表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/46

第十四話:千波の秘密

第十四話

 夏八木千波にとって、夢川冬治と言う男は別に兄と言う存在ではなかった。

 未だに『兄さん』なんてふざけた呼び名を口にするのは癖だった。

 最初から、好きな相手だったのである。一目ぼれ、と言っても問題はないものの、最初に会った時の事など小さすぎて忘れてしまっている。気付けば好きになっていた。

 いつだって隣に居る存在、でも、冬治が千波の事を『妹』とみている為に千波はどうする事も出来ないでいたりする。

 千波にとって、自分の気持ちも大切である。それ以上に大好きな『兄さん』の気持ちを尊重したいのだ。

「…ふぅ」

 本当は色々したいのだ。

 でも、出来ない…一途な気持ちは気付けば歪なものへと変わりつつある事に千波は気付いていた。

「じゃあちょっと友達と遊んでくるから」

「うん、気をつけてね、兄さん」

 窓の向こうから聞こえてくる兄の声に胸の高鳴りを感じずには居られなかった。

 完全に冬治が出て行ったのを確認すると窓を開け、身を乗り出す。閉められた窓に鍵はかかっていない…鍵が壊れているからだ。

 直すように言ったものの『問題ないない』と言って聞いてくれない。だから、いつだって千波はこうして窓をわたり、兄の部屋へ不法侵入を繰り返してしまうのだ。

「兄さんが…悪いんですから」

 鍵を直してさえくれれば、侵入なんて出来ないのだ。もっとも、合いかぎをもらっている為、普通に家に入りこむ事が出来るのだが…。

 部屋に入って布団の上へと寝そべる。

 変な事をしていると自覚しつつ、枕に顔を埋め、抱きしめる。

「……幸せ」

 実に非日常な幸せである。人に知られたら、間違いなく引かれる事だろう…でも、幸せだからそれでいいのだ。

 小さい頃からあっという間に日々が過ぎている。心が成長する事によって気持ちを抑えるのが難しくなっている。それに比例してこういった行為も徐々に悪化の一途をたどっている事を本人は自覚していた。

 自覚していてずるずるとしているのは悪い事なのだが…どうにも止められないのだ。理性では駄目だと思いつつ、窓の向こうにある物を見ると待ったがかからない。

 猫が動くものを見ると反射的に追っかけてしまうのと一緒なのかもしれない。

「…はふぅ…」

 布団の中に寝転がって天井を見る。昔は冬治と一緒に寝ることもあった。さすがに、今は二人で寝ることは無いもののこうして二日に一遍は忍び込む頻度だ。もしかしたら今のほうがこのベッドで寝る回数は多いかもしれない。

 子供の頃から自分の気持ちを隠すのに必死だった…が、羞恥心と言うか、そう言ったものは無かったので肉体的にもべったりだった。

 遊ぶのは当然、晩御飯だって一緒、お風呂も一緒、寝るのも一緒…である。

「お風呂、か」

 お風呂を直に覗くのは断念した。一度、行こうとしたけれども色々想像した結果…突入しそうになった。

 今のところ抑えているが…次なる野望になっている為、覗くのは時間の問題かもしれない。

 ばれたらどうするのか、考えられなかった。それならやっぱりばれないようにするしかない。

「…はぁ」

 ため息が出る。

 何故、子供のころに『結婚しよう』と言わなかったのだろうか。

 どちらかが言ってさえいれば思いだして誘えたのかもしれないのだ。テレビや、マンガ、そう言ったものでの幼馴染はいつだってうまくやっていた。もちろん、物語として必要なことだからそういう設定だとは分かっている。

 今ではそうではないものの、幼いころの千波は本当に接する人が少なかった。両親は忙しかった。友達を作るのも下手だった。ただ、隣に冬治がいるだけだった。

 冬治は常に千波を大切にしていた。

 からかう友人達をねじ伏せ、その存在を認めさせたのだ。足手まといであろう千波を無碍にした事は一度もなかった。何故そうしてくれたのか見当もつかない。聞いても本人もわかって無いようだ。

 小学生の頃は当然一緒、中学に入って一年寂しい思いをして追いついた。近くの学園を勧めたのも千波だ。どこに行ったって追いかけるつもりでいたが、冬治に迷惑もかけたくはない。自然に一緒に居られるような環境に持っていけた時、つい、やったーと叫んでしまった事がある。

「いつまでも待つけど、振り向いて…くれるのかな」

 中学生の時、可愛らしいラブレターを偶然、兄の下駄箱に入っているのを見つけた。それは最悪のタイミング…なけなしの勇気を集めて千波も入れようとした時だったのだ。

 それは冬治の友人がからかいで入れたものだ。しかしながら、中身をみることなく燃やしてしまった千波に知る由は無い。自身のラブレターも一緒に燃やしてしまった。幸か不幸か、冬治も悪戯について聞かされていない。からかいで入れた本人も忘れてしまっている。

「…いつまで持つかな」

 冬治が女子生徒と話している(滅多にないが)と、凄い事になる。それが兄さん度『MAX』ならさしたる問題でもないが、『二割以下』になると漢字書き取りノートに『兄さん』と書き続け、風呂に入っている間に部屋に入り込んだりするぐらいなのだ。

 下手をすると、シャツをもちだしたりする。あまつさえ抱き枕に服を着させたりもする。そして、冬治への気持ちを抑え込むのだ。

 積極的なのか消極的なのか、どっちなのかは分からない。

 これからもこうして色々とやってしまうんだろうなぁと思いつつ、千波は枕に頬ずりをするのであった。

 その気持ちが近々ばれてしまう事になるとは思いもせずに。


春は王道、夏は消極、秋は知らん、冬は我儘で行く予定です。私は夏が好きです。暑いし、海に行けるし、夕立とかサイコー…冬は寒いから嫌です。夏はもっと異常性のある人物にしようか悩みました。自主規制が入ってこの程度でおさまってます、はい。このあとがきを打っている時点で三十話まで終わっていたりします。一つ、後悔していることが…ツンデレを入れたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ