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第十九話:お尻がむずむずする

第十九話

 秋口さんや和也と夏休みは遊びまくっている。宿題?なぁに、とりあえずノルマはやった…勉強のノルマなんて自分が必要だって思うぐらいやっとけばいいんだよ。

「遊園地に水族館、動物園、植物園、市民プール、海、公園、ハイキング、バイキング、草スキー、山登り、図書館とか頑張りすぎだろ俺ら…」

 もう行くところなんて無いよ。夏を堪能しすぎたよ…肌とか小麦色に焼けているし、和也にいたっては真っ暗だ。

 だがしかし、まだ夏休みは半分残っている。宿題もそれなりにある。

 ほぼ毎日遊んでいる秋口さんと和也であるが…秋口さんの家に行った事はあるものの、和也の家には実は行った事が無かった。

 和也自体が一人暮らしをしているからそっちには行った事がある。だが、どうやら実家もいたって近い場所らしいのだ。

「俺、おまえの家に一度行ってみたいよ」

「え?別におれはいつだって構わないよ」

「いや、実家のほうだ」

「ふむぅ」

 大体こんな感じ。それを聞くと秋口さんは何だか焦った様子で笑っているのだった。和也がいない場所で、もしかして和也の家に行った事があるんじゃないかと尋ねると頷かれた。

 俺が駄目で、秋口さんがオーケーとかどういう事だ…そうか、つまりはそういう事か…友達同士なのにそう言うのを内緒にするのはちょっとだけ寂しいもんだと思ったのも一週間前になる。

 久しぶりに和也と二人だけで遊んでいると(図書館で楽しい楽しい宿題)、唐突に和也が真顔でこっちを見てきた。

 男二人で勉強するだけでむずむずしてるのに辞めてほしい。

「なんだ、どうした。そんな真面目な顔して…告白でもする気か」

「あ、ああ。よくわかったな。実はそうなんだ」

 何それ。夏休みの友も終わって無いのに夏休みに友とうほっとかどういう展開だ。

「マジか」

「…そ、そうだよ。だから、俺の家に…実家の方に来てほしい」

 何で階段すっ飛ばして早速両親に紹介する気なんだよ。お前、秋口さんという彼女が居ながら俺に手を出すとか本当にどういう頭してるんだ。

「……」

「なぁ、頼むよ。一生のお願いだ。お前以外じゃ、駄目なんだ」

「やめて。マジで辞めて。俺は嫌だが、こういうのには段階ってもんがあるだろう。お前が何でそうなったのか…ここで説明してくれよ。幸い、今なら人がいない」

 うるさい司書も今は食事中だ。

「……わかったよ」

 辺りを警戒しつつ(そりゃそうだ、聞かれたら大変な事になるだろう)和也はこっちに顔を近づけるよ。

「ええい!こっちに寄るな」

「は?だって近づかないと話せないだろ」

「小声で話せ。ガッツで聞きとる」

 根性じゃ聞きとれないだろう等とぶつぶつ言いながら和也は小声で喋りだした。

「…おれは幼いころから好きだったんだ」

「待て、お前そんなに小さい頃から好きだったのか」

「あ、ああ…そうなんだよ。その、そういう気持ちを前に出すのが恥ずかしくってさ…」

 それはまぁ、また世間の良識に心を痛めたんだろうなぁ…可哀想に。

「そうか」

「茶化さない聞いてほしいんだよ。茶化したら、勇気が無くなっちまう」

 尻の穴がきゅっと絞まった。そして、尻から後頭部にかけて何かが震えながら移動して行った。

「………最近はほら、紅葉ちゃんとお前と、一緒に遊んでいただろ?」

「そ、そうだな」

「こんなにずっと一緒に居るなんて初めてで、改めて自分の気持ちを整理出来たっていうか…」

 俺はどう言ってやればいいのだろうか。

「冬治には黙っていたけど、実は前から…知ってたんだ」

 え、嘘。俺の事を友達になる前から知ってたのか。俺ってばそんなに前から菊門狙われてたのかよ。そりゃあ、黙っているに違いない。

「紅葉ちゃんとは幼馴染で、ああ見えてわがままなんだ。実は歳だっておれ達より一つ上。だから、うまく友達が作れて…冬治、どうかしたのか?」

「い、いや、気にするな。ほんのちょっとだけ誤解していただけだから」

 なんだ、良かった。

「…………よし、落ちついた。お前がいたって普通だと言う事を知って俺は実に晴れやかな気分になったうほ」

「うほ?」

「俺はてっきり二人が恋人だと思ったけど…幼馴染だったのか。だから、秋口さんがお前の実家の話をすると変な顔をするわけだ」

 これで納得した。

「残念ながら…今はただの幼馴染だ」

「…そうか」

「冬治には悪いと思ってる。でも、冬治をワンクッション入れることで色々と遊びに誘う事が出来る、もっと仲良くなれると思ってお前の友達になってもらったんだ」

「あーなるほどな」

 だからあんなに必死だったのか。

「……冬治に、手伝ってほしいんだ」

「手伝う?」

「秋口さんに告白したい。だから、今度遊びに行くときは風邪をひいて休んでほしい。お願いだ、結果がどうであれ…おれは、彼女との関係をうやむやに終わらせたくない」

 久しぶりに必死な顔を見た。ここまで頼まれては友人として…いや、親友として断れない。

「わかったよ。風邪をひいたふりをして休めばいいんだな?」

「いや、ダメ。そこは本当に引いてもらいます」

 何故に敬語だ…。

 その晩、見事に風邪をひきました。いや、引かされました。

 たとえ、夏とはいってもあれだけかき氷を食べて滝に打たれていれば風邪もひくさ!

 和也が告白したであろうその日の夕方、寝込んでいると奴から電話がかかってきた。

「駄目、だったよ」

「……」

 俺の努力は…何なんだ。

「おれ、泣きたいよ」

「俺が泣きたいわい!」

 風邪をひいていなかったら、少しは同情していただろう。ここまでやらせておいて結果が『駄目だった、泣きたい』とか元気だったら一発殴らせてほしかった。


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