第12.5話 尋問
「艦魂だって?」
島田は呆気に取られた様子で志乃に訊く。
「はい。船に宿る精霊の様なものです」
津島志乃は正直に答える。
彼女は『阿蘇』と『三笠』とのランデブー航行時、自分の任務を放棄して勝手に『三笠』に移乗した事を
副長として『阿蘇』を指揮していた岡本千香に咎められ、身柄を拘束、自室待機を命じられたのだ。
そして、『三笠』に乗艦していた艦長の島田が帰って来るのを待って、志乃は、二人によって査問を
受けている最中であった。
「そんな幽霊みたいなのが、この艦に存在するなんて、信じられないわ・・・」
千香は半ば呆れた様に言う。
「でも本当に居るんです。今だって現に・・・」
そう言って、傍らに一緒に立つ艦魂の阿蘇を見る。
「そうだよ! ボクはちゃんと此処に居るよ! それに、幽霊なんかじゃない!」
阿蘇も自分を幽霊呼ばわりされた事で、膨れっ面をして抗議の構えを示すが、
どんな表情をしても叫んでも、二人には見えない聞こえないのでは、意味が無い。
「まあ、岡本副長も待ちなさい。それで津島中尉、この『阿蘇』の艦魂とは、どんなだね?」
「どんなって・・・中学生くらいの女の子です」
「では君は、その中学生くらいの女の子の姿をした艦魂を、何時から見える様になったのかね?」
「何時からと言われましても・・・」
「『阿蘇』がこの世界に来てからか? それとも元の世界に居る時から既に見えていたのか? どちらだ?」
「それでしたら、元の世界に居る時からです」
「ふむ・・・」
そこまで尋問して、島田はしばらく考え込む。
「どうやら艦魂というのは、この世界特有の存在では無く、
津島中尉が見える様になったのも『阿蘇』が時空を越えて、この世界に来たのが原因では無い様ですね」
情報分析に長けた千香が、島田の意図した質問を読み取り、代わって答える。
「そうなるな」
島田も頷く。
「津島中尉、貴方の知っている艦魂は、この艦の阿蘇以外にも居るの?」
「ええ。それでも福井丸や、この前会いに行った三笠程度ですけど」
「貴方が、『福井丸』からの補給予定日に決まって休みを取っていたのは、その艦魂に会う為?」
「は、はい。そうです。すみません・・・」
「そうなのかい? 岡本君」
島田も驚いて口を挟む。
「はい。私は船務長として乗員のスケジュールチェックも行ってますから。
それで福井丸の場合は、どんな艦魂なの?」
「阿蘇よりずっとお姉さんです。歳は20代後半くらい。赤毛をしています。
それから軍艦に宿るのが艦魂で、客船や彼女みたいに貨物船に宿るのが船魂と、仲間内でも区別している
みたいなんです。三笠は阿蘇と同じくらいの歳の女の子で、金髪碧眼でした」
「なるほど、どうやら艦魂たちにも色々と個性がある様だな。
それに、新造してからそれほど経ってない『阿蘇』や『三笠』の艦魂が中学生くらいの女の子で、
船としては老朽船となる『福井丸』の船魂が20代後半となると、彼女たちも歳を取るのだろうか?」
「私もそうだと思いますが、ちょっと阿蘇本人に訊いてみますね」
志乃はそう言ってやや屈み込み、聞き耳を立てる動作をする。
艦魂が見えない島田と千香にすれば、彼女が一人芝居をしている様にも映る。
「本人自身はあまり自覚が無い様ですが、そうらしいです。胸がもっと大きくなりたいと言ってます」
「そうなのか。なるほどね」
志乃を通しての阿蘇の子供らしい言い分に、二人の気持も和む。
「では、もう少し訊いても良いかしら?」
「はい。どうぞ」
「貴方が『阿蘇』の艦魂を初めて見たのは、この世界に来る前だと言ってたわよね?」
「その通りです」
「では訊くけど、彼女がどうして艦魂だと解ったの? 何か私たちと区別出来るものでもあるの?」
「別にそういったものはありません。
阿蘇や福井丸とは一緒にお風呂も入りましたが、人間と何ら変わったところはありません」
「ならばどうして?」
「先程も言いましたが、艦魂の阿蘇は中学生くらいの女の子です。
私が護衛艦『あそ』に乗務する様になってまもなく、甲板で女の子を見かけ、
こんな小さくて幼い娘も乗員の一人なのか?と、不思議に思って声を掛けたら、それが彼女でした。
彼女の方でも、私が見える事に驚いていたのを、今でもはっきりと覚えてます」
「乗員の家族が、たまたま乗艦していたとかには思わなかったの?」
「それは全然です。なにしろ彼女も、私たちと同じく軍装姿でしたから」
「艦魂も軍装姿をしているんだ・・・」
「はい。三笠もやはりそうでした」
「では、もう少し突っ込んだ質問をするわよ。
貴方は、この艦『阿蘇』の艦魂が、この世界に来る前から見えていたと言っている。
この理屈通りならば、他の海上自衛隊の艦船や、それに限らず、客船やフェリーにも船魂が居て、
貴方には、その彼女たちをも見える事になるけど、そのあたりどうなの?
阿蘇以前に、実は艦魂や船魂が見えていたのではないかしら?」
「そうなりますよね。しかしながら、そういう経験は残念ながらありません。
私自身、海上勤務は僅かでしたし、客船とかに乗船した事もほとんどありませんから。
阿蘇にしても、たまたま少女だったので早くに解っただけで、私たちくらいの歳恰好でしたら、
人間の女性乗員の一人にしか思わなかったでしょう。
他の艦では、見えていてもそう思ってしまったのかもしれません」
「たしかに津島中尉の言う事にも一理あるな。
今の時代なら船の乗員は男性に限ったものだが、元の世界においては既にそうではなくなってきている。
君や岡本副長みたいに女性士官の進出も著しいからね」
島田も相槌を入れる。
「はい、そうです。人間と同じ姿をしていれば、見えていても見分けがつきません。
福井丸の様に全裸でしたら話は別ですが・・・」
「『阿蘇』や『三笠』の艦魂が軍装姿だと言ったかと思えば、今度は『福井丸』の船魂は全裸だと
君は言うのかね?」
志乃のこの発言には、二人は度肝を抜かれた。
「ええ、福井丸みたいに貨物船の船魂は、全裸が当り前みたいなのです。
私は差別している様にも思えるのですが、福井丸自身は『自分たちは船に宿りし精霊の眷属であり、
精霊なら裸なのが当然』と、別段気にもしていない様子なのです・・・」
志乃はそこまで言い掛けた後、いきなりはっとなり、島田に勢い良く詰め寄った。
「艦長! お願いがあります!
私をもう一度、『三笠』や『富士』といった戦艦の艦魂に会う機会を設けて下さい!
人間と艦魂が共存出来る方法をずっと考えていたのですが、御二人からの質問で、その糸口がみつかったのです!」
まるまる一ヶ月間、投稿が開く事となってすみません。
寒い事と、他の事に気が散って執筆に集中出来ないでいます。
しかし、このままズルズルといけば、エタってしまう恐れもある為、一発奮起して投稿することにしました。
甚だ不本意な出来ではありますが・・・
お詫びかたがた、本作は新年初投稿と言う事で、おまけ。
『阿蘇』の乗員たちについて白状しますw
名前の種明かしをすれば、黒澤明の名作『七人の侍』およびそれの西部劇版『荒野の七人』からです。
しかし、名前だけしか設定が無かったり、古臭かったりするので、その辺りは適当に捩ってあります。
どの様にかは、下記のリストから各自で判断してみて下さいw
(侍)が『七人の侍』、(荒)が『荒野の七人』の役名と演じた俳優です。
年齢は、この世界に出現時(1900年)のものです。
島田喬一(艦長・一等海佐 32歳)
(侍)島田勘兵衛(志村喬)
(荒)クリス・アダムズ(ユル・ブリンナー/小林修)
岡本千香(副長兼船務長・二等海佐 27歳)
(侍)岡本勝四郎&菊千代(木村功&三船敏郎)
(荒)チコ(ホルスト・ブッフホルツ/井上真樹夫)
幕井七郎(陸戦部隊隊長・一等海尉 30歳)
(侍)七郎次(加東大介)
(荒)ヴィン(スティーブ・マックイーン/内海賢二)
小林久三(航空部隊主任兼技術長・一等海尉 28歳)
(侍)久蔵(宮口精二)
(荒)ブリット(ジェームズ・コバーン/小林清志)
片山兵吾(機関長・三等海佐 45歳)
(侍)片山五郎兵衛(稲葉義男)
(荒)ハリー・ラック(ブラッド・デクスター/森山周一郎)
露本理恵(艦内医・二等海佐待遇 30歳)
(侍)該当役無し
(荒)リー(ロバート・ヴォーン/矢島正明)
未定(航海長か砲雷長)
(侍)林田平八(千秋実)
(荒)ベルナルド・オライリー(チャールズ・ブロンソン/大塚周夫)
津島志乃(通信担当・二等海尉 26歳)
(侍)志乃(津島恵子)
(荒)ペトラ(ロゼンダ・モンテロス)