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時空の波涛  作者: ELYSION
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第11.5話 艦魂・三笠との出会い

「うむ。注意して見ない限り解らないな。航跡(ウェーキ)も、思ったより抑えられているし」

島田は双眼鏡で覗きながら呟く。

「何を覗かれているのですか?」

彼の横に立ち、訊くのは秋山真之である。

「『阿蘇』ですよ。『阿蘇』が、この『三笠』と並んで航行しているのです」

「えっ! 全然見えませんが、本当に『阿蘇』が居るのですか?」

「もちろんですよ。岡本君、『三笠』との距離はどれくらいかね?」

島田は、自分に代わって『阿蘇』で指揮を取る岡本千香中佐に、密かに連絡を入れる。

「距離300です。艦長、秋山少佐と御一緒ですね。この距離なら二人ともいとも簡単に狙撃出来ますよ」

千香はクスリと笑い、『阿蘇』の艦外に備えられた監視カメラをモニターしながら答える。

スクリーンには、千香から島田へ、更に秋山へと答えが伝えられ、それに驚く彼の姿も映し出されていた。


津島志乃中尉は、『阿蘇』CIC内のスクリーンに映し出される『三笠』の全容を見ながら

落着かない気持で、自分の持場である通信席に居た。

艦長の島田が、『阿蘇』を『三笠』と並航させるという考えを皆に打ち明けて以来、

彼女には一つの想いが芽生えていた。それは「艦魂の三笠に会ってみたい」というものだ。

人には見えない艦魂が見える。そんな特技を持つ彼女ならではの想いといえるだろう。

しかし、志乃とて『阿蘇』の乗員の一人。通信担当の任務を遂行しなくてはならない。

特に今回は、『三笠』を敵ロシア艦に見立てての、ある意味予行演習の意味合いも兼ねているのだ。

そんな時に、おいそれと自分の任務を放棄出来ないのは解っている。解っているのだが・・・

「距離100まで詰めましょう。第一、第二砲塔共、『三笠』をロックオン」

現代の護衛艦では珍しく『阿蘇』には1基ではなく2基、主砲である127mm単装速射砲が搭載されている。

艦橋前に雛壇式に設置されたそれらが、一斉に『三笠』を指向する。

もちろん、そこまで接近しなくては撃てない訳では全然無い。あくまでも演習としてだ。

そんな時だ。志乃は堪らなくなって席を立つ。

「す、すみません。ちょっと席を外します!」

「津島中尉! いきなりどうしたって言うの?」

千香をはじめ騒然となる『阿蘇』CIC内から、彼女は駆け足で飛び出していった。

その様子はレシーバーを通して、『三笠』艦上に居る島田にも伝わったらしい。

「岡本君、『阿蘇』で何かあったのかね?」

「あっ、島田艦長。実は通信担当の津島中尉が、突然退席してしまったもので・・・

もしかして、本当にもしかしてなのですけど、何らかの方法で、そちらに向ったのかもしれません」

「解った。こちらでも出来るだけの注意をしてみよう。何かあったら又、連絡する」

「はい。宜しくお願いします」



志乃は『阿蘇』の甲板に出た。目の前には『三笠』の全容が視界いっぱいに広がる。

横から叫び声が聞こえてくる。

「遅いよ、志乃っ!」

見れば、軍装姿の少女が不満顔で志乃を睨んで立っている。艦魂の阿蘇だ。

「ごめんごめん。出てくるのに手間取っちゃって。直ぐに転送してくれる?」

志乃は言い訳をしながら、髪を短く結い直す。女性だと簡単に解らなくする為だ。

「言われなくても解ってるよ!」

阿蘇はぶっきらぼうに答え、彼女を抱える。というより、志乃に抱き着くといった表現が正しそうだが。

とにかく身体を一つにした二人は、光に包まれて消えた。


二人が再び姿を現したのは、『三笠』の甲板上だ。

そして急いで甲板構造物の物陰に隠れ、いきなり出現した事を見られなかったか辺りの様子を伺う。

幸い大丈夫な様だ。

この様に艦魂/船魂には、宿りし船同士を自由に往来出来る転移能力がある。

これは、艦魂単独でも人間を伴ってでも可能だ。但し艦魂が見える人間に限ってという条件が付くが。

そして転移出来る距離も(おの)ずと限りがある。人間を伴えば更に短くなる。

とはいえ、一個艦隊分程度の相当広い範囲での移動が可能なので、必要充分と言える。

「三笠の居場所は解る?」

「ちょっと待って!」

志乃に言われ、阿蘇は瞑想するかの様に目を閉じる。

艦魂同士、波長を察知し合うのだろう。大まかに相手の位置が解るのだ。

そして次の瞬間、阿蘇は目を見開き、元気に叫ぶ。

「解った!」

「何処なの?」

「上っ!」

阿蘇は、空を見上げるかの様に首を傾け、指差す。

「上って、もしかして・・・」

「そっ! マストのてっぺん! 行くよっ!」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」

志乃が制止するより早く、二人は再び光に包まれた。



「何だ! お前たちは!」

彼女は、いきなり現れた二人の人影に、驚きと怒りの声を上げる。

「ボクは『阿蘇』の艦魂の阿蘇。そして、こっちは・・・」

「そ、それより、こんな狭くて高い落着かない場所じゃなくて、も、もっとゆっくり話しが出来る、

誰も居ない場所に下ろしてよっ!」

阿蘇と志乃の二人が現れたのは、マストに設置された見張所だった。

三人も居れば狭苦しく、しかも目も(くら)む様な高所と知って、志乃は半狂乱になって叫ぶ。

「わ、解った・・・」

さすがの彼女も志乃の勢いに押され、三人は一つの光となって消えた。


「此処なら大丈夫だと思うが・・・」

転移を重ねる事三度。三人が現れたのは、今はまだ空き室となっている士官個室の一つだった。

「では、もう一度問う。お前たちは誰だ?」

『三笠』の艦魂だと思われる女性、いや、少女は、二人を睨みつけながら訊く。

そう、彼女は阿蘇と同じくらいの歳端も行かぬ少女の容貌をしており、軍装でその身を固めていた。

ただし、その腰の先まで届く髪の色は、金砂の如く華麗かつ流麗なプラチナブロンドであり、

二人を見据える眼は淡い青色をしている。

「だから、ボクは護衛艦『阿蘇』の艦魂である阿蘇。

そして、こっちがボクが宿る『阿蘇』の乗員の一人である津島志乃だよ」

「『阿蘇』? 護衛艦だと? その様な(ふね)が日本に在るとは、私は聞いておらぬ。

それから、津島志乃と名乗る人間の女。お前には私が見えるのか?」

彼女は尊大な口調で二人に訊く。容貌こそ阿蘇と同じく少女の成りではあるが、

その様な口調で話しても決しておかしくない崇高さを、小さな身体から漂わせている。

「貴方のそれらの質問には、私が答えるわ」

落ち着きを取戻した志乃が、相手を睨み返しながら言う。

「その前に答えて。貴方はこの戦艦『三笠』の艦魂なの?」

「いかにも。私は艦魂の三笠だ」

彼女は平然と答える。

「分かったわ、三笠。では答えるわ。私には貴方が見える。たぶん貴方の仲間となる艦魂も含めて全て。

そして、貴方が『阿蘇』を解らなくて当然なの。今から120年近く後の未来から来た(ふね)なのだから」

「では、120年も先の時代の者が、何故わざわざ私に会いに来たのだ?」

「端的に言えば、貴方にお願いに来たの」

「どの様な事を私に望むと言うのか?」

「私たち人間と貴方たち艦魂が、協力し合える事をよ」

「これは又、酔狂な事を言われるものだな。

志乃、貴方以外には見えぬ我々に対し、人間はどうやって協力してくれると言うのだ?」

「具体的には、私もまだ解らない。

ただ、三笠。貴方だって軍船(いくさぶね)に宿りし艦魂として生まれてきたなら解ると思うけど、

このままでは、貴方たちを知らない人間たちによって無茶な戦いを()いらされ、艦を沈められた挙句、

無念の死を迎える事だって充分ありえるのよ。

嫌がったところで、宿りし艦を動かす事も出来ない貴方たちは、どうする事も出来ないのだから。

その点、お互いを認め、協力し合えれば、双方にとって随分有利になると考えられるわ」

「たしかに志乃、貴方の言う事は間違っていない。しかし、所詮は絵空事に過ぎない。

先にも言った通り、人間は見えない我々を信じるとは到底思えない」

「尊大な態度を取る割には、簡単に諦めるのね。

私は人間と貴方たち艦魂の橋架け役になろうと思っているのに」

志乃は、自分でも驚くほど堂々とした態度で、三笠と向き合う。

「ほう、では訊くが、私は具体的に何をやれば良いのだ?」

「今、私が言った事を、これから会う貴方の仲間に伝えて。貴方の5人のお姉さんをはじめとするね。

貴方は、連合艦隊旗艦となる艦に宿りし艦魂なのだから、きっとみんなも耳を傾けてくれると思う。

今はそれだけで()いわ。いずれ又、私も貴方たちに会いに行くから」

「分かった。それだけで良いのなら、伝えておこう」

「宜しくお願いするわ。それから、貴方たちが貨物船の船魂を軽視する件なんだけど・・・」

そこまで言い掛けた時、阿蘇が志乃の袖を引っ張った。

「どうしたの? 阿蘇」

「『阿蘇』が『三笠』から離れていくよ。戻らないと・・・」

「えっ! 大変! 並航が終わったのね。急がないと。続きは又いずれ・・・」

「ああ、だけど過度な期待はしないでほしい。

私も、その阿蘇という艦魂を見る限り、未来から来たとはいえ、たかが知れてると思っているがな」

「ちょっと! 言わせておけば、その態度はいったい何っ? お高くとまっちゃってさ!

いいよ。いくらでも相手になってやるから!」

「ほら、阿蘇もいちいち挑発に乗らない事! 今は戻る事が先決でしょ!」

志乃は憤慨する阿蘇を(なだ)め、三笠の元から離れると、『三笠』の甲板へと転移した。

そして、『阿蘇』へ転移しようとした矢先、いきなり腕を掴まれた。

ぎょっとして見上げると、見覚えある顔があった。艦長の島田だった。

「津島中尉、どうして君がこの『三笠』に居るのかね?

『阿蘇』に居るはずの君が、どうやって此処に来たのかね?」

「あ・・・ああ・・・それについては・・・後で話しますっ!」

問質(といただ)そうとする島田を振り切ると、志乃は阿蘇と共に消えた。

あとには呆然とする島田が残された。

しかし、志乃も無事逃げられた訳では無い。

待ち構えていた千香に捕まり、『三笠』から戻って来た島田と二人して、厳しく尋問されるのである。

忘年会とかに時間をとられ、やっつけ仕事で書き上げたので、相当荒っぽいものとなってしまいましたorz

いずれ、加筆訂正する事になると思います。


前回で想像がついた方もいるでしょうけど、艦魂の三笠が登場です。

艦魂のヒロインというと、新しくは大和、古くは三笠と、決まっている様ですが、

当方の三笠は、かなりの堅物となってしまいました。

これから作品内番外編も、一挙に展開が加速すると思います。お楽しみに。



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