種子
世間は今日も騒がしかった。
SNSのタイムラインを開けば、誰かが何かに怒っていて、誰かが何かに酔っていて、誰かがただ見栄を張っている。
コメント欄は嘘と誇張と揚げ足取りの海で、流れる文章はどれも同じ味しかしない。
毎日同じ顔ぶれが同じ争いを繰り返し、同じ自己顕示に酔っている。
馬鹿だ。
そう思いながら僕はスクロールを続ける。
「炎上したら勝ちだ」なんて、どこかで誰かが笑っているのだろう。
僕には理解できなかった。
他人の評価に振り回され、悦に入る大勢の人間たちのことを。
でも、ふと気づくと画面の向こうで笑っているのは、他人じゃなく自分かもしれない――
いや、違う。
僕は違う。
少なくとも今はまだ、こんなくだらない騒ぎに巻き込まれるつもりはない。
指先が止まった。
そこには例の動画があった――巨大な花の前に立つインフルエンサーの顔。
第一印象はいつも通り派手で騒がしい。大声で笑い、テンション高めのポーズを決める。
コメント欄は既に荒れていて、いつもと同じ光景だ。
「これを批判しろってか……」
小さく呟く。
上司からのメールを開く。件名は短く、無骨だ。
「例の動画、適当に記事にしておいてくれ」
……やっぱり来たか、と僕は小さく息をつく。
つまらない仕事だ。
くだらない動画を正すための記事を書く――そんな仕事に熱意が湧くわけもない。
「生態系を守るため」などというのは建前で、ただの言い訳だ。
社会のため? 自分のため? どちらでもいい。
適当に書けばいいだけの話だ。
PCの前に座り、記事を書き始める。
動画を確認し、コメント欄をざっと眺める。
怒りも嘲笑も、別に感情を揺さぶるほどではない。
ただ、文字を打つ手は止まらない。
退屈で、つまらなくて、面倒な作業だ――それだけだ。
次の動画の通知が届く。
タイトルを見ると、同じインフルエンサーの投稿だ。
前回の騒ぎの続きか、新しい挑発か――どちらにせよ、仕事だ。
少し眉をひそめ、僕は画面を開く。
……まあ、記事のネタにするだけだ。
そんな淡々とした気持ちで、再びスクロールを始める。
僕はため息をつき、キーボードに手を置く。
仕事の延長として、動画の内容を整理し、記事の要素にまとめるだけだ。




