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第十八話:妹の秘密を知った時

第十八話

 学園生として夏休みの宿題はきっちりやっておかねば成らぬ。

 やらなかったらどうなるか…何と、この学園では停学処分が下されるのだ。

「ふぅ…」

 二年にもなればこの状況になれる。何せ、二週間に一度ある検査日に指定ライン終わっていなければ部活はおろか、下校すら許されない。

 最悪特別合宿が行われるそうだ。実際にこれを受けて帰ってきた人間は人が変わってしまう…らしい。

「兄さん、此処を教えてください」

「あいよ」

 宿題は嫌だ。でも、人が変わってしまうのは非常によくない。

 勉強サイコー!宿題万歳―!等と叫ぶようになったら俺は終わりだと思ってる。

 とりあえず、宿題をすぐ終わらせるなんて無謀な事はせずに一定ラインを終わらせるのを目標としている。

 千波と一緒に宿題を終わらせる事一週間…俺はともかく、比較的真面目ちゃんな千波は既に残り三ページとなっていた。

「早いな」

 こちらをちらりと見て千波は微笑んでいた。

「いつも通りですよ」

「何か秘策でもあるんだろ」

「…大した事じゃありませんけど、確かに在ります」

 一体それはどんなマジックだ。去年も、その前も俺に比べたら圧倒的な早さだった。

 去年は絶対に千波より先に終わらせてやろうと家を出て図書館で頑張ったつもりである。所詮、つもりはつもり…なんと、千波は初めて一週間で終わらせたのだ。俺は二週間で終わらせたものの、納得がいかなかったりする。

 是非、夏休みの宿題を早く終わらせる事が出来る理由を教えてほしい。

「…ヒントをくれ」

「AとBがありますけど、どっちにしますか。どっちも、は駄目ですよ」

「…じゃあ、Bだ」

「ヒントは匂いです」

「匂いって…ヤクかよ。やめとけよ」

「違いま…でも、癖になります」

 本当に大丈夫だろうか。心配であるものの、やってはいないと思う。

「この匂いを嗅ぐと心が安らかになって…まだ、がんばろうって気持ちになるんですよ」

「すげぇな」

「落ちつくんです」

 何のアロマだ…羨ましい。そんなに勉強がはかどるのなら俺も貸してもらおうかな。

「…千波、それっていくらだ」

 尋ねると難しい顔をして苦笑いされた。

「お金で買えるなら千波だって安定供給したいですよ」

「…え、やっぱりやばい奴か」

「採集が難しいと言うか何と言うか、説明するのに苦労します。結構なヒントを出してあげましたけれどわかりました?」

 悪戯っ子の表情で聞いてくる。もちろん、答えなんてわからなかった。

「お手上げだ」

「残念ですね…多分、これからもわからないと思いますよ」

「おせーて」

「駄目です。多分、教えたら千波の人生が滅茶苦茶になります。もう二度と兄さんと会えないかもしれません」

 本当にさびしそうに言っている千波を見るとやっぱりやばい薬なんじゃないかと思う。

「多幸感があると?」

「はい。嗅ぎ過ぎると思考能力が失われます」

「外国から輸入してる?」

「いえ、日本製です」

 もしかして千波の家の家庭菜園で麻のつく何かを育てているのかもしれない。

「えーと、千波」

「なんですか。答えなら教えてあげませんよ」

「いや、答えはいいんだ。何か不安に思っている事とかあるなら…俺でよければいくらだって話を聞くぜ」

「……」

 きょとんとして千波は俺を見ていた。ただ、それもほんのちょっとだけ。滅多に見る事の無い千波のきょとん顔は次の瞬間、生まれて初めて見る変な顔になった。

「その表情はどういう答えだ」

「…敢えて言うのなら『兄さんが言うな!』ですかね」

 つまり、俺は信頼されていないと言う…事だろうか。

「そういう見当違いな事を考えるところです!」

「えぇっ」

 一瞬心の中を見透かされたのかと思った。

 その晩、いつものように風呂に入ろうとして気が変わる。

「今日はアヒルちゃんと遊ぶか」

 いい歳こいて『お風呂でアヒルちゃんと遊ぶ』なんて誰にも教えていない趣味だ。俺だって変だとは思っている…でも、辞められないのだ。

 湯船に浮かべて尾羽ねを突いたり頭にのせたり、色々と遊べるのだ。それがもう、楽しい。他人に理解してもらわなくて結構、これは俺だけの楽しみだ。年季の入った俺専用アヒルちゃんはいくら金を詰まれても売らない覚悟がある。

「思い出はお金で買えないからな」

 親にも知られたくないので抜き足差し足で脱衣所から自室へと戻る。気分は忍者、捕らわれの姫様を助けに行くミッションである。

 部屋の前まで来たので別にいつものようにちょっと乱暴な開け方もしていいだろう。ただ、気分が忍者だったのでそのまま忍者っぽく開けてみた。

「…兄さん、好きです」

「……………」

 俺は固まってしまった。

 千波が、千波が、千波が…。

 俺のタオルケットを抱きしめて千波が、そんなことを言っていたのだ。

「千波の方から告白したい…でも、兄さんから言ってくれなきゃ…やだ」

 いつもはそんな甘えた声なんて出さない。だから、やたら可愛かった。頭の中からアヒルちゃんが居なくなるぐらい可愛かった。

 でも、間違いなく此処で物音を立てれば…俺と千波は明日から一緒に勉強なんてしなくなるはずだ。

 後ろから抱きしめたい衝動に駆られつつ、俺は部屋から撤退したのであった。


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