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時空の波涛  作者: ELYSION
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第5話 山本権兵衛、動く

新型兵器の開発・量産体制が順調に整ってはいくが、これらは陸軍の独占状態にあり、

一方のライバルである海軍としては、ただ指を咥えて見ているだけなのが面白くなかった。

そんな折、1月15日の初飛行時、一人の海軍士官が現場に居た事を知り、時の海軍大臣・山本権兵衛は、

状況を訊いてみようと、その海軍士官-秋山真之を呼び出した。

召喚された秋山は考えた挙句、島田をはじめとする『あそ』の存在を山本に話した。

海軍の技術革新に熱心であった山本は、秋山の話に興味深く耳を傾け、是非とも『あそ』のメンバーに

会ってみようと決心する。



連絡を受けて、島田は直ぐにやって来た。

二宮飛行機での経営にも携わっているので、割と身近な所に居るのだ。

島田は(うやうや)しく山本に挨拶した後、鞄から厚手の本の様な物を取出した。

架空戦記における定番の超科学品(オーパーツ)であるノートパソコンである。島田はそれを開いて山本に見せる。

画面に表示されるのは、画像や色々な情報-例えば秋山にも見せた日本の今後の歴史や、

列強国と日本の比較データとかだ。山本はそれらを食入る様に魅入った。


「いかがですか? 我々が未来の日本から来た事がこれで信じていただけたでしょうか?」

島田は頃合を見計らって訊く。

「ああ、信じよう」

山本も未だ興奮冷めやらぬ表情で返事をする。

「後日、我らが乗艦『あそ』も御案内致しましょう」

「それは楽しみだな」

「その際には是非、東郷平八郎閣下も御同行いただけると嬉しいのですが」

「なに、東郷をか? 日高(壮之丞)ではなく?

たしかに、君らの示す歴史において、東郷は露西亜との海戦で大活躍しているが」

意外な者の名を聞いて、山本は驚き尋ねる。

「はい、東郷閣下は智謀に富んだ方だと存じてますゆえ」

島田は微笑みながら答えた。



数日後、山本は『あそ』の艦上に降り立った。

これには島田の希望を汲んで、当時佐世保鎮守府長官であった東郷平八郎も同行している。

もちろん秋山も一緒だ。

島田以下、軍装に身を包んだ『あそ』の乗員たちに迎えられた三人は、艦内を詳しく案内され、

その進んだ設備に驚愕するのだった。

そして、三人は改めてビデオを観て、日露戦争の大勝利後、坂道を駆け下りていく皇国の未来に憂いた。


「島田君」

「はい、何でしょうか? 山本閣下」

「君らは我々からすると未来から時間を遡って、歴史を改変する為にこの時代に来たのだよな?」

「その通りです。閣下」

「しかし、このビデオとやらで観る今後の歴史において、我々はよくやったと思える。

大国露西亜を相手に堂々と戦い、しかも勝ったのだからな。

君らがこの時代に来る必要はあったのかね? あるとしても、もっと後の時代でも構わないと思えるが」

「閣下の言われる事はもっともです。

開化して半世紀にも満たない我が国が、清国、次いでロシアと、大国相手に勝ち進み、

先進列強諸国と肩を並べるまでになったのは、閣下をはじめとするこの時代の人々の賜物以外の

何物でもありません。これは我々だけでなく、後世の歴史家が総じて賞賛致すところです。

けれどもこの後の1910年、日本は朝鮮半島を保護国化だけでは飽き足らず、併合領土化してしまいます。

この事によって、本国の国力を傾かせる程に過剰なインフラ整備を行います。

しかし、この努力は、第二次世界大戦における敗戦によって全く無に帰してしまったばかりでなく、

逆に憎悪という矛先となって戦後の日本に還ってくるのです。平たく言えば恩を仇で返される訳です。

ですから、その第一歩となった朝鮮併合を阻止する事が、我々の差し迫った目的となります。

そして、この目的達成の為にはロシアに対して今の歴史以上に有利な条件で勝たねばならない。

その為の準備期間も含めて、我々は西暦1900年という時を選ばせていただきました」

「なるほど。しかし、露西亜にこれ以上有利に勝つのは、難しいのではないのかね?」

「いえ、閣下。我々が加担させていただければ、決して困難な訳ではありません」

「ふむ、随分と大きく出たものだな」

「恐れ入ります。しかし、我々にはそれをやれるだけの自信を持ち合わせておりますから。

それに一言申させていただけば、我々は勝手に歴史を改革して(もてあそ)ぶつもりは毛頭ありません。

ただ、自分たちの歴史を顧みて、この世界における今後の日本が、より豊かで充実したものである様、

微力ながらも協力させていただきたい一途からなのです」

島田の熱の籠もった説得は、山本にも強く伝わった。

彼は東郷や秋山とも目配せして了解を得た後、こう答えた。

「解った。我々も出来るだけの協力を約束しよう」

『あそ』と、秋山を通じて東郷-山本をと繋がるパイプは、こうして意外にも早く完成したのだ。



「ところで島田君、我々海軍も飛行機とやらを用いたいのだが」

山本は当初の目的を切出した。

「それは良い事だと思います。閣下」

島田もその事はかねてより解っていたので、快い返事をする。

「我々が元の世界で属していた海上自衛隊は、大日本帝国海軍を出自とするところであり、

その海軍に協力する事は、この上ない喜びでございます。

けれども、『二宮飛行機製作所』は帝国陸軍の出資により開設した会社であり、

残念ながら、我々の一存だけで勝手に都合を付ける訳にはまいりません」

「ふむ、やはりそうか・・・」

島田に言われ、山本をはじめとする三人には「やはり駄目なのか」という諦観が漂う。

その様子を伺いながら、島田は静かに口を開く。

「閣下、私の口からこの様な事を申すのは心苦しいのですが、一度陸軍に頭を下げて頼んでみては

いかがでしょうか?

来るべきロシアとの戦では、陸海軍が一体となって神国日本を守り切らねばなりません。

反目し合う余裕など微塵もないはずです。

我々の知る歴史の中では、陸海軍がつまらぬ意地の張合いをしたばかりに、

勝てる戦をも落とした事例は、幾度も見られます。

近いところでは、ロシアとの戦いにおける旅順攻略戦を、当初海軍単独で行うつもりが巧くいかず、

結果的に陸軍の助けを借りる事となって、多大な犠牲と時間を要す事となってしまいました。

この世界においては、その様な愚かな過ちを繰返す事は、断じてあってはならないのです」

島田の静かだが強く鋭い物言に一堂も頷く。

「解った。この件は私の方で山縣(有朋 総理大臣)さんや桂(太郎 陸軍大臣)さんと話し合ってみよう。

しかる後に協力してくれるかね?」

「ええ、それはもちろん喜んで。

ところで、その場合、もう一社製作会社を設けられた方が良いと思います。

これは何も新規に会社を興こす必要はなく、既存会社の一部門でも良いのです。

我々は『三菱重工業』が最適と考えてます」

「ほう、三菱をかね?」

先の東郷といい、島田の突飛な提案に山本は驚く。

「ええ、三菱なら元来より海軍との結びつきも強く、設立も容易でしょう。

ただし、間違えていただきたくないのは、三菱を海軍専用にしろという訳ではありません。

あくまでも、二宮と双方の補完用としてです。

この先、製作数が増していけば、二宮一社だけでは手に負えなくなる時もあるでしょうし、

あるいは何かの事故で、円滑に事が進まなくなる時もあるかもしれません。その時を想定してです。

それに二社で切磋琢磨した方が、良い製品が期待出来ます。

繰返して言わせていただきますが、二宮と三菱、双方を陸海軍の意地の犠牲にしてはなりません」

島田が言う事は『二宮飛行機製作所』を史実の『中島飛行機』に置き換えれば解りやすい。

陸海軍はつまらぬ意地の張合いから、同用途の機体でも別々の会社に発注していた事を指している。

海軍の三菱製零戦に対し、陸軍は中島製の隼という具合にだ。

これは少資源少資本の日本としては甚だ無駄な事なのである。



山本らの帰った後の『あそ』艦内会議室。

此処で島田は大きく溜息を吐いた。

その様子を見て千香は笑顔を伴い、彼が嗜好する紅茶を差し入れる。

「御苦労様でした。 艦長」

「ああ、ありがとう。やはり海軍の重鎮たちが相手では、緊張のしっぱなしだな・・・」

「そうでしたか? 一歩も引かぬ立派な態度だったと思いますよ」

「いや、全然だよ」

島田は苦笑いする。

「無理もありませんよ。アドミラル・トーゴー/東郷平八郎といったら、ホレイショ・ネルソン、

ジョン・ポール・ジョーンズと並び、三大提督の一人。我々にとっては神にも等しき存在ですからな。

私なんかは、その神が生身のままそこに座っているというだけで感激ものでしたよ」

片山が同意する。彼だけでない。同席した『あそ』幹部連中は揃って同じ気持だったはずだ。

「さてと、我々もこれでようやく道が開けた事になる。みんな、これからが正念場だぞ!」

島田は己をも鼓舞するかの様に力強く号令を発した。




後日、三菱重工業では、二宮からエンジンの供給を受けて、陸軍とは競合しない機種として

フロート付水上機を製作する事に決まった。

9月17日は私の誕生日だったりしますので、記念にピッチを早めて投稿します(をい


5話を費やして、やっと海軍中枢部に入り込みましたw

当時の連合艦隊の真っ只中に、チート兵器満載の艦隊で現れて、10代の青年司令官が、いきなり天皇陛下に

謁見なんて作品もちらほらする中、随分と地味な展開だと感じるかもしれませんね。

ま、ケチくさい性分なものでorz


日露戦争までまだまだ話数を費やしそうですが、お付き合いいただければ幸いです。

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