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第十話:千波と林間学校

第十話

 千波にとって俺は兄貴であり、俺にとって千波は隣の幼馴染だ。

 そんな千波と一緒に林間学校へとやってきた。

 正しく言うなら林間学校のメインイベントであろう海へやってきた。

「みろよ、夢川の奴女がいないからって妹分の千波っちゃんと一緒に居るぜ」

「御愁傷様だな。くくく…」

 俺はこの二人が哀れで仕方がなかった。

 何故なら、千波について行けば下級生の女子生徒と会えるのだ。

 ぐへへ…。

「兄さん、締りのない顔はよくないです」

「え、マジで…」

 顔を触ってみるけれども、自分じゃ良くわからなかった。

「嘘です」

「千波、嘘はよくない」

 そういって肩に手を置く素早く振りほどかれた。

「千波の水着姿に欲情するとか…信じられません」

 けだものぉ…とか顔をするな。傷つくわい。

「してねぇよ…」

 いつものやり取りをしながら浜辺を歩いていると複数の女子生徒が走ってくる。

「夏八木さーん」

「あ、夏八木さんのお兄さんだ!」

「夢川先輩もきてくれたんだ!」

 うん、浜辺で色とりどりの水着を着ている女子生徒をみるのは素晴らしいな。

 俺の将来は明るい…ならよかった。

 慕われるのには事情があるのだ。

 千波からはしっかりと釘を刺されており…

「紳士で居てください」

 とまで言われている。

 これはちょっと前に一年女子更衣室を覗いている輩がいると千波に相談されたのでそれ相応の話し合いを主に肉体でしてきたのだ。

 二年、三年生は被害に遭わなかったようでそれはそれでよかった話だ。俺も先生方から感謝されて、こうやって下級生の女子生徒からも尊敬を集めている。

 だけどまぁ、千波は冷ややかだった。

「天狗になっていると悪い女に騙されて、全裸でアスファルトに放置されますよ。それから学園に噂が広まって兄さんなんてゴミ箱行きです。だから、千波の友達と一緒になってもえっちな目で絶対に、みないで下さい」

 とりあえず、『夢』を壊すなとかそう言う事らしい。

 俺もきぐるみの中に人がいた事を知ったら死ぬほど驚いたけどさ。いや、ゴ○リの中に人なんていないけどね。

「お兄さん、あっちで遊びましょ!」

「みんなでビーチバレーやりましょう!」

「ビーチバレーか―」

「…兄さんは千波とだから!」

 まぁ、こうなるだろうとは予想していた。

 千波と一緒だとヒートアップするのだ。俺がじゃない、千波が、だ。どのくらいヒートアップするかと言うとエフェクト付きの必殺技をゲージMAX状態で撃ちまくる。

「きたっ…ここは兄さんじゃなくて千波がっ」

「カットインとか、ばりばりはいってるよ…」

 威力も凄いのだ。

 浜辺を抉り、海面を真っ二つにする程…もはやこれはビーチバレーではない。

「あちゃー、ちなみんが最後のボール割っちゃったよ」

 開始十分で二桁のボールが破裂してしまった。まだ一回戦だ。

「こうなる事がわかってスイカ持ってきたよ!」

 手早く下級生の子たちが準備をしてくれる。一人はスコップを持って穴を掘っている。

「せんぱーい、ここにはいってもらえますか」

 簡単に想像出来た。

 この子たちは、俺の頭をたたき割りたいらしい。

「いいよ、罠だとわかっていても…男は時として穴に挿れたいときがあるもんだ」

 大人しく穴に入り、埋められる俺。

「気分はどうですかー」

「最高さ」

 入って気付いたけどこんなローアングルから眺め放題って特権じゃあないか。下半身が元気になっても砂の中だから苦しいだけで気付かれないし。

「…兄さん大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「でも、木刀なんだけど」

 指差す先には木刀が…素振りしている子は確か…剣道部だったかな。撃ち損じに定評がある子だ。

「やるっす」

 俺の頭に置かれてるスイカと雌雄を決するときがこようとは…。

「誘導役は真面目にやってほしい。これは先輩からのお願いだ」

「いっけー先輩の頭かちわっちゃえ!」

「撃ち損じのみー子、がんばれー」

「ザクロみたいにしてやるっすよ」

「…兄さん」

 そして寄ってくる剣道部少女。しかし、振りあげるたんびに揺れる胸…それをこんな下から見れるなんて…下乳ばんざいって言う人の気持ちがちょっとはわかるかも。

「…すげぇ、ダイナミックなおっぱいだ」

「みー子ちゃん、兄さんの頭はもうちょっと右だから」

 しまった。

「こっちっすね」

 そして俺の近くまでやってくる剣道部少女。

「みー子流奥義はらきーり」

「剣道部はそんな技名を言いながら斬るのかっ」

 振り下ろされた木刀は一直線に俺の頭へ…とは言わず、スイカと俺の頭のちょうど真ん中に当たった。

「しくじったっす」

「…何このドキドキ感。年下にこんなことされているのに胸の高鳴りを抑えられない」

 その後も人を代え、襲ってくる下級生たち。

「しんじゃえー」

「ぱっくりわっちゃえー」

 そんな感じの余り教育によろしくない言葉が聞こえてくる。

 最後は千波の出番だった。

「…行きます」

 目が本気だ。本気で何かを叩き潰す色をしている。

 これまでの子もそうだったけれど、誤差が三センチ程度ってどういう事だ。これは確実に俺か、奴の頭が真っ二つにたたき割られる。

 気付けば俺の公開処刑にギャラリーが集まっていた。

 緊張感と静寂が、この場所を飲み込んでいる。

「あのさ、スイカ割りってもっとワイワイやるものだと思うんだ」

「うっさい」

 外野の声で再び静かになるこの場所。

 十回まわったとは思えないしっかりとした足取りで千波がやってくる。

「…」

 うわぁ、千波の体もやっぱり成長しているんだなぁ…そう思っている俺はいずれ大物に成るに違いない。

 先ほどまでのドキドキはどこへ行ったか、俺はただ安心してその時を待った。

「そこっ!」

「…」

 隣にたたきつけられる木刀は見事にスイカをかち割った。

 そして湧きあがる歓声…よかった、これがブーイングだったら今度から学園にいけなくなるよ。

 砂から出してもらえた俺の隣に、千波がすわる。

「騒ぎませんでしたね」

「そりゃあ、千波だからな。俺が信用してやらなきゃ駄目だろ」

「幼馴染だからですか?それとも、兄だからですか」

 変な質問に首をかしげてしまう。

「なんだそりゃ。俺は俺だからだ」

「……そうですね」

「変な奴だな」

「兄さんほどじゃ、ありません」

 こうして、楽しいひと時は過ぎていった。




 後日知ったことだ。

 あの目隠しは透けていた。

 もし、千波の機嫌が悪かったら…そう思うと身震いがとまらない。


記念すべき第十話ですね。わー、ぱちぱち…。作者なりにぽんぽん頭が出てくる話の順番としては春成、夏八木、晩冬、秋口の順番です。以前言った通り春成は王道目指して頑張っていますので特に考えることもなし、夏八木も特に困っていません、晩冬も行き先は不安ながらそれなりに話をまとめてはいます。秋口が問題です。扱いがとにかく難しい…。まだまだ十話ですが、読んでくださっている方が今後も読み続けていられるよう…そして、なるべく蛇足は出さないよう気をつけたいと思います。

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