「死」が私を分かつまで
「死」を実感できた少女の話。初投稿でござる。
お母さんが、死んだ。
「・・・、」
私は、何か言葉を飲み込んだ。
・・・死んだって、分からなかったんだ。
その時、私は中学一年生で、『死』という物には
本の中でしかない出来事だった。
肉親どころか、近所の住人たちも死なかったのだから、実感がないのだろう。
自分では、そう、思っていた。
「お母さん」
北に頭を向けて、眠っている母の横に寝そべり、
いつも呼んでいた愛称を口にする。
口紅を塗った唇に、水を含んだ綿を入れていて、生きていた時と変わらずに
私に微笑んでいるように見えた。
「・・・お母さん、あのね」
私は、そこで言葉を切った。
・・・父が、すぐ隣の襖の奥で何かぼそぼそ言っている。
私は、自然に耳をそちらに傾けた。
『・・・あいつは・・・た。
あぁ、分かってる。
・・・・・・・・・・平等に。
子供? ・・・あぁ・・・うん』
「・・・、」
怖かった。
父親では無い何かが、そこに居るようで。
「(お父さん、お父さん、お父さん・・・何話しているの?)」
母の、死装束の袖を、ぎゅうっと握った。
腕が、敷かれた布団の上に力なく落ちた。
『・・・ぁ、殺す。
わかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
何かが、ぶちぎれた音がした。
「・・・ぁ・・・、あぁっつ・・
ふぇっ・・・・っく・・」
泣いた。
何故だか分からなかったが。
ぎゅうっと母の袖を握って、もう握り返すことの無い
母の指に、自分の指を絡ませる。
冷たく、すっかり硬くなってしまったその肌は、私の火照った体には
ぴったりだったであろう。
「ぉ母さっ・・・私っ・・・私・・・っ
殺され、る・・・っの?」
もう開かない口。
もう開かない目。
もう開かない指。
「あぁ、こんなところにいたのか」
・・・私に、『死』というものが分かった時に、『死』は、やってきた。
「なぁ、父さんな。
好きな人が居てな?
・・・その人がな、子供はいらないっていうんだよ」
父が、片手を後ろに隠しながら私に近づいてきた。
「母さんには、死んでもらって丁度いいと思った」
とさっと、軽い音がして、父親の股の間から紐が見えた。
「・・・大丈夫、大丈夫」
そいつは、その紐に視線を移してぴんと張らせた。
「痛くないから。
『娘は、母親の死がショックで死んだ』って事に世間一般では
なるだろうよ」
こいつは・・・こいつはっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!
―――――――――私は、もう、この世には居ない。
読んでいただきありがとうございました。
私事ではありますが、趣味の範囲でぼちぼち繋げていきたいと思っております。