、最初はちらりと見えそうだったのでドキドキしっぱなしだったよ。それも三日が限界でそんな事よりさっさと宿題をなんとかしないとなーとかに移行しちゃったよ。

「早いね」

「私より夢川君の方が早いよ。どうしたの?」

「ちょっと野暮用」

「ふーん」

 詳しく話す事もないだろう。もう春成さんも気にしていないようだし、ぶり返すのは良くない。

「まだちょっと早いけど行こうか」

「そだね」

 春成さんと夏祭りなんて心躍る…とちょっと前までなら思っていたはずだ。

 変な事にこだわってしまう俺は、さーて、どうやって海の事を弁明しようかと考えている。

 ベストは毎日勉強の日々から解放してもらいたいと告げることだろう。そうすれば俺のだらけた夏休みが返ってくる…それなりに日数は削られているものの、それでも勉強しなくていいのはでかい。

 そうなったら俺の天下よ。

「笑っちゃって、どうしたの?」

「あ、いや…楽しいって言うか、これから楽しくなるって思うとつい、ね」

「笑うのはいいけど、迷子にしないでよ?」

「それは大丈夫。あ、今日は俺が全額もつよ。勉強とか宿題でかなりお世話になったし」

「え、そうなの?今月危なかったから大人しく甘えるよ」

 これで、とりあえず海の事はチャラだね。

 お賽銭投げて二人で歩きはじめる。

「そこの兄ちゃん」

「はい?」

「射的やってってよ」

 一件目から声をかけられた。

「こういうのって必ず呼ばれるよねー」

「そうかな」

「セオリーだね。頑張って!」

 何がセオリーなのかは知らない…でも、春成さんはやる気満々だ…俺にやらせるみたいだけど。

 頑張ってくれと言うのだから頑張るしか無かろう。

「どれか欲しいものある?」

「んーそうだな…取るのが難しい奴」

 えへへと意地悪く笑っている春成さんのご希望通り、取るのが難しそうな奴を探す。

「宇宙選管ヤマポとあっちの意地悪そうな熊のぬいぐるみどっちがいい」

「うーん、熊かな」

 意地悪そうな熊は俺の腰ぐらい大きいものだった。俺としてはヤマポが欲しかったりもする。

「過去十年、これを取れた奴はいねぇよ。とらせる気、ないもん」

「おじさんそう言う事は言っちゃ駄目だと思うんだ」

 何このブラックな感じは。

「こいつにゃ仕掛けがしてあってね」

「そう言うのも言っちゃ駄目」

 いいから黙って聞けとばかりにウィンクしてきた。まさか、女の子より先におっさんからウィンクされるとは思わなかったぜ。

「当然、そんな豆鉄砲じゃ落とせねぇよ。もちろん、その豆鉄砲で狙い続けてもいい」

「…そうっすか。仕掛けねぇ…」

「ヒントはだなぁ…」

 話を聞きながら適当に銃をいじっていると誤射してしまった。

「いってぇ」

「あ…」

 ゆでダコみたいなおっさんの頭にそれは直撃したのであった。

「…こういう場合はやっぱりおっさんがもらえるんだろうか。良かったね、春成さん」

「じょ、冗談言っている場合じゃないんじゃないの?謝らなきゃ」

 それもそうである。頭を下げることにした。

「すみません」

「あの、ごめんなさい」

 二人で謝るとおっさんは頭をなでていた。

「…いや、いいんだ。十年ぶりだぜ、こうやってちゃんと謝った客がいたのはよ」

 決行頻繁にぶつけられるのだろうか。

「ま、いいや。これ持っていけ」

 おっさんはそう言うと春成さんに熊を渡す。

「え」

「後頭部に…ほれ」

 其処には『熊』と書かれていた。成るほど、ある意味仕掛けだ。

 くだらねぇ…。

「これに気付いたと思う奴は俺が目を合わせてじっと見るんだ。するとどうだ、やっこさん、俺に手を出してこないのさ」

 そりゃあ、仕掛けに気付いてもこんなおっさんがじっと見てくるんじゃ狙いも付けられないだろう。

 とりあえずおっさんにもう一度謝って二人でその場を後にする。

「もらっちゃっていいの?」

「うん、元からあげるつもりでいたから」

 それに、その熊をみるとあのおっさんを思い出すから要らないよ。

 その後も二人で夏祭りを楽しんで…綿飴や、たこ焼き、焼きそば、リンゴ飴、チョコバナナ…春成さんが俺の財布を食べているように見えた。結構、入れていたつもりだけれど残りが五百円である。

 残りは花火大会である。

 これまた綺麗で、人が多かったが…迷子にならないようにと春成さんと手をつなぐ事ができた。

「うっわー」

「綺麗だね」

 そろそろ夏祭りも終わる。俺は今後の夏休みについてやっぱり春成さんと別行動を取ることにした。

 春成さんと一緒に宿題を終わらせたら一緒に遊びに行くもんだと思っていたからなぁ…まさか、殆ど出ずに勉強で久しぶりの遊びと言えば夏祭りだ。

「あのさ、春成さんに話があるんだ」

「どんな?」

 花火も終わって俺は人の少なくなったその場で春成さんに言う事にした。

「えーっとさ、これまでずっと勉強してたじゃん」

「うん」

 まだ春成さんは気付いていないようである。

「明日から、別行動したほうがいいような気がしてね」

「え…」

 凄く驚いた顔をされた。こういうのに弱い俺はすぐさま取り繕うように話を続ける。だって、驚いた後に何だか泣きそうな顔をするんだもん。

「あ、いや、ほら、俺ってば春成さんに勉強を聞いてばっかりだから勉強好きな春成さんの邪魔になってるって思うんだ。それにね、最近は春成さんの家ばっかりでご飯まで用意してもらってもん。やっぱり、迷惑だよね」

 こうやって俺の方が悪者、お邪魔虫っぽくしていれば大丈夫なはずだ。そうだよねー、ちょっとは迷惑かも知れないって悩んだ後に言って、それでおしまいだ。ちょっと寂しいけど、これでいいはず。

「ううん、そんな事無いよ!」

 即答で来たよ…。

「そ、そう?」

「だから、また明日から一緒に勉強しよう?」

 いまだに繋いでいた手をぎゅっと握りしめられる。上目遣いで、ちょっと上気しているその顔は可愛かった。

「う、うん」

 し、しまった…春成さんを見てたら押し切られた。

 どうも、俺は流されやすいタイプのようだ。ただまぁ、その後に春成さんが満面の笑みで…

「これからもよろしく」

 と言ってくれたから良しとしよう。


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